この店のために水戸に来たい~絶滅危惧種の老舗バー
いきなりですが水戸の夜。ここは、世界の絶滅危惧種ウイスキーが集結する、驚愕のオーセンティックバー『アンバーハウス』。
実は数年前「水戸に、いまや銀座でも風前の灯?だよね、って感じの、貴重な、そしてステキなバーがあるよ」とウイスキー通の友人に聞いて、行ってみたいとグーグルマップにマークしていたのです。
レストランがありそうな、安心感のある通りに面した階段を上ると、いやはやほんとうに聞きしにまさる別世界でした。
店内、所狭しと並ぶ、スコッチ、スコッチ、そして愛するライウイスキーやバーボンもずらり。
御覧の通り、壁一面に普通のウイスキーとお宝、入り混じって、ずらーーーーっと!
しかも、壁面に並ぶすべてのボトルの前に、1杯の価格が書いてあるではないですか。例えば、1杯1200円とか1000円とか、ややや安い。
いまではなかなか手に入らない貴重なウイスキーも。マスターがスコットランドなどで買い付けてきた値段がベースの価格だそう。たとえ世の中で、どんどん高価になってもおかまいなしだそう。そう?そうなの?いいんですかーっ。
バーボン好きな私は、エズラブルック99をロックでお願いしました、たしか1000円だった。
マスターは御年88歳。矍鑠(かくしゃく)としたというか、飄々と、今もお店にいらっしゃいます。
聞けばおすすめを教えてくれるし、じゃあ、あれがいい、と奥の棚から出してきてくれたり。神、うんまちがいなくウイスキーの神様だな。
20年?いや30年前?の銀座にタイムスリップした?いや、映画のセットか?と思うような、夢のバーではありますが、銀座のようなピリッとした「お酒に詳しいよね?」とか「バーには流儀があってね」的なハードルと言う名の緊張感は強いられません。だからひとりでカウンターもイケます。
地元のお客さんによれば「僕も親に初めて連れてきてもらったバーがこの店。みんなこの店が原点だからか、水戸にはこういうオーセンティックなバーがいくつもあるんです」とのこと。
ああ、お酒強くないけど、回遊してみたい。水戸には、こんな夜があるんだな。
東京から1時間ちょっと。歴史あり、食あり、ひとり旅にちょうどいい
水戸は、東京から特急で1時間と少し。でも私の周りには「行ったことない~」と言う人が多いのです。
だけど水戸黄門はみんな知っているはず。人生に楽あれば苦もあると、明るく口ずさんじゃった小学生のころ。あなたの水戸黄門が誰か?で世代がわかっちゃうかもしれません。
あの黄門さまのモデルは、水戸藩の第2代藩主徳川 光圀(みつくに)とされています。この方、徳川家康の孫。
水戸藩は徳川御三家の一つで、参勤交代はなく藩主は江戸にいて、万が一の時は将軍を代行する立場といわれていたそうです。あの紋所にみんながひれ伏してすべて解決するのはそんなお立場だったから?
その後、中興の祖と言ってもいいのでしょうか? 学問の都としての水戸をよみがえらせたのが9代藩主徳川斉昭(なりあき)。
彼がつくった藩士のための学問所=藩校がいまも水戸に残る弘道館です。ここは学問と武道の両方を学ぶ学校でした。
斉昭が大切にした思想に「一張一弛」(いっちょういっし)があります。周りの水戸出身者8名に聞いてみたら(調査サンプル少なっ)、なんと全員がこの言葉を知っていました。もちろん私は水戸に行くまで知らなかったデス。
「一張一弛」とは緊張し張りつめた状態があれば、弛みリラックスすることも必要と言う意味。
そこで、彼は張りつめて学問と武道に励む弘道館と、心も頭も身体も弛めて、リラックスする偕楽園をセットで作ったのです。
できればもっぱら偕楽園のほうに入り浸ってずっーと弛んでいたい私ですが、この発想には共感しました。
偕楽園はなぜ梅なのか?
ところで、偕楽園はご存じ梅の名所、毎年2月10日ごろから3月中旬まで梅まつりが開催されます。私が行った日は、6割方咲いているところに雪が舞う日でした。
期間中は幻想的な夜梅会や梅酒まつりなども開催されます。
それにしてもなぜ梅なのか?
ここにも斉昭公の知恵が光っています。
梅は実がなる、つまり食べられる。いざというときの兵糧になるから、梅だったのだそうです。
実にその数3千本ほど(2024年現在)増減はしているもの、梅梅梅。花も団子も、両方欲しい、さすが。
水戸駅から、水戸学の道を通り、弘道館、そして偕楽園へはバスで。徒歩とバスで回れるのもまたよしです。
そばの名産地、モダンな店内で
やや歴女気味なため、じっくり見て、勝手にいろいろ考えて、不覚にもランチを忘れて歩き回ってしまいました。
そこで、早めに夕飯、と、口開けの5時に「手打ちそば にのまえ」さんへ。
まだ他のお客さんがいなくて気後れしません。ジャスがかすかに流れるカウンターで、常陸秋そばをいただきます。
メニューには、「常陸秋そばの最高峰、赤士町(常陸太田市 旧金砂郷村)産、限定20食」とあり、もちろんこれに。
赤土町は、香り高く濃厚な味のそばの生産地として全国的に有名なところなのだそう。しかし高齢化で生産者さんが減ってしまい、こちらでは知己をたどり、特別に赤土町で育ててもらったそばを、この店で粗く挽き、十割で打っているそうです。
「もりそば」は、いわゆるしょうゆベースのコクのあるつゆ、もう一つの「すけもり」はこの店独自の黄金色のだしが利いた澄んだつゆ。これがよく合いました。
そして、そばがとにかくうまし。香りも食感も、口内で景色がひろがるような余韻もある。名だたるそばの産地に一歩も引けを取らないそばのうまさに唸りました。
カウンターと調理場をゆるく仕切る御簾の向こうに見えた鍋が、全て新品に見えるほど、ピカピカに磨かれていたことを付け加えておきたいと思います。
そして、冒頭のバーへ、いざ!
人生ベスト3の朝ランコース、湖と川のあいだ
朝、水戸の駅からすぐの桜川を走る、これは私の水戸の楽しみのひとつです。
桜並木をしばらくすすむと、左手に湖が登場します。このあと偕楽園辺りまで、右に川、左に湖の稀有な道を走れるのです。この湖が偕楽園から見下ろしたあの千波湖。こんな都会のほぼ駅前に、湖がっ!とはじめは驚きました。
春には満開の桜の下、川沿いを走り、千波湖が見えてきたら、様々な花が咲く湖沿いをぐるっと回ることもできます。
右手前方には、偕楽園。こんなコースあり?もちろんお散歩も最高です。
そして朝のコーヒーは、旧議事堂へ。
旧茨城県庁横の旧茨城県議会が、ほぼ建物の内外装を残したまま、県立図書館になっています。
その1階に星乃珈琲店(茨城県立図書館店)があるのです。
ここ、趣のある建物を上手に残した素晴らしきリノベーション物件!県議会が行われていた議事堂もほぼそのまま閲覧室に。御覧の通り、議会がイメージできる並びのママです。上階には、梅並木が見える席もありました。
駅に近い一等地にあった県庁は、まあまあ離れたところへ移転し、趣のある建物はそのまま残し、芝生広場や図書館など憩いの場を作ったのですね、大正解な気がします。
水戸芸術館へ寄って、ちょうどいい1泊2日の旅
最後に、水戸芸術館へ。
亡くなるまで小澤征爾氏が館長を務めていた水戸の文化の発信基地。磯崎新氏の設計によるシンボリックな建物でも知られています。
小澤征爾さんを総監督に迎えた専属楽団「水戸室内管弦楽団(MCO)」の定期演奏会も行われていたので、思い出の写真がたくさん飾られていました。
さまざまなコンサートもあり(4月の矢野顕子さんが気になります!)、それを目当てに水戸に来るのもいいな、と。
帰路は、駅構内、改札からすぐの「いばらき地酒バー水戸」へ。
コイン1枚で茨城中の地酒が飲める?いや試せます。おちょこ1杯を2種類、いただきました。かなり楽しいので、時間に余裕をもって駅へ行きましょう。
ほろよいで特急ひたちに乗るつもりが、いざ席に着いたら、まあまあ酔っぱらってるな私、と気がつきました。
品川到着時間の10分前に目覚ましアラームをセットして、リラックス。奮発して帰りはグリーン(3250円、えきねっとで予約)にしてよかった。
きれいな街をのんびり歩いてまわり、カウンターで最高のそば、初のオーセンティックバーへ行き、川と湖の間を走り、アートからの地酒で〆る。
なんともちょうどいい、よい加減の1泊2日の旅。
水戸黄門さま、よき旅をありがとうございました。また気楽に来ます♪
5回の連載、お読みいただいてありがとうございました。旅のお供になれますように。