新刊、『「女子」という呪い』でますます注目を集める、雨宮処凛さんへのインタビュー後編。
彼女自身の経験も、本書には数々描かれている。10代から20代の、彼女と彼女を取り巻く女性たちの生きづらさは、鮮やかに心に焼き付く。
女性だから、ということで味わってきた、悩みと苦闘。とはいえ、それは、オトナになった私たちには縁遠いもののように感じるかもしれない。
でも、ちょっと待って。
女性は「死ぬまで」生きづらい、という話もある。働く女性の平均収入約150万円。人生100年時代に、最後にひとり残された場合、女性の場合、なんと、ふたりに一人が「貧困」、というデータもある、と雨宮さん。
若いときも、そして年を重ねても、女性だからというだけで呪われる。こんな社会で、私たちはこれからどう生きたらいいのかしら?
(取材・文/水田静子 撮影/山下みどり)
「女性だから」というだけで排除され、
男性並みの経済力が持てない社会で。
10代から社会との折り合いがつかず、自身が「生きづらさ」を抱えていたという雨宮さん。キャバクラ嬢をはじめ種々の職業を転々とし、さまざまな悩みに揺れた経験を重ねて、やがて「書く」ことに答えを見出してきた。世間でいう「底辺」に近いところでものごとを体験してきた雨宮さんだからこそ、ちょっとした出来事の中に「生きづらさ」の本質を見出している。性差の偏りに対する憤怒にも、また同性に寄り添う目線にも、借り物ではない力がある。その言葉ひとつひとつがストレートに伝わってくる。
「なぜ性差で、人生を変えられなければならないのだろう」と雨宮さんは問いかける。
つい最近も、公平であるべき大学入試で女性が点数で差別されるという、とんでもない事実が発覚した。実際の点より低い扱いにされたそのわけは、ただひとつ。「女性だから」。
こんなおかしいことが、なぜ日本では繰り返されて、終わらないのか? まっとうなその疑問に、有効な答えがない。21世紀になっても連綿と続く、このジェンダーの問題をほどいていく手立てはないのだろうか。
「『早く結婚しろ』とか『早く産め』と言いながらも、妊娠、出産の可能性がある女は医師からは排除する。ダブルスタンダードですよね。でもこれは東京医大の問題だけではなくて、女性を出世の道から排除するようなことは一般企業でも行われていると思います。そうして女性の多くが男性ほどの経済力は持てない。これは日本の社会の構造の問題なんです。
だから家庭でも、夫に威張られたり、嫌なことをされても文句が言えない。文句を言ったとしても、家を出るという選択にまではなかなか行けない。
現在、働く女性の6割は非正規社員で、平均年収は148万円です。シングル・マザーの家庭の半数以上は、国が定める貧困ライン以下の収入しかありません。そしてある程度の年齢以上ともなれば、仕事を見つけることも簡単ではない。〝生きにくい″現実があるんです。
それって他人事ではないですよ。いま、夫がいて安泰した生活がある方は、ジェンダーとかフェミニズムなんて、自分には関係ないと思っているかもしれませんが、夫が早くに亡くなるかもしれないし、病気で貯金を使い果たすかもしれない。人生なんて予期できない。境遇が一変することもあるんです。幸せな結婚をしたはずの娘さんが、シングル・マザーになるかもしれない。その上、65歳以上の単身女性の半数以上が貧困というデータもあります。
男たちがずっと大きな顔をしてこられたのは、これまでそうした社会構造の中で、男の人の立場や賃金が底上げされてきたからだ、ということに、男女ともに自覚的でないと、すごく危ないと思います」
→じゃあ、どうすればいい? 具体的な「呪い祓い」の方法は、次のページに!
「これっておかしいよね?」
と口に出すことから、一歩が始まる。
雨宮さんが本書を執筆中、アメリカ・ハリウッドの映画女優たちを中心とした『Me Too』運動が起こって、世界的な話題となった。仕事で権力を持つ男性に、セクシャル・ハラスメントやパワー・ハラスメントを受け、悔しい思いをしつつも従わざるをえなかった女性たちが、ついに「NO」と声を上げたのである。
「これまでも単発的な告発はあったのでしょうけれど、黙殺されていたのでしょう。それが勇気ある女性たちによって、ようやくムーブメントとなった。メディアも大きく取り上げ、(映像)業界も受けとめた。女という呪いがとけはじめた瞬間でしたね。まだまだたくさんの問題はあるのでしょう、でもすごく大きな進歩だったと思います」
時代は、世界的に大きな転換期を迎えているのだろうか。この本で雨宮さんが投じた一石は、波紋となってじわじわと広がり、やがて大きな波となっていくのかもしれない。
「長い時間変わらなかった、性による差別の意識ですから、急激に変わることはないでしょうけど、でもあきらめていてはいけないと思うんです。ただみんな、それぞれに苦しい、おかしいと思っていても、つい、自分が勘違いしているのかなとか、自分さえ我慢すればいいのかな、などとついつい思ってしまいがち。
そんなときは、男と女の性別を置きかえて考えることを提案したいんです。
『女なんだから、それをしてあたりまえ』『こうされてあたりまえ』と言われたら、『男だから、こうしてあたりまえ。されてあたりまえ。そう言われたら、どう思います?』と、さらっと返してみてください。黙りこむか、怒りだすか(笑)。
わかりやすいのが、少し前に『保育園落ちた日本死ね』という、物議をかもしだしたブログの記事がありましたよね。保育園に落ちて、泣く泣く仕事をやめざるをえなかった妻はいても、それで仕事をやめた夫なんて、聞いたことがない。皺寄せは全部女の人に降りかかってくるようにできている。そのおかしさを見つめてみたほうがいい」
逆転させて考えてみれば確かに理不尽だ。そうやって見つめなおしたら、いつも無理したり、我慢する役、となるのをやめることもできそうだ。経済力では引け目があるとしても、人として考えれば、お金を稼いでいる人ばかりが偉いわけではない。
「まずは、違和感を感じたら、女同士で喋って、これっておかしいよね、と言い合う、共感しあうことが大切だと思います。Me Tooは、まさにそれが大きくなっていった形。まずは口に出して言い合う。それだけで意識は変わっていくはずですし、やがてそれが、思いがけず大きな力になっていくこともある。
あきらめずに、口に出してみましょう。いつだって、自分にとってよりよい人生を求めることはまちがっていませんから」
プロフィール
あまみや・かりん 1975年、北海道生まれ。作家、活動家。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。数々の著作を発表する側ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ね、紛争や問題の起こる現地の状況を直接取材。格差や貧困についての取材、執筆も精力的に行う。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。反貧困ネットワーク世話人。著書に『一億総貧困時代』など多数。新刊『「女子」という呪い』(集英社クリエイティブ)には、各方面から賛同の声が集まっている。
『「女子」という呪い』 雨宮処凛著 集英社クリエイティブ 1100円+税