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十和子道 最終回「私の個性的な姑のこと」

君島十和子

君島十和子

君島十和子. 1966年生まれ。モデルとして活躍後女優に。1996年、結婚を機に芸能界を引退。現在は自身のコスメブランド「FTC」のクリエイティブディレクターとして数々のヒットを生み出している。2女の母。

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取材期間1年以上、収録写真は約400点。自宅で撮影し、オール私服で登場した〝ライフスタイルブック〟の決定版、それが『十和子道』。発売されるや瞬く間に大増刷され、なんと6刷を記録した大ヒット本です。その本のもととなった連載(過去にOurAgeにて配信されたもの)の一部をお見せします!

「十和子道」最終回

「私の個性的な姑のこと」

 

先日知人の女性とお茶をいただきながら、たわいもない愚痴をこぼしていたら、「人生に起こる悩みのほとんどが人間関係の悩みらしいよ」と、横にいた主人が一言。

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なるほど…

人と人の関係が生じるところに、悩みはもれなくついてくるのかもしれません。

 

夫婦関係、家族関係、仕事の仲間関係、友人関係…いろいろな人間関係がありますが、中でも、少々やっかいな上に業の深さを感じさせ、そのくせとかく揶揄されがちなのが嫁姑といわれる関係でしょう。

 

嫁と姑とは「血の繋がらない母と娘」

……微妙でドメスティックな関係です。

 

私にも個性的な自慢の姑がおります。

 

姑つまり義母は気骨があって、自分の意思を決して曲げない気丈夫な美しい人です。

 

人や世間に決して媚びず、おもねらず、ご自分のペースで生活しています。

 

長年自ら会社経営をしていた事もあり、少なからず味方ばかりではなかったかもしれませんが、己の人生を戦って戦って勝ち抜いてきたキャリアウーマンです。

 

 

今でも思い出すのが、私のお嫁入りが決まって、両家で話し合いをしたときのこと。

 

 

義母は

「息子には数々の縁談がありました。

世界中にいくつも別荘を持っているような実業家やフランスの貴族や江戸時代から続く名家からも、結婚のお話をいただいていました。

けれど私はそういう家のお嬢さんなんか少しも興味がなかった。

その点十和子さんは女性が仕事をすることの苦労を知っている方だから、お嫁に来てくれることに賛成した。

 

うちは商家なのだから、夏休みのたびに“それでは子どもたちと一緒に実家の別荘に参ります”と自分の親許で過ごしたがるような方では、とてもつとまらないと思いました」

と、うちの両親の前で、それはもうはっきりと断言しました。

 

褒められているのか、それとも違うのか…。

 

私も両親も「全くもって我が家はただただ普通の家と普通の娘です」と、恐縮するしかありませんでした(笑)。

 

しかし義母が裏表のある人ではないということは、結婚後すぐにわかりました。

 

義母の正直な気性をご存知の方からは「お姑さんとの同居生活は気苦労があったのでは?」とよく言われますが、気苦労が絶えなかったのは義母の方だったと思います。

 

なにせ私は「得意料理はゆで卵です!」という不肖の嫁でしたし、洗濯機を使うのも初めてという家事は何もできない有様で嫁いだのです…。

 

義母が洗濯機を前に「十和子さん、いい?これがスタートのスイッチよ。そして、これが洗濯洗剤」と、まさにイチから手取り足取りで教えてくれたものです。

 

 

結婚して義母と同居した8ヶ月間は、朝から午前中いっぱいをかけて

・部屋の掃除の仕方(天井のホコリ取りから玄関の上がりかまちの拭き方まで)

・アイロンのかけ方

・銀器や漆器の手入れ、ガラスや陶器などの食器の扱い方

・洗濯の仕方、干し方、畳み方

などを習い、それが終わるとようやく義母は仕事へ出かけていきました。

 

 

そして夕方、仕事を終えた義母が帰宅すると同時に、その日のご飯の支度をしながら、

・野菜の下ごしらえの仕方

・主人の好きなお味噌汁、料理など味付けの加減

そして

・お鍋の洗い方

・汚れたふきんの始末の仕方

を教わりました。

 

 

仕事を持つ女性の家事の進め方を最も近くで学ばせてもらったと思っています。

 

 

義母と同居していた時間は主婦として、妻として、母として生きる私の財産になりました。

本当に貴重な時間、得難い時間だったと、今になってしみじみと思います。

そしてあの8ヶ月間は「花嫁修業」というよりむしろ「君島商会の新人研修」に近かったような気がします(笑)。

 

主婦としての基本的な仕事やふるまいはもちろん、商家である君島家の「働く女性」としての心積もりや覚悟までも教えられていたと思うのです。

 

お嫁入りしてから20年が経ちました。

 

 

義母はいまだに「十和子さんが苦労人でよかったわ」と、口癖のように言います。

 

 

そんなに苦労人だとアピールした覚えはないんですけれど(笑)。

 

義母は働く女性に何より理解と尊敬と愛情のある人で、私が主人と化粧品ブランドを立ち上げ、その代表として拙いながらもここまでやってこられたのは、その思いに支えられたからこそ。

 

 

入籍直後、私にはまだ女優として「明治座」での最後の仕事が残っていました。

 

実は当時、千秋楽まで毎日、義母に舞台で使った足袋や肌着まで洗ってもらい、手作りのお弁当を渡され、劇場に送り出してもらっていたのです。

 

「あなたのお母さまが今までそうして、あなたを毎日仕事に送り出していたのだから、私もやるわ」

そう言ってそれを実行してくれたのです。

 

自身もオートクチュールのサロンを持ち、目の回るような忙しさの中なのに、義理の娘の肌着を洗いお弁当を持たせ「さあ、行ってらっしゃい!今日もしっかりね!」と、仕事場に送り出してくれたのです。

 

私はそれを一生のご恩だと思っているのです。

 

義母は自分にも他人にも厳しいけれど、意地悪な人ではありません。

「ダメなものはダメ」と、正直に言うだけです。

 

もしもなんでダメなのかときいたら「なぜなら…」と、いつだって理路整然。

だから私は義母の言動に戸惑ったり迷ったりすることは、ありませんでした。

 

 

そうそう、主人は私と義母が似てるっていうんです。

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「だってふたりとも基本、中身はおっさんだから」だって。

失敬な(笑)! でも思い当たるかも…。

 

そして義母は「息子の嫁をライバル」と思うような、湿度の高い母性の持ち主ではなく、深くて強くてまっすぐ、そしてカラリとした愛情を息子に向けている人でした。

 

よく女性週刊誌などに“嫁姑の関係を円滑にするためのノウハウ”として「夫の悪口は言わない」「夫を褒める」なんて書いてあるそうですが、ケースバイケースだと思います。

ご家庭によって違うのかな?と…。

 

 

嫁の私が「あなたの息子は素晴らしい」と褒めたところで、嬉しがる人ではありません。

「私が育てたのだから素晴らしいに決まっているでしょ。もうひとり産んで育ててたら、もっと上手く育てられた自信がある!(笑)」とよく言っていました。

 

最近になって、子どもたちも大きくなり、義母の「愛情の本質」みたいなものが私もおぼろげながらわかってきました。

 

ベタベタと甘くて優しい言葉を並べ、なめるように可愛がり、守る。

それだけでは(もちろんそういうことが必要な時期もあります)、子どもを社会には送り出せないのだということです。

 

親の役目はひとことで言ってしまえば、子どもに社会で生きていく力をつけ、自立させることでしょう。

どんな人生にも苦しみは訪れるけれど、あなたには超えられる力があるのよ、と教えること。

 

 

そのためにはまさに獅子が谷底へ子どもを突き落とすが如く、厳しく当たらなければならないこともあるのだと思っています。

 

君島一郎と言う稀代のデザイナーと恋をし、貫いた義母。

けれどその立場に溺れることなくプライドを持って仕事をし、自立し続けました。

 

義父が突然亡くなり、会社の存続や遺産をめぐる大きな騒動に巻き込まれながらも、家業も続けることができたのは義母の精神的、経済的な支援があったからだと、ずっと後になって気がつきました。

 

義母の女としての意地と母としての愛情、働く女性としてのプライドが、主人と私たち家族の生活を守ってくれた。それは母としての息子に向けた深い強い愛の力だと今、この歳になってそのすごさを思い知ります。

昔、主人は言っていました。

「子どもの頃、せっかくの夏休みに田舎の祖父母の家に連れて行ってくれても、たまっていた仕事の疲れで2日も3日も昏々と眠り続ける母がかわいそうだった。大晦日も正月も友達はみんな家族で過ごすのに、仕事に出かけてしまう母が嫌だった」

 

体を張って息子を産み、育てあげた義母の愛情の本質は、人生のずっとずっと後にならないとわからない類のものなのかもしれません。

 

ある意味、損なタイプの愛情なのかもしれませんが、私は尊いと思うのです。

 

※そんな十和子さんが母親としてふたりの娘さんに伝えたいことは何?

気になる内容はぜひ書籍「十和子道」で!

取材・文/稲田美保 撮影/冨樫実和 本多佳子 ヘア/黒田啓蔵

*オールカラー、自宅で撮影、オール私服、収録写真400点

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