こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。
今回は、東京国立近代美術館で開催中(~2023年5月14日〈日〉)の東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」のご紹介です。
わたしは日本の近代の洋画が好きなので、この美術館にもしばしば足を運んできて、所蔵品の中に好きな絵が何枚もあります。しかし、これまでそれが重要文化財かどうかという観点で見たことがありませんでした。また、明治以降の日本美術の中に重要文化財指定の作品があるということ自体もあまり意識したことがなく、今回の展覧会は「重要文化財とは何なのか、どのような点が評価されたのか」を改めて知る機会となりました。
まずは重要文化財と国宝の違いについて。
重要文化財には、「絵画・彫刻の部」と「工芸品の部」があり、それぞれの定義には微妙な違いがあるものの、「制作が優秀で文化史上貴重なもの」というのが基本です。
そして国宝は、「重要文化財のうち制作が極めて優れ。かつ、文化的意義の特に深いもの」という定義です。
実は、明治以降の近代美術には国宝に指定されたものはまだ存在せず、重要文化財も68点のみ。したがって、それらを所蔵する美術館、博物館は、国宝に準じるものとして大切に扱っています。今回の展覧会では、東京国立近代美術館の所蔵品だけでなく、他の美術館、博物館所蔵の重要文化財も集められ、68点のうち51点もの重要文化財を見ることができます。これは、またとない貴重な機会です。
こちらは、その68点の重要文化財の作品がいつ指定を受けたかを示した年表です。明治以降の作品が最初に指定されたのは1955年のことです。以降、つい最近まで新たな作品が指定され続けていることがわかります。
1955年に最初に重要文化財に指定されたうちの一作品。
まるで生きているような目の光など、明らかに江戸時代までの仏教画とは違う新しさが感じられます。そのあたりが評価の理由なのでしょうか。
全長40.7メートルにもなる大作。水が最初の一滴から川になり、大河になり、海に流れて、最後は竜神として天に上る様子が描かれています。あまりにも大きいので展示が難しく、全作品を見られる機会は少ないとのこと。
こちらは、1967年に重要文化財に指定されたもので、制作から指定までの間が最短の作品でもあります。
埼玉県秩父の長瀞渓谷の風景を描いたもの。
空や水の表現が、どことなく、現代のアニメの背景を思わせます。眺めているうちに景色の中に自分が入り込んだような気分になるのは、技術が卓越しているせいなのでしょう。
日本最初の油絵といえば、まっさきに、このリアルな鮭の絵が思い浮かびますよね。
やはり、油絵の中では、これが最初に重要文化財に指定されたそうです。
日本伝統の仏教的な画題ですが、技法は西洋の油絵という点が革新的。
観音様の顔立ちはどこか西洋人のようで、龍の目も妙にかわいらしい。東京の著名な寺、護国寺に奉納されましたが、保管が難しいため、こちらの美術館に寄託されています。
この大胆なヌードは、東京美術学校西洋画の卒業制作で19名中16番だった作品。
しかし、教授の黒田清輝は、「この人の方が将来有名になるかも知れない」と言ったそうです。それが今では重要文化財として評価されているのですね。
わたしが日常的によく通る道の大正時代の様子を描いたものです。
現在はもちろんこの左右はマンションですが、坂の勾配がよく似ていて、一目で「ああ、あそこだな」とわかります。しかし、これが重要文化財に指定されるほど評価が高い作品とは知りませんでした。改めてじっくり見ると、当時、どこにでもあったであろう風景をこのような迫力ある構図で捉えるところが天才なのだなと思えてきます。
これも子供のころからよく見ていた絵ですが、今回はじめて重要文化財であったことを知りました。
モデルはロシア人の盲目の詩人、ワシリー・エロシェンコ。たまたま画家の中村彝の友人の画家が駅でこの人を見かけてその風貌に魅せられたのがきっかけで、この絵を描くことになったのだそうです。
子供のころのわたしは、そのような背景を全く知らず、それでも、「物語を秘めていそうな印象的な人物だ」と思ったものです。人物の内面が描けているからこそ、子供にも何かが伝わったのでしょう。
これも昔から好きな絵です。最初は「楽しい国土」というタイトルだったのに、伊藤深水が「楽しいというよりも、悲しみのどん底にいるような絵」と評したため「信仰の悲しみ」というタイトルに変更されたのだそうです。
確かに、この絵の中の女性たちは、何か重いものを背負ってどこかに向かってひたすら歩いているが、この先にはもっと深い悲しみがあるというように見えます。
東京国立近代美術館70周年記念展
重要文化時の秘密
2023年3月17日(金)~5月14日(日)
詳細は公式サイトをごらんください。
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