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【西村宏堂の言葉】教えの本質は「人はみな平等である」ということ。 LGBTQの僧侶だからこそ、耳を傾けてくれる世界中の人に伝えたい!

LGBTQ活動家、アーティスト。「着飾ることが大好き!」と言いきる西村宏堂さんの、もう一つの顔が「僧侶」。“ハイヒールを履いたお坊さん”としても有名になりましたが、そもそもなぜ僧侶になったのか?今回はその経緯や、「人はみな平等」という教えに対する西村さんの思いについてです。

 

私の実家はお寺。でも、子どもの頃は「お坊さん」を毛嫌いし、「なぜ、お経をあげるんだろう?」と思っていました。両親から「寺を継ぎなさい」と言われたことは一度もないし、私自身、「お坊さんになりたい」と考えたことがなかったんです。

 

でも、寺に生まれながら、その選択肢を切り捨ててしまうのはもったいないし、仏教について何も知らずに『嫌い』というのは違うかなと思うように。というのも、ピアニストの母が「モーツァルトが嫌いと言うのであれば、モーツァルトの曲をしっかりと勉強して、弾けるようになったうえで、『ここが気に入らない』と具体的に言えなければ、無知な人が食わず嫌いをしているようなもの」と話していたのを思い出したからです。

 

「『人はみな平等』と伝えられるなら、着飾っても問題ない」と師から言葉を

 

仏教って、どんな教えなんだろう?まずは「お坊さん」の修行をしてから、どうするかを決めよう。そう考えた私は、まるで“スパイになって潜入するかような気持ち”で、僧侶の修行をすることを決意しました。

 

日本人って、慎ましさや礼儀正しさ、堅実なところが海外で褒められることが多いですよね。それらを修行によって高めることができたら、日本人が海外でもっと評価してもらえるんじゃないかな、自分自身が進化できるんじゃないかなって。そういう思いもありました。

 

当時の私はロングヘアにあこがれていたので、髪を剃るのは勇気がいりましたけれども、メイクの師匠に剃ってもらったら、仲間たちから「すごく似合う!」と言われて。前髪の生え際のラインがまっすぐで、われながら「素敵だな」と、剃った状態がしっくりときたんです。

 

LGBTQ活動家、僧侶、メイクアップアーティスト西村宏堂さん

©Ibuki

 

そうして修行を通して僧侶になることを決意したわけですが、修行中に「装飾品をつけてはいけません」という項目を見つけたときには悩んでしまいました。私はメイクをするし、キラキラしたものを身につけることが大好きなので、そんな私が「お坊さん」になってもいいのだろうか?って。

 

また、浄土宗の作法には男性と女性によって違いがあります。「男性でも女性でもある私」は、どちらの作法が従うべき?私と同じような人に対して、どうアドバイスしたらいいんだろう?とモヤモヤした気持ちになりました。そこで思いあまって、指導員の先生に相談したのです。

 

すると修行を終える最終日に、私がとても尊敬している先生が答えてくださいました。「『どんな人も、人はみな平等に救われる』というのが浄土宗の教えの本質です。その教えを多くの人に伝えることができるのならば、セクシャリティは関係ないし、キラキラしたものを身につけても問題ないと思います。作法は教えの後にできたものなので、男女どちらのものでもかまいませんよ」と。その瞬間、私の心のモヤモヤが一気に吹き飛びました。

 

「僧侶は質素な格好をすべきである」という刷り込みがありますが、仏教学者でもある私の父が「観音菩薩は冠(かんむり)をつけている。仏教には多様な教えがあって、『質素でなくてはいけない』とか『こうでなくてはいけない』と決めつけるのは偏たった理解なんだ」と教えてくれました。観音菩薩の絵や仏像を見ると、美しく着飾っていますよね。それに、あまり知られていませんが、華厳経というお経には「ボロをまとっていては、人々は話を聞いてくれないだろう。私のような菩薩になりたいのであれば、あなたの身なりを飾り立てよ」という一説があるんですよ。

 

宗教によって差別を受けているLGBTQの心を支えるサポートをしたい

 

以前は「なぜ南無阿弥陀仏と唱えるんだろう?」と思っていました。でも、仏教を学んで修行を経験し、「お経を唱えることが人の心の支えになる」と理解できた気がします。宗教を心の支えとする人が存在するから、この世に宗教がある。だからこそ「南無阿弥陀仏」という言葉があり、お経を唱えることで心の安定を得られる人たちがいるんです。

 

私は今では、自分がLGBTQであることを恥じることなく、胸を張って生きています。そして、仏教の教えの中でも「人はみな平等に救われる」「自分のことを信じて生きていく」というメッセージが素晴らしいと思っていて、すごく好きなんです。

 

ただ、世界にはさまざまな宗教があり、「同性愛者を否定する教義」に苦しんでいる仲間たちもたくさんいます。ほかの国の文化を否定するつもりはありませんし、宗教の勧誘をするつもりもありません。ただ、宗教によって苦しんでいる人たちに「仏教の教えには『人はみな平等に救われる』という言葉があるんだよ」と伝えて、人々の心を自由にするサポートができればと思うのです。

 

LGBTQの人たちは、これまで差別されてきた人たちであり、一方、僧侶は尊敬されてきた人たちです。この2つをミックスしたらどうなるんだろう?という挑戦でもあります。

 

「自分には自分のよさがある」と見つけていこう

 

私が中学生のとき、保健室の先生に「年上の人を敬いなさい」と言われ、「どうしてですか?」と質問したら、「そういうものなの!」と言われたことがあります。でも、そうじゃないと思うんですよね。年上の人だけを敬うのではなく、すべての人を敬うべき。私たちが「何となく思い込んでいること」を疑ってみて、「本当にそれでいいの?」「なぜ、私たちはこういう価値観を持っているの?」と、自分自身に問いかけてみる必要があるんじゃないかしら

 

 

例えば「自分はもう若くないから」とか「体形にメリハリがないし、運動もできないから」と自分の価値を下げて考えるのではなく、「人間としての価値に優劣はない」と自分に伝えることが大事。人と比べてしまったらぜひこのことを思い出してみてください。

 

多くの人に目覚めてほしい。「こうでなくちゃいけない」という押しつけに縛られずに、「自分の決断で生きていく」のは幸せなことだと思うんです。これまで「当たり前」と思ってきた固定観念を崩すのは、結構ハードな作業かもしれないけれど、そうすることで、もっと幸せに生きていけるんじゃないかな?「自分で決断して、意味のある人生を生きていきたい」という人たちを、一人の僧侶として、応援していきたいと思っています。

 

お話をうかがったのは

西村宏堂
西村宏堂さん
僧侶
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1989年生まれ。ニューヨークのパーソンズ美術大学卒業後、アメリカを拠点にメイクアップアーティストとして活動。ミス・ユニバース世界大会などでメイクを担当する。2015年、修行を経て浄土宗僧侶となり、現在は、僧侶であり、メイクアップアーティストであり、LGBTQでもある独自の視点から「性別も人種も関係はなく、人は皆平等」というメッセージを発信。著書に「正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ」(サンマーク出版)

 

 

■Youtubeで、西村さんの講話を見ることができます。

全日本仏教青年会全国大会2022特別講演:西村宏堂「本当の多様性ってなんだろう?」
全日本仏教青年会全国大会2022特別講演:西村宏堂「欲は″良くない″って本当?」
全日本仏教青年会全国大会2022特別講演:西村宏堂「イライラしても慈悲の心を持つヒント」

 

取材・文/大石久恵

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