こんにちは、寺社部長の吉田さらさです。
今回は、現在、東京藝術大学大学美術館で開催中の、「円山応挙から近代京都画壇へ」という特別展のご案内です。
この展覧会の大きな見どころは、兵庫県香美町の大乗寺にある重要文化財の襖絵群の再現展示です。円山応挙を筆頭に、著名な門人13名が制作した165面もの襖絵がある大乗寺は、「応挙寺」とも呼ばれ、美術ファンの垂涎の的となっています。
実はわたしも、今から30年以上前に、この寺を訪れたことがあります。その時は、冬の日本海でカニを食べるのが目的でしたが、近くにどこかよいところはないかしらとタクシーの運転手さんにお願いして連れて行ってもらったのです。次から次へと優れた襖絵に囲まれた部屋が現れ、予備知識がまったくなかったこともあって、びっくり仰天。京都から遠く離れた海辺の町にこんな素晴らしい寺があるなんてと感激した記憶があります。
大乗寺のサイトはこちらです
http://www.daijyoji.or.jp/main/index.html
大乗寺のデジタルミュージアムはこちら
しかし、正直言って、そのころの襖絵群はかなり破損が目立っていました。これだけの文化財があまりにももったいないことだが、何しろ膨大な数なので、修復費用も莫大になるのだろうと思ったものです。その後、何年もたってから、テレビで、すっかり華麗に生まれ変わったこちらのお寺の様子を見る機会がありました。2000年から襖絵修復プロジェクトが始まり、165面の襖絵を災害や腐食から守るための収蔵庫もできたとのことです。
もう一度このお寺に行って、見事な襖絵群を見てみたいと思いつつ、なかなかその機会は訪れませんでした。しかし、先日ついに、東京藝術大学の美術館で、その一部を目にすることができました。
円山応挙(重要文化財) 「松に孔雀図」 兵庫 大乗寺 東京展のみ:通期展示
通常の展覧会では、襖絵などは壁際のガラスケースの中に展示されることが多いです。が、今回の展覧会では、大乗寺の襖絵が、展示室の真ん中に、お寺で使われているのと同じような形で展示されています。これによって、まるで、実際にお寺に行って拝観しているような臨場感が得られます。手前に大きな空間があるので、下がって後ろの方から見たり、ぐっと近づいて細部を見たりなど、いろいろな角度から鑑賞することもできます。
円山応挙(重要文化財) 「松に孔雀図」部分 兵庫 大乗寺 東京展のみ:通期展示
大乗寺の客殿の仏間前室の16面の金地の襖に、孔雀と松を墨一色で描いたものです。応挙はほかにもたくさんの孔雀の絵を描いていますが、その多くは着色です。一方、この絵は墨一色ですが、不思議に色を感じます。光の当たり方にもよりますが、孔雀は青、松の幹は茶色、松の葉は緑色に見えるのです。それは、使っている墨の種類によって発色が異なるためで、そうした墨の性質の細かな違いまで熟知した上で、応挙はこの絵を描いたのではないかと言われています。
呉春(重要文化財) 「四季耕作図」兵庫 大乗寺 東京展のみ:通期展示
応挙のお弟子さんのひとり、呉春の作品。田園風景の中、農作業にいそしむ人物が描かれたのどかな絵です。応挙が孔雀を描いた「孔雀の間」の右側にあり、「農業の間」と呼ばれています。
大乗寺には、13の部屋があり、165面の襖絵があります。絵の配置により、「仙人の間」を北とみなした立体曼荼羅を構成していると考えられています。応挙はプロデューサーの役割も持っていたのですが、実際にはこちらの寺を訪れてはおらず、お弟子さんたちに設置を託したと言われています。
大乗寺襖絵を360度見渡せるように制作された空間VR(バーチャルリアリティ)を体験するコーナーもあります。スマートフォンでQRコードを読み込むと、襖絵に加えて上空からの大乗寺の風景を閲覧することもできます。こちらに関しては、会場で配られたチラシを持ち帰り、館内以外の自宅などでお試しくださいとのことです。
山跡鶴嶺 円山応挙像 東京展:前期展示
これはお弟子さんの一人が描いた円山応挙像です。応挙は、お弟子さんたちに自分の姿を描かせ、一番似ていたこの作品を子孫に伝えたとのこと。まなざしが穏やかで、優しく温厚そうな人物に見えますね。
応挙が活躍したのは江戸時代中期。当時としては画期的な、実物を写生する写生画を打ち出し、大人気となりました。それまでの日本絵画は、やまと絵か中国画で、既存の手本に従って描く形式的なものでした。そんな中、実際に見たものを生き生きと描く応挙の絵は、まったく新しいものとして人目を引いたようです。
円山応挙(重要文化財) 写生図巻 (乙巻部分)東京展:前期展示
甲巻と乙巻があり、こちらは乙巻。植物や動物を描いた写生図を張り込んで巻物に仕立てたものです。ただ目に見えるものを写しただけでなく、構図も計算され尽くしています。
この展覧会で見られるのは、応挙とその弟子の作品だけではありません。応挙を師とする円山派、そして、もとは与謝蕪村に学び、のちに応挙に師事した松村呉春の門流である四条派の画家たちの作品も展示されます。円山・四条派は明治以降も京都の画壇に大きな影響を及ぼしたため、近代の著名な日本画家の作品も多数見られます。大乗寺の襖絵は会期を通して展示されますが、その他の作品は、展覧会の会期の前半と後半で大きな展示替えがあります。
森寛斎ほか 魚介尽くし 東京展:通期展示
総勢28名の画家たちが、ひとつの画面に魚介類を描いた合作。明治5~6年ごろに制作された、とても興味深い作品です。こちらは前期、後期を通して展示されます。
音声ガイドは声優の波多野渉さん。
大乗寺の副住職、山岨眞應さんによる特別解説も聞きどころです。
オリジナルのミュージアムグッズも充実。応挙は、かわいらしい子犬をはじめとする動物の絵でも人気のため、動物をモティーフにしたグッズが多いようです。
円山応挙から近代京都画壇へ
・東京藝術大学大学美術館
2019年8月3日(土)~9月29日(日)
前期 8月3日(土)~9月1日(日)
後期 9月3日(火)~9月29日(日)
前半と後半は、大幅な展示替えがありますが、大乗寺の襖絵は会期を通して展示されます。
・京都国立近代美術館
2019年11月2日(土)~12月15日(日)
展覧会公式サイト
https://okyokindai2019.exhibit.jp/
吉田さらさ
公式サイト
http://home.c01.itscom.net/sarasa/
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