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ゴッホがゴッホになるまでの 軌跡をたどる展覧会-

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。

 

この秋は、よい展覧会が目白押し。

今回は、その中でも特におすすめの、

ゴッホ展── 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」(東京都美術館で現在開催中~12月12日〈日〉)をご紹介します。

ゴッホは日本人がもっとも好きな画家のひとりですが、

今回は、より若い時代の作品なども時系列で展示され、

ゴッホがいかにしてあの独自の作風を獲得していったかがよくわかる構成となっています。

この写真の右側の女性は、ヘレーネ・クレラー=ミュラーという方です。

資産家の妻であるヘレーネさんは1907年から近代美術の収集を始め、

やがて、クレラー=ミュラー美術館という素晴らしい美術館を設立します。

 

ヘレーネさんは他の画家の作品も数多く収集しましたが、とりわけ、当時まだそれほど評価が高くなかったフィンセント・ファン・ゴッホに注目し、1908年にはじめてその作品を購入。

以来、情熱を傾け、油彩だけでなく、素描や版画も次々に購入し、世界最大のゴッホ作品の収集家となりました。

 

今回の特別展は、このクレラー=ミュラー美術館の収蔵品を中心に構成されているため、

「響きあう魂 ヘレーネとフィンセント」という副題がついているのです。

 

 

今回は、ゴッホの作品を主体としながらも、

ヘレーネさんが収集した他の画家の作品も展示されています。

まずはそこから見て行きましょう。

 

カフェにて

ピエール=オーギュスト・ルノワール 1877年ごろ クレラー=ミュラー美術館

 

ゴッホと並んで日本人に大人気のルノワール。

おしゃれをした若い女性が、カフェでおしゃべりしています。

難解なテーマや深刻な現実ではなく、理想的な幸せの光景をわかりやすく描くのがルノワールのよさだと思います。

 

 

キュクロプス 

オディロン・ルドン 1914年ごろ クレラー=ミュラー美術館

 

ルドンは象徴主義を代表する画家で、神秘的な画風が特徴です。

こちらは、神話『オデュッセイア』に登場する一つ目の人食い巨人です。

でも、怖い感じはしない、不思議にかわいい巨人さんです。

 

さて、いよいよ、ゴッホの絵を見て行きます。

ゴッホの父は聖職者で、ゴッホも最初はその道を目指したが挫折し、画家を志すようになりました。

画家になるためには、まず素描を習得する必要があると考えたため、初期の作品は素描が主体となります。

 

砂地の木の根 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1882年4-5月 クレラー=ミュラー美術館

 

すごく正直に言えば、まだそれほどうまいとは思えない素描ですが、樹木のうねり具合が、のちの糸杉などの描き方に似ていると感じます。ここから長い歳月をかけて、ゴッホは独自の画風を確立していったのでしょう。

 

祈り 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1882年12月/1883年4月 クレラー=ミュラー美術館

 

オランダ時代、ゴッホは、この絵のモデルとなった女性と1年ほど暮らしていました。

この方は、もと娼婦だったと言われています。

一心に祈る横顔や握りしめた手に、彼女が背負ってきた悲しみが感じられます。

 

 

森のはずれ 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1883年8-9月 クレラー=ミュラー美術館

 

油彩に本格的に取り組みはじめたころの習作的な作品。

ヘレーネさんが最初に購入したゴッホ作品でもあります。

もしもこの絵だけ見せられたら、わたしは購入したいとは思わないです。

しかし、慧眼なヘレーネさんは、この絵に何か深いものを見出したのでしょう。

 

 

織機と織工 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1884年6-7月 クレラー=ミュラー美術館

 

著名な作品「ジャガイモを食べる人々」などとも共通する、一心不乱に働く人に対する共感のまなざし。のちにゴッホの作品の特徴となる明るい色彩とはまったく違う、重たく暗い色使いの中、機械と人物の存在感が際立ちます。

 

その後ゴッホはパリに出て、画商をしていた弟のテオと暮らします。

他の若い画家たちとの交流を通して新しい表現を試みるようになり、色彩も明るくなってきました。

 

 

レストランの内部 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1887年夏 クレラー=ミュラー美術館

 

当時の主流だった新印象派の表現に倣い、点描で描いています。まだ独自の作風は感じられませんが、色の感じはだんだんゴッホらしくなってきました。

 

そしてゴッホは、愛してやまない浮世絵の世界を求めて、南仏のアルルに移住しました。この地の光が日本の光と似ていると思ったのです。

実際には、南仏の方がずっと明るいと思われますが、ゴッホの中での日本はアルルだったのでしょう。

 

黄色い家(通り) 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1888年9月 

ファン・ゴッホ美術館(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)

 

アルルでゴッホが住み、アトリエにした黄色い家。

ここにはゴーガンもやってきましたが、共同生活はすぐに破たんし、有名な耳切り事件が起きます。

 

糸杉に囲まれた果樹園 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1888年4月 クレラー=ミュラー美術館

 

どこか日本風のようにも感じる風景。

現実をそのまま写し取るのではなく、自分の目に見えるものこそが現実であるというような力強い表現。

いよいよ、わたしたちがよく知っているゴッホの誕生です。

 

 

種まく人 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1888年17日-28日ごろ クレラー=ミュラー美術館

 

敬愛する画家、ミレーの「種まく人」に影響を受けて描かれた作品。

ミレーの絵は暗い色合いですが、ゴッホの「種まく人」は、太陽の光に照らされた強烈な色彩です。

真ん中に描かれた黄色い太陽が何かを象徴するかのようです。

 

精神的な不調に陥ったゴッホは、自ら、サン=レミの療養院に入院。

平穏な環境に移ったことで、新たな境地が開けました。

 

サン=レミの療養院の庭 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1889年5月 クレラー=ミュラー美術館

 

療養院の庭は、ゴッホが愛する樹木や花々が満ちていました。

 

夕暮れの松の木 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1889年12月 クレラー=ミュラー美術館

 

沈みゆく太陽とその手前のねじれた松の木が、どことなく精神の不安定さを感じさせるが、それがゴッホの個性だと思います。単なる風景画ではなく、何かが心に突き刺さるような絵です。

 

 

夜のプロヴァンスの田舎道 

フィンセント・ファン・ゴッホ 1890年5月12日-15日ごろ クレラー=ミュラー美術館

 

ゴッホが、サン=レミで描いた、おそらく最後の作品とされます。

糸杉も道も空も月も星の光も、何もかもが不自然にねじれていて、現実とはまるで違うのですが、これこそがゴッホが見ていた世界なのでしょう。

言葉にできない何かを強く訴えかけてくるような絵だと思います。

 

 

人気の画家だけに、展覧会特設ショップも充実しています。

気になったのは、このお人形です。

これだけ見ても、ちょっと誰だかわからないかも知れませんが、かわいいですね。

 

 

ゴッホ展――響きあう魂 ヘレーネとフィンセント

東京都美術館にて12月12日(日)まで開催

※日時指定予約制あり。チケットの予約など詳細は、公式サイトをごらんください。

お電話での問い合わせ 050‐5541‐8600(ハローダイヤル)

 

 

𠮷田さらさ 公式サイト

http://home.c01.itscom.net/sarasa/

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