かつて漫画の連載を抱えていた時は、新しいアイディアを絞り出すのに大変で、365日苦悩しておりました。
デビュー当時はこの逆で、こんな話もあんな話も描きたいと思ったけど、残念ながら画力と構成力が無くて描けない!!基本的な実力がついてきた頃には、今度は新鮮なアイディアが浮かばない(涙)。おまけに10年20年30年も描いていたら、いい加減ネタがなくなる!!漫画家って、自転車操業という言葉がぴったりの仕事です。
「どうしよう、どうしよう」ともがけばもがくほど、頭の中はただ「どうしよう」だけでいっぱいになって、いいアイディアなんて浮かびません。
「どうしよう」を捨てて頭の中に隙間を作らないと、次のアイディアが湧き出て来ません。隙間っていうのは、空間で何もない、無デス!
無我の境地になった時、いいアイディアが出てくるってわけですね。とはいえ、日々、忙しく暮らしている現代人は、緊張は得意だけど、ゆるめるのが下手な人が多いです。心が緊張すると体も緊張するので、首や肩がガチガチになって…つらいですよねえ。
では、どうしたら、無の境地になれるかというと、自分にとっては簡単で、目をつぶっててもできるようなことを淡々とやるんです。
たとえば、散歩をするとか、料理をするとか、掃除するとか。考えなくても手が勝手に動くような作業をぼんやりやっていると、脳が暇になってリラックスして、アイディアがぽつんぽつんと下りてきたりします。
あと海で波に揺られるのもおすすめですね。私は、故郷が海の近くだったので、子どもの頃は、夏休みの半分は海水浴場で過ごしてました。浮き輪で海に出ていって、どんぶらこ~どんぶらこ~と、波に揺られながら、あ〰️太陽がぎらぎらしてる~、空が青いな~、カモメが飛んでる~…。流れる景色に対して、肯定も反発もしないで脳なしクラゲになった頃に、アイディアが降臨してました。
ゆ~らゆ~ら、ゆ~らゆ~らと波に揺られていると浮遊感があって、気持ちいいんだけど、あれは、たぶん母親の胎内にいる感覚と似ているからじゃないかなあ。
電車に乗っていると眠くなるのは、「ごっとんごっとん」という音が、赤ちゃんが胎内で聞く母親の心臓の音や振動に似ているからだって、前にチコちゃんが言ってたけど(笑)、波も同じ心地よさがあるのでしょうね。
窓ガラスをつたう雨だれの動きや、雨や雪が淡々と海に落ちていく景色。洗濯機の中で回る洗濯物をぼーっと眺めてたり、とにかく変化の少ない似たような情報を淡々と脳に流していくうちに、脳が考えることをやめてしまって無になると思います。
隙間ができてアイディアが湧くか、脳が臨時休業して寝てしまうか、自分で選べないことがこのやり方の最大の欠点でしょうね(笑)。
りぼん1975年9月号表紙
取材・文/佐藤裕美