こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。
今回は、このコラム内ではじめて取り上げる美術館、泉屋博古館東京で開催中の特別展「昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界」(令和6年8月31日〈土〉~9月29日〈日〉)をご紹介します。
まずは、この泉屋博古館(せんおくはくこかん)について少しご説明しましょう。
この美術館は、昭和35年に住友家が蒐集した美術品の保管、調査研究、展示公開を主な目的として京都に設立。館名の「泉屋」は江戸時代の住友家の屋号、「博古」は中国・宋時代の青銅器図録「博古図録」にちなんでいます。平成14年には東京に分館(現 泉屋博古館東京)を開設しました。
板谷梅樹ポートレート(40代)個人蔵
この展覧会は、板谷梅樹(明治40年~昭和38年)という作家が制作したモザイクの作品を中心に構成されています。板谷という姓からもわかるように、この方は、明治から昭和中期にかけて活躍した陶芸家の板谷波山の息子さんです。
若くしてブラジルに渡り、1年間農場で働いた後に帰国。ステンドグラス作家のもとで修行し、昭和8年、日本劇場の1階玄関ホールのための巨大モザイク壁画を制作(現存せず)。以降、モザイク作家として活躍しました。
高さ約370mにも及ぶ巨大なモザイク壁画。現存する板谷梅樹の最大の作品です。
横浜市の依頼により制作されたもので、日本初の近代水路施設として三井用水取入所と富士山麓の風景がモザイクで表現されました。山肌や木が、微妙に色の違う陶片で細かに表現されています。
第Ⅰ章「モザイクの世界で」
モザイクとは、石やガラス片などを組み合わせて絵や模様を表現する技法です。古代ギリシア、ローマ時代には、邸宅の壁などを飾るために盛んに作られました。19世紀末、アール・ヌーヴォーの流行とともに日本に伝わりました。
板谷梅樹の父である陶芸家の板谷波山はたいへんな完璧主義者だったため、少しでも失敗したと思う作品は割ってしまい、土に埋めることが多かったそうです。子供時代の梅樹は、その陶片を美しいと思い、集めて遊んでいました。それがのちにモザイク作家になる原点だったとのこと。実際に梅樹の作品には父、波山の陶片が使われたものもあります。
しかし波山の作品は淡い穏やかな色合いが多かったため、梅樹はビビッドな色の陶片を他からも取り寄せたり、色鮮やかなタイルを用いて制作していました。
板谷梅樹の出世作にして最大の作品。昭和8年に竣工した旧日本劇場(日劇)の玄関ホールを飾りました。「音楽」、「平和」、「戦争」、「舞踏」と題し、古代ギリシアの群像をモザイクで表現。
当時の日劇は文化人の社交場だったのですね。
カラフルで愛らしい花たちのモザイク。
こんな作品を玄関に飾ったら、家がパッと明るくなりそうです。
これはクジャクでしょうか。シンプルながらインパクトが強いデザインですね。
首を曲げたキリンのポーズを表現するのがとても難しそうです。
割ったタイルのかけらを一枚ずつ組み合わせ、滑らかな曲線を作ったのですね。
これぞ昭和モダーン。とても斬新でアーティスティックなデザインの絵皿です。
第Ⅱ章「日常にいろどりを」
板谷波山は、生涯を通じて、モザイク画だけでなく、日常をいろどるさまざまな作品を制作しました。
一般人の生活の中にも取り入れられそうなアクセサリーや照明器具なども、こちらに展示されています。
板谷梅樹は18歳でブラジルに渡り、1年後に戻ってきて小川三知のもとでステンドグラスを学びました。
これはおそらく、当時の日本では画期的な手法であったと思われます。
小さなモザイクで作られた素敵なアクセサリーたち。現代にも通じるセンスです。
シンプルなニットに合わせてみたいですね。
ランプシェード 昭和10年代 台座:板谷波山作
昭和前期のモダーンな住宅に欠かせなかったおしゃれな照明器具。
ランプシェードが板谷梅樹作、台座として使われている壺は、お父さんの板谷波山作です。
第Ⅲ章「住友コレクションと板谷家」
この章では、お父さんの板谷波山の作品や、住友コレクションと板谷家とのつながりがわかる写真などが展示されています。板谷波山は一切の妥協を許さず理想の作品を作ることに精魂を傾けた芸術家で、陶芸家ではじめて文化勲章を受章しました。
葆光彩磁珍果文花瓶 板谷波山 大正6年 重要文化財 泉屋博古館東京蔵
板谷波山の代表作のひとつ。
波山の作品を愛した住友家15代当主の住友吉左衞門友純が買い上げ、泉屋博古館に伝承されています。
昭和モダーン モザイクのいろどり
特別展 板谷梅樹の世界
令和6年8月31日(土)~9月29日(日)
詳細は公式サイトをごらんください。
𠮷田さらさ 公式サイト
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