衰退していく“きものの街”の存続を願って生まれたシルクコスメ
「消滅可能性都市」という言葉をご存知でしょうか? とても衝撃的な言葉ですが、少子化や人口移動に歯止めがかからず、将来的に存続できなくなる可能性がある自治体のことをさします。新潟県十日町市も消滅都市のひとつに選ばれました。
十日町は、面積の70%を山林や野原が占め、中央には信濃川が流れる美しい自然に恵まれた場所です。ただ、豪雪地帯としても知られるとおり、一年のうち三分の一が根雪期間。冬季は日常生活や経済活動などに支障がでます。過疎化・高齢化が進んでいるのは、そのような環境も影響しているのかもしれません。
(松代地域にある棚田群。大小様々な水田約200枚がまるで魚の鱗のように斜面に広がる。満水になった田の水鏡に四季折々の美しい景色が映る絶景スポット。ちなみに松代地域はもともと松代町というひとつの自治体だったが、2005年に十日町市、東頸城郡松之山町、中魚沼郡川西町・中里村と合併し、現在は十日町市になったため消滅)
十日町は絹織物の生産がさかんで“きものの街”としても名高く、その歴史は1,500年以上とも。その地に、きものの着用後のアフターケアやメンテナンスを専門にした「きものブレイン」という会社があります。もともとは呉服卸売業として設立したものの、呉服業界にアフターケアの概念がないことに疑問と危機感を抱いた岡元松男社長が、1980年にしみ抜きや仕立てなどを専門に行う「きものアフターケア」の看板を掲げました。
(国内外にきもの文化を発信する新たな拠点として2017年に工場を集約し移転したきものブレイン夢ファクトリー本社工場。スペース内ではきものアフターケアの加工技術の見学、養蚕事業の紹介、「絹生活研究所」の開発商品の展示・販売などを行なっている)
起業してしばらくは技術者の養成すらままならない状態でしたが、バブル経済の崩壊で呉服業界の売り上げが低迷する一方で、アフターケアが注目を浴びるように。大学で日本画や美術修復を学んだ人たちなど、きものの修正デザイナーの道に進むことを志願する人も増え、現在「きものブレイン」で働く社員の平均年齢は38歳。
社内は、若いパワーがみなぎっています。地域貢献のために、障がい者雇用も積極的に行い、現在32名の障がい者が健常者と一緒にいきいきと働いています。
(スピーディかつ高度な技術でヤケ直し、黄変抜き、箔修正、色かけ修正などを行う。アフターケアのほかに、水や汚れからきものを守る「しあわせガード」や寸法直しなどのビフォア加工も)
世界初・無菌養蚕が生み出す「みどりまゆ」
「きものブレイン」が抱える270名の社員と、過疎化していく十日町の未来に光を照らすために、岡元社長が着手したのが「無菌人工給餌周年養蚕事業(むきんじんこうきゅうじしゅうねんようさん)」。蚕を無菌室で人工の餌を与え、育成するというもの。
日本と養蚕の歴史はとても深く、弥生時代に始まったともいわれています。明治時代から昭和初期にかけてはシルクの生産業が4万トンと、我が国の主要産業でしたが、デリケートで季節の変化やウイルスに弱い蚕を育て、生産量を安定させるのは至難の業。
(きものの原料でもあるシルク産業を再び盛り立てたいという、岡元社長の願いも込められスタートさせた無菌人工給餌周年養蚕事業。ちなみに蚕は完全家畜化されているため、家畜と同じように1 頭、2頭…と数える)
そこで、東京農業大学とタッグを組み、3年間の研究を重ねた結果、ウイルスの脅威がなく、温度・湿度の管理ができる無菌室にたどりついたのです。
ところで、「きものブレイン」で生産される繭は「みどりまゆ」という希少種。飼育が難しいとされていた「みどりまゆ」を無菌室で飼育すること、そして桑の葉のパウダーに脱脂大豆などを混ぜたペースト状の人工飼料が完成したことで、世界初、無菌みどり繭の安定した大量生産を実現しました。
(従来のシルク成分に加え、白繭にはない新しい機能をもつ「みどりまゆ」は、世界的にもとても稀少で、まさに“繭の進化版”ともいえる)
「みどりまゆ」は、写真のように優しい黄緑色をしていますが、これは、蚕の餌である桑の葉の緑が抽出されたからなのだとか。そしてこの黄緑色の正体は、エイジングケア(※1)効果が期待できる抗酸化成分「フラボノイド」です。ポリフェノールの一種で抗酸化作用をもつ「フラボノイド」は、老化の原因となる活性酸素の抑制や免疫を整える働きなどが知られています。また、紫外線のUV-A、UV-Bをカットする効果も(白繭がカットできるのはUV-Bのみ)。
ご存知の方も多いと思いますが、シルクの主成分である「セシリン(※2)」は、私たちの肌表面に存在する天然保湿因子「NMF」とたんぱく質の構造が非常に近いのが特徴。肌との親和性が高く、生体適合性に優れアレルギー反応が起きにくいので、敏感肌や乾燥肌にも優しく、肌のバリア機能を助ける働きがあります。「みどりまゆ」はこの「セシリン」の量も白繭より多く含有します。
「みどりまゆ」のパワーをフルに生かした、全身に使える高機能コスメ
そんな「みどりまゆ」からとれたシルクを原料にしたプロダクトをとおして、人々の健康と美を守りたい、と「きものブレイン」が立ち上げたのが「絹生活研究所」。その中の「Itoguchi(イトグチ)」というブランドから発売されている、髪にも体にも使えるオールインワンシャンプーとスプレー式の日焼け止めの2品をご紹介します。
(Itoguchi みどりまゆ BODY&HAIRモイストシャプー 400ml ¥3,960/絹生活研究所)
まずオールインワンシャンプーの「みどりまゆ HAIR & BODYモイストシャプー」からご紹介します。こちらは商品名のとおり、髪もかだらも洗えるオールインワンシャンプー。自然由来成分99.6%で、パラベンフリー、エタノールフリー、合成香料不使用、合成着色料不使用、石油系界面活性剤不使用なので、敏感肌や子どもにも安心して使える設計に。顔やデリケートゾーンも洗えます。
髪も洗えるとはいえ、カラーリングを繰り返した私の重度のダメージヘアを洗うのは躊躇してしまい、まずはボディソープとして使い始めました。
泡立てると、上品なシトラス系の香りがやさしく広がります。よく泡立てて、いつもどおりにからだを洗い、シャワーで流すのですが、驚くのはそのあと。泡切れはとてもいいのに、まるでボディリンスをしたかのようなつるっとした何かが残るんです。実はこれこそが、シルクがもつ美容成分「セシリン」。そのつるっと感を残したままバスタオルでからだを拭くと、潤いのヴェールで包まれたような滑らか肌が一丁上がり。時間が経ってもまったくつっぱることなく、かさつきやすいひじやひざもしっとり。いつもお風呂上がりに慌ててボディクリームを塗っていたのが嘘のよう!
(+イオンと−イオンが引き合うメカニズムを利用して、すすいだあとも肌にセシリンが残る処方に。また、粒子の小さい低分子セシリンが髪の内部を潤いで満たしながら、キューティクルの隙間にも入り込み傷みを補修。そして中くらいの大きさの高分子セシリンが髪の表面をコーティング)
この日使用したボディタオルが、洗い流したあとも柔軟剤で仕上げたかのように柔らかくフワフワになったのを見て、「これなら、髪を洗っても大丈夫そう…!」と、翌日は洗髪にも挑戦。心配していた引っ掛かりやきしみは一切ありません。コンディショナーなしでも、まさにシルクのような洗いあがりに。ドライヤーで乾かしたあとも、髪がトゥルンとまとまって気分も上々です。今では、顔もデリケートゾーンもこのシャンプーで洗うようになり、ごちゃごちゃしていたバスルームもすっきり!
(Itoguchi みどりまゆ BODY&HAIRモイストUVスプレー SPF50+/PA+++ 60g ¥2,420/絹生活研究所)
続いてこの夏発売された「みどりまゆ HAIR & BODY モイストUVスプレー」をご紹介します。こちらはノンケミカル処方(※3)なのにSPF50/PA++++と、最高値の紫外線カット効果を実現。前述のとおり、UVA、UVB両方をカットする効果のある「みどりまゆ」配合だからこそ、かなった機能です。
とても細かい霧で出てくるので、全身にまんべんなく塗布でき、サラリと軽やかな使用感でベタつかないところがグッド。汗や水に強いウォータープルーフタイプでまだまだ残暑の続くこの時期も重宝します。「みどりまゆ」シルクからとれるセシリン配合なので保湿効果もありますし、子どもや敏感肌の人でも安心して使える成分でつくられている点も高ポイント。
最近、サンゴの白化が問題になっていますが、日焼け止めに入っている紫外線吸収剤が原因のひとつであるといわれています。この「みどりまゆ」の日焼け止めは、紫外線吸収剤フリー。環境にも配慮された製品なのです。
「全社員の物心両面の幸福を追求し、日本文化である伝統産業のきものの発展に寄与するとともに、障がい者雇用を通じて社会に貢献すること」が自分の使命だという岡元社長。愛する「十日町」の存続を願って、立ち上げ、守り、発展させていくなかで生まれた「みどりまゆ」のコスメ。その心地よい使用感や機能性の高さとともに、そんな切なる想いをひとりでも多くの方に知っていただきたいのです。
※1 年齢に応じたお手入れ ※2 加水分解セシリン ※3 紫外線吸収剤不使用
絹生活研究所
新潟県十日町市昭和町1-129-6
0120-611-240
取材・文/新田晃代