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見ているだけでハッピーになれる「横尾忠則 寒山百得」展

吉田さらさ

吉田さらさ

寺と神社の旅研究家。

女性誌の編集者を経て、寺社専門の文筆業を始める。各種講座の講師、寺社旅の案内人なども務めている。著書に「京都仏像を巡る旅」、「お江戸寺町散歩」(いずれも集英社be文庫)、「奈良、寺あそび 仏像ばなし」(岳陽舎)、「近江若狭の仏像」(JTBパブリッシング)など。

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こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。

 

今回は、東京国立博物館の表慶館で開催中(~2023年12月3日〈日〉)の「横尾忠則 寒山百得」展をご紹介します。2021年にも大規模な個展があり、ますます活発に活動を続ける横尾先生。その無限とも思えるパワーとイマジネーションを見せつけられるようなすごい展覧会です。

 

現代美術にありがちな難解さとも無縁で、楽しく面白く、見ているだけでハッピーな気持ちになれます。コロナ後、ますます混迷を深めていく世の中を照らすかのような、突き抜けた明るさがあるのです。

どんな状況にあっても外界からの悪しき影響を受けることなく、自分は自分のままで目の前のことを楽しめばいい。見ているうちにそんな気持ちになってきます。

 

ところで寒山百得とはどういう意味なのでしょうか。

中国で古くから大人気の故事「寒山拾得」にインスピレーションを受けて制作された横尾先生独自の壮大な連作で、今回の展示は全部で102枚。なるほど、それで寒山百得なのか。

 

作品に添えられた日付によれば、最初の作品は2021年9月3日に制作されています。これだけの量の作品を約1年の間に制作したとは驚きです。一枚一枚が思わず見入ってしまうほど面白く、中には一日で3枚描かれたものもあるようです。

豊干禅師 河鍋暁斎筆 明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵

 

ところでインスピレーションの基になった寒山拾得とはどんなものなのでしょう。

 

それを知るためには、今回の展覧会と並行して東京国立博物館本館特別一室で開催されている特集「東京国立博物館の寒山拾得図―伝説の風狂僧への憧れ―」(~2023年11月5日〈日〉)を事前に見ておくとよいです。これは、東京国立博物館が誇る寒山拾得図をまとめて展示したもので、古美術の中で寒山拾得がどのように表現されて来たかがわかります。

 

寒山と拾得は中国の天台山という聖地にいたとされる伝説上の人物でいつも二人は一緒、その不思議なふるまいが禅の悟りの境地に通じるとされ、多くの絵画の画題になりました。日本でも、鎌倉時代以降、盛んに寒山拾得図が描かれました。

 

上の写真の作品は、東京国立博物館が所蔵する寒山拾得図のひとつです。左側の二人が寒山と拾得、右側は二人の師である豊干禅師といつも連れている虎です。これは江戸末期から明治にかけて活躍した鬼才、河鍋暁斎の作品です。他にも寒山と拾得を単独で描いた作品や、二人をモティーフにした浮世絵などもあり、画題としての寒山拾得の魅力を理解できます。

 

 

寒山拾得は奇妙なふるまいをする不思議な二人組であるということを頭に入れた上で表慶館に向かい、寒山百得展をはじめから見て行きます。

横尾先生ご自身も、今回の展覧会に関して、「作品に意味やメッセージなどは全くないので、ご覧になる方には、作品の前に立って何かを感じとってもらいたい」と述べておられますので、あまり深く考えず、「おっ、これは面白いな」と思った作品をランダムにご紹介します。

 

右:《2021-09-06》(2021年) 左:《2021-09-09》(2021年)

 

右の作品は、髪が青い人が寒山で赤い人が拾得のようです。ここで注目すべきは、髪の青い人が首にかけている輪っかのようなものと赤い人が持っているブラシのようなものです。

 

横尾先生は1970年代に江戸時代の絵師、曽我蕭白の作品に魅了されました。その曽我蕭白が描いた寒山拾得図では、二人は箒と巻物を持っています。そこからイマジネーションを膨らませたのが、この輪っかとブラシ。ブラシは掃除用なので箒からの連想だとわかりますが、輪っかは? これは実はトイレの便座。

 

先生の中では、巻物→巻いた紙→トイレットペーパー→トイレという独自の変換がなされており、これ以降の作品にも、トイレットペーパーやトイレそのものがよく登場します。箒→ブラシの方は、さらに掃除機にも変換されており、他の作品にもよく出てきます。

 

左側の作品では、便器と思われるものに座っている二人。

一人はやはりブラシを持ち、テーブルの上にはトイレットペーパーがあります。二人の間にあるポスターは大谷翔平さん? 先生も大ファンのようです。

 

《2022-3-24》(2022年)

 

マネの「草上の昼食」、はたまた江戸絵画の「納涼図屏風」のような構図。

このように古今の名画の要素を感じる作品もいろいろあって、見つけるのが楽しいです。この中にも、ちゃんとトイレットペーパーと箒があります。箒に「GO HOME」と書かれているのはなぜかなと考えてみました。

そう言えば、昔、早く帰って欲しいお客さんがいるときはこっそり箒を立てておけと言いましたよね。

 

それから、右の方に虎に注意と書かれた絵があるのはなぜか?

きっと、寒山拾得の師匠の僧侶がいつも虎を連れていたところから来ているのでしょう。

 

《2022-04-14》(2022年)

 

横たわっているのは釈迦ではなく女性ですが、これは涅槃図?

トイレットペーパーはないように見えるのですが、女性の手のところにティッシュボックスがあります。

 

右:《2022-05-06》(2022年) 左:《2022-05-05》(2022年)

 

赤い魔法のじゅうたんに乗って空を飛ぶ寒山と拾得。箒とトイレットペーパーも魔法の道具のように見えます。

右の絵が描かれたのは、左の絵が描かれた翌日です。

恐るべきスピードとパワーですね。

 

右:《2022-04-24》(2022年) 左:《2022-04-27》(2022年)

 

いつの間にか、ドン・キホーテとサンチョ・パンサに変身してしまった寒山と拾得。

ところでトイレットペーパーと箒はどこへ?

 

右:《2022-10-16》(2022年) 左:《2022-10-10》(2022年)

 

江戸時代には寒山拾得をモティーフにした浮世絵も描かれました。これは、それをさらに横尾先生流に変換したものと思われます。

 

なんと、トイレットペーパーが髪飾りになっていますね。

人物の顔は、どこかのロックミュージシャンに似ている気もします。

 

右:《2022-12-22》(2022年) 左:《2022-12-12》(2022年)

 

この作品の元ネタはジョルジュ・デ・キリコなのかな? 箒を持ったこのポーズからは、漫画「天才バカボン」に出てくるキャラクターの「レレレのおじさん」も思い出されます。

こんなふうに、一枚の絵からいろいろなものを連想できるのが、この展覧会の楽しさです。

 

ミュージアムショップにも、魅力的なオリジナルグッズが満載。

横尾先生グッズ全般が並んでいますが、今回の展覧会でしか買えないものもありそうなので、じっくり選びましょう。

 

 

「横尾忠則 寒山百得」展

開催中~2023年12月3日(日)

東京国立博物館 表慶館

公式サイト

 

関連企画

特集「東京国立博物館の寒山拾得図―伝説の風狂僧への憧れ―」

開催中~2023年11月5日(日)

東京国立博物館 本館特別1室

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