こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。
全国各地の神社仏閣の旅を中心とした旅情報をお伝えしています。
今回は、奈良 西大寺に800年近く伝わっている興味深い伝統行事、「大茶盛(おおちゃもり)」のお話です。
西大寺は、奈良時代に称徳天皇(聖武天皇の娘さん)によって創建された由緒あるお寺で、当初は東大寺と並ぶほどの大伽藍を構えていましたが、平安中期以降は衰退。鎌倉時代中期に興正菩薩叡尊上人(こうしょうぼさつえいそんしょうにん)という高僧によって再興されました。叡尊上人は、病気の人や貧しい人を救済する活動を行い、このお寺はその拠点として再び栄えました。今回わたしが体験した「大茶盛」は、その叡尊上人が始めた行事で、今も行われ、お参りや観光の方々に大人気です。
現在、西大寺では、毎年1月15日の初釜、春の大茶盛式(4月第2土曜日と日曜日)、秋の大茶盛式(10月の第2日曜日)に大茶盛が行われていますが、今回わたしが参加したのは、現在、東京の三井記念美術館で開催中(2017年6月11日まで)の創建1250年記念「奈良 西大寺展―叡尊と一門の名宝―」の特別イベントです。コレド日本橋3内の「橋楽亭」というところで行われました。
まずは、西大寺の僧侶の方から、西大寺とはどういうお寺なのか、その中で大茶盛とはどんな意味がある行事なのかというお話があります。
延応元年(1239)年1月16日に叡尊上人が、修正会(しゅしょうえ・お正月の特別な仏事)が無事終わったことを感謝するために、八幡神社にお茶を献上しました。大茶盛は、その時余ったお茶を民衆に振る舞ったことに由来する伝統行事です。他で行われるお茶会とは違う特徴は、巨大な茶碗で皆がお茶を回し飲みすることです。
この行事には、大きく言って、三つの意味があります。ひとつは、お茶はお酒の代わりであること。仏教には厳しい戒律があり、本来、僧侶はお酒を飲んではいけません。そこで、酒盛りの代わりに、皆で茶盛りをするのです。二つ目は、当時は高価な薬と考えられており、身分の高い人しか口にすることができなかったお茶を一般庶民にふるまうことで、医療や福祉を広めるという意味。三つ目は「一味和合(いちみわごう)」同じ一つの味をともに味わって、和みあい結束を深めるという意味です。同じ一つの大きな器でたてた同じ味のお茶を、そこに集まった人々が、皆で助け合いながら回し飲みをして親睦を深めるという点に意義があるのです。
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これが大茶盛で使われる器です。大きいだけでなくものすごく重いので、自分で支えきれないときは、お隣の人に助けてもらうしかないのです。
もともとがお正月の行事であるため、お寺で行われる時は、雪をかぶった八幡神社のお社と松が飾られます。これは、この行事が始まった当時の様子を再現するためのものですが、今回は、お寺ではない場所での開催だったため、その写真パネルが飾られていました。
僧侶の方のお話が終わると、巨大なお茶碗で点てられたお茶が運ばれてきました。参加者は10数人ほど、3~4名でひとつのお茶碗から回し飲みします。
茶碗は、高さ21㎝、口径36㎝、周囲107㎝ほど。ただでさえ重いのに、これにたっぷりお茶が入っているのです。茶碗を持てたとしても、お茶が口に入るところまで傾けるのがもうたいへん。周囲の人たちに助けてもらいながら、何とかひとくちだけお茶をいただきました。
最初のうちはかしこまっていた参加者の皆さんも、次第に打ち解けて和気あいあい。茶道というと、流派によってお作法も違うので、いきなり行って大丈夫?と思ってしまうのですが、大茶盛に関しては、そのような心配は無用のようです。なるほど、これが「一味和合」というものなんですね。
三井記念美術館での「奈良 西大寺展」の会期は残り少なくなりましたが、最後の1週間(2017年6月6日~11日)は、仏像ファンの憧れの的の、浄瑠璃寺(京都)の吉祥天女立像もお出ましになります。浄瑠璃寺は、京都と言っても奈良県との県境にあり、交通の便もあまりよくなく、かつ、吉祥天女像は秘仏でご開帳の時期は限られています。まだ吉祥天様にお会いになったことがないという方は、この機会にぜひお出かけください。
創建1250年記念
「奈良 西大寺展―叡尊と一門の名宝―」
http://saidaiji.exhn.jp/
※東京展終了後は、大阪のあべのハルカス美術館(2017年7月29日(土)~9月24日(日))、
山口県立美術館(2017年10月20日(金)~12月10日(日))に巡回します。
西大寺
吉田さらさ
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