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幸せになりたい!と思ったら、知っておきたいキーワード「幸せの4因子」

「幸福学」の第一人者、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司先生に、40代、50代女性が幸せに生きる道を教わる本連載。今回のテーマは、誰でも幸せのきっかけをつかめるという「幸せの4因子」について。目の前の現実は変わらなくても、4因子がそろえば幸せになれる理由とは?

愚痴ばかりの「嫌なおじさん」が、
人気者の「いいおじさん」に変わったワケ

 

――先生の幸福学を学び、幸せを取り戻した40代、50代の人はいますか?

 

僕のところで学び、実際に幸せになった人はたくさんいますよ。例えば、会社や家族の悪口ばかり言っている50代男性がいたんです。会社では望まない部署に左遷され、実家の母親とも口論が絶えず、妻や子どもたちとも仲が悪いという状況でした。

 

――そういう人は、どこからどう改善していけば幸せになれるのか、まったくわかりません。

 

とてもシンプルなことから始めましたよ。まずグループになって、毎日、自分に対する感謝を書き出していただきました。それを300日続けるワークを行ったのですが、驚くくらい、ものすごくいい人に変わったんですよ。

 

――へえー⁉

 

以前は左遷されたことも会社のせいにして、文句や愚痴ばかり言う方でした。けれども300日後には職場の仲間に対して、「自分も左遷されて苦しかったけれど、みんなも頑張ろうよ」と声をかけることができるようになり、部下からは「◯◯さんが来てくれて、本当によかったです」とまで言われるようになった。そんなことを誰かに言われたのは初めてだとおっしゃっていました。

幸福額_嫌われていたおじさんが人気者に

 

その方、確かに最初は愚痴も多くて話も長いちょっと嫌な人、という感じだったのですが(苦笑)、学ぶ意欲はとても強かったんですよね。おそらく「自分の人生、このままではダメだ」と真剣に変わろうとされていたのだと思います。

「ありがとう!因子」が、感謝とつながりをもたらす

 

――意欲って大事ですね。でも、自分に対しての感謝を300日書くだけで、嫌なおじさんがいいおじさんに変わったのはなぜでしょう⁉ そして、 具体的には自分にどんな感謝をすればいいのかわからないのですが。

 

自己肯定感が低く、自分なんてダメだと思っている人ほど、まずは自分をいたわる必要があるんです。でも自分への感謝という視点を持つことで、自己肯定感や自己受容ができるように変わっていきます。

 

具体的には、「今日も一日大変だったけど、頑張った自分は偉い。ありがとう」とか「風邪もひかずに頑張っている自分の体に感謝!」とか。これは慣れてくると、いくつでも出せるようになります。例えば自分の行動、体や五感、性格など。「パソコンを毎日見ている目に感謝」「頑固かもしれないけど、粘り強い自分には感謝」など、自分のいいところをどんどん探し出していく作業です。

 

私は幸福学の研究結果から、「幸せの4因子」というものを提唱しているのですが、このおじさんのケースでは、4因子のひとつ「ありがとう!因子」という、感謝とつながりの因子を身につけたことが幸せのきっかけになったのです。

 

――幸せの4因子とは、日本人1500人の男女のアンケート結果から解析、導き出した幸せを構成する4つの因子のことですね。「やってみよう!」「ありがとう!」「なんとかなる!」「ありのままに!」の4つである、とご著書で知りました。

 

そうです。先のおじさんは、まず自分の感謝から始めて、グループワークを行ったことで、他者への感謝も生まれました。「他者への感謝を10倍にしましょう」というワークも同時に行うのですが、「手伝ってくださってありがとうございます」とか、「あなたは献身的ですね」とか、心をこめて感謝することをとにかく続けてもらいます。自分に感謝をすると自分が元気になり、他者に感謝をすると他者が元気になる。すると、おのずと人間関係はよくなっていくんですよ。

よい孤独「ソリテュード」と
悪い孤独「ロンリネス」の違い

 

――感謝のワークをグループで行う、というところにもヒントがありそうですね。「ありがとう!因子」は、感謝のほかにつながりも生み出すものですし、他者とつながることで、「やってみよう!」とか、仲間がいることで「なんとかなる!」「自分らしく!」と、ほかの因子にもつながっていく気がしました。

 

そうですね。やはり孤独は、幸福度を下げてしまうことが研究でもわかっています。ただ、一人で何かをすることが好きで、進んでその時間を楽しんでいるような人は別ですよ。それは、幸福学では「ソリテュード」と呼び、むしろ幸福度の高い人に当てはまります。

 

けれど、「自分は社会生活が苦手だから、人と話したくない」「何もやる気がしない」と引きこもってしまう人は、同じ孤独でもあまり幸せではない「ロンリネス」です。今、後者の状況にある方には厳しい言い方になってしまって申し訳ないのですが…。引きこもりを生物学的に言うと、「一人で誰ともつながらず、じっとしていろ」と、脳が自分で自分に指令を出しているような状態と言えるわけです。

 

――同じ孤独でも、例えば老後一人で楽しい時間を過ごせる人と、寂しいと感じてつらくなる人の違いはありますよね。前者であるためには、やはり意識的に、幸せの因子を増やしていくことが大事ということでしょうか。

 

そうです。だから自分に感謝、他者に感謝というワークも、最初は無理やり始めるのでもいいんですよ。

 

――疑心暗鬼になりがちな40代、50代は、多少無理やりのほうがいいかもしれません(笑)。

 

「そんなことでホントに幸せになれるの?」と思いながらやってみてください(笑)。幸福であるためには、そうやって意識的に気をつける習慣をつけていくことがポイントですから。するとだんだん「やってみよう!」と元気になっていくし、「何とかなる!」と思えてチャレンジもできるようになる。チャレンジできれば、困難に打ち勝つこともできますよね。「ありのままで!」もそうです。個性を生かしたほうが、ずっと自分らしく幸せに生きていけますよね。

 

「ありがとう!」から始まって、「やってみよう!」「何とかなる!」「ありのままに!」と力強く生きてみるほうが、人はやっぱり幸せです。一人じっとして、「やる気もない、個性も強みもない…」といじけている限り、人はどうしても不幸せになってしまうんですよ。

 

【教えていただいた方】

前野隆司
前野隆司さん
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授兼武蔵野大学ウェルビーイング学部長
公式サイトを見る
Twitter

1984年東京工業大学卒業、86年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社入社、カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、慶應義塾大学理工学部教授、ハーバード大学客員教授等を経て、2008年より慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。2024年より武蔵野大学ウェルビーイング学部長兼任。研究領域は、幸福学、イノベーションなど。

 

イラスト/midorichan  取材・文/井尾淳子

 

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