親にはいつまでも元気でいてほしいけれど、予告なしに倒れるのが世の常。父親から貯金通帳の保管場所を聞き、金銭面の準備をしたつもりだったみかさん(47歳)は、救急搬送された父親を前に、お金がなくて窮地に!? 介護・暮らしジャーナリストで「介護とお金」のスペシャリストである太田差惠子さんがひも解く、みかさんの失敗の原因は?
太田差惠子さん
介護・暮らしジャーナリスト。1993年頃より老親介護の現場を取材。取材活動より得た豊富な事例をもとに「遠距離介護」「仕事と介護の両立」「介護とお金」 等の視点で講演・執筆。ファイナンシャルプランナー(AFP:日本FP協会認定)の資格も持つ。一方、1996年親世代と離れて暮らす子世代の情報交換の場として「離れて暮らす親のケアを考える会パオッコ」を立ち上げ、2005年法人化した。現理事長。著書多数。
ある企業で講演したとき、終了後に1人の女性社員が近寄ってこられました。「父親の介護で失敗してしまいました。話を聞いていただけますか」(みかさん・47歳)と……。
キャッシュカードが見つからない!
みかさんは家族と、東京都内在住。母親はずいぶん前に亡くなり、父親(77歳)は千葉の実家で1人暮らし。
そんな父親が、2か月前、病院に救急搬送されました。スグに「入院保証金」として10万円の現金を病院に支払う必要がありました。父親からは「何かのときは、通帳類は金庫に入っているから」と言われていたそうです。
みかさんは実家に行き、金庫を確認。父親の通帳と印鑑が入っていました。キャッシュカードは見つからなかったため、通帳と印鑑のみを携えて、銀行の窓口へ。
銀行の窓口
みかさん「父が倒れたので、代わりにおろしにきました。私は長女です。父親の通帳と印鑑です」 銀行員「お父さまの委任状をお持ちですか」 みかさん「ありませんが……。私の身分証明証とか出しましょうか」 銀行員「申し訳ございません。ご家族であっても、委任状がないとお金をおろすことはできないのです」 みかさん「委任状を書いてもらおうにも、父の意識が……」 銀行員「申し訳ございません」 |
入院して2か月が経過した現在も、父親の意識は混濁しており、「お金」の話をできる状況ではないそうです。
みかさんを悩ませているのは、「お金をおろせない」という事実だけではありません。みかさんには弟がいるのですが、父親のお金がおろせないと相談したところ、「僕は、立て替えるのはムリ。ねえちゃん、頼むよ」とまるで他人事だったとか。以来、姿を見せなくなりました。
みかさんは苦渋の表情を浮かべます。
「私は、仕事を辞めたくない。父には施設に入ってもらおうと考えています。でも、お金が……。どうして娘なのに、お金をおろせないの」。
弟のことも腹が立って仕方がない様子。
「弟は、まるで『一抜けた』って感じ。ありえない」と。
みかさんはこれからどうするべき?
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成年後見人なら預貯金の出し入れ可
現在、金融機関では、本人確認が厳しくなり、夫婦や親子であっても、委任状がないと口座からの出金は難しくなっています。
しかし、認知症であったり、みかさんの父親のように寝たきりであったりすると、窓口に行き自分で出金することも、委任状を書くことも困難。そのような場合に有効なのが、「成年後見制度」です。もし、みかさんが成年後見人に選任されれば、本人に代わって預貯金の出し入れをすることができます(ただし、最近は家族が選任されないケースが増えています)。
みかさんの父親のケースでは、成年後見制度を申請することが急務だと思われます。窓口は家庭裁判所です。
事前の「預かり金」や代理人キャッシュカードが役立つケースも
読者のみなさんは、みかさんのような失敗をしないよう、親が元気なうちに、親の介護費用について親と話し合っておくことをお勧めします。できれば、兄弟姉妹とも。
介護が必要になったら、「どのお金」を「どのように使えばいいか」。
もっとも手軽な方法は、親にキャッシュカードの保管場所と暗証番号を聞いておくこと。でも、下手に聞くと、「財産を狙っているのか」と怒鳴られるかもしれないのでご注意を。聞き方にはコツがあります!
また、「代理人キャッシュカード」を作成しておいてもらう方法も考えられます。
あるいは、親のお金を「預かり金」としておく案も。子供名義の新しい口座を作ってそこに移す。親と覚書を交わすことで、子がスムーズに管理できるようになります。
ほかにも、「家族信託」が有効なケースもあるかもしれません。
*「親の介護には親のお金を使おう!」(太田差惠子著 集英社刊 P49より)
きょうだいとの確執も大きなストレスになります。立て替えたお金は、いつか精算できるよう、介護家計簿を作って、仕事の経費と同じように、レシートや領収書を残しておきましょう。
*「親の介護には親のお金を使おう!」(太田差惠子著 集英社刊 P135より)
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『親の介護には親のお金を使おう!
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