OurAge読者の皆さま、初めまして。私、少女漫画をこよなく愛するライターIです。
華麗な線に麗しい人物。彼女(彼)らでなければ不可能な、ファッションやヘアスタイル。生涯住むことはないであろう、お屋敷やお城。それらをうっとりと眺めながら壮大な人間ドラマに巻き込まれるうちに読み手の心身も潤う……。
そんな少女漫画の美学を極めている作家といえば、ご存知、一条ゆかり先生。
志高く、かつ美しい女性を描いたら随一の、一条先生の集英社デビュー50周年展覧会が、東京・根津の弥生美術館で、ただいま絶賛開催中です。
ぐぐ~っと寄ってみました。
ドラマチック! ゴージャス! ハードボイルド! まさに一条先生の世界観を言い当てている展示テーマ。
ちなみにこのポスターは、一条作品の中でもひときわハードボイルド感の強い『有閑倶楽部』のもの。もとは1980年代に、掲載誌だった『りぼん』の扉絵用に描かれ、コミックス4巻の表紙にもなっています。
しかし今回、改めてポスターとして見直してみると、スタイリッシュさがさらに際立っていて大感動。真ん中にいるのがヒロインの悠理。左が可憐で右が野梨子。主要な女性キャラ三人とも、超お金持ちの高校生という設定です。
可憐よ、あなたは高校生なのに胸元の空いたドレス×羽織もの、そして全員サングラスですか?! という突っ込みはご無用。この浮世離れした華やかさこそ、一条作品の最大の持ち味なのですから!
10代の頃から愛読し続けた数々の作品の原画に触れたくて、早速会場内の一階へ。
まずはデビュー初期の作品から。輝く瞳にすらっとした手足を持った、愛くるしい少女のイラストが並びます。サラサラのロングヘアやツヤ肌の少女の姿を見ると、自分も大人になったわぁ~と実感。
そしてあの頃に憧れた美しい女性になれているか、かつての己が持っていた素直さ、それとは相反する反骨の心をまだ忘れてはいまいかと、尋ねられているような気持ちに……。
そう、一条先生の描く絵は、幾つになっても私に「美とは何か」を問いかけてきます。
その「美とは何か」を、より深く突き付けてくるのが、1970年代に描かれた『デザイナー』です。実は今回、最も観たかったのが、『デザイナー』の原画でした。
母への復讐を誓うヒロインの亜美は、足の怪我からモデルの道を断念。ファッションデザイナーに転身します。そんな彼女の前に立ちはだかるのは、業界トップの鳳麗香。働く女の矜持が詰まった初期の代表作。OurAge世代ならば夢中になって読んだ方も少なくないはず。
ファッション業界がテーマなだけに、この作品、カラーイラストが実に艶やか。是非、美術館でご覧ください! レース、フリル、リボン、花といった、少女漫画に欠かせないガーリーなアイテムだけではありません。この日の展示では、ピンナップや連載の扉絵用に描かれたという、ヒロイン達がクラシックカーやバイクに乗っているイラストも観ることができました。繊細な絵柄と雄々しいメカとのギャップが恰好いい! 一条作品の中で描かれる美とは、ただ単純に甘いだけではないのです。
ドラマ化もされたヒット作品『砂の城』の絵もありました。
舞台はヨーロッパ。幼なじみ・フランシスへの思いを断ち切れず、運命に翻弄される、ヒロインのナタリー。私がこの作品で感じるのは切なさや苦しさといった、メロウな感情すらも、時には美に成り得るのだということ。一枚の絵として観ていても、充分にドラマチック感が伝わってきました。
そしてもちろん、一条作品最大のアクションシリーズ『有閑倶楽部』の展示も!
お金持ちの御曹司が通う、聖プレジデント学園と、その中でも選ばれし6人の美男美女で結成された生徒会「有閑倶楽部」。学園のセレブ感に憧れ、彼らのゴージャスな振る舞いと、事件を解決する行動力に、胸を熱くしたものでした。
『有閑倶楽部』に登場するメインの男子は、黒髪で生真面目な生徒会長の清四郎と、メカが大好きでやんちゃな魅録、スウェーデン大使の息子で長髪、優しい美童の三人。原画を前にすると、様々な思いが去来します。かつてあんなに好きだった清四郎には、もはや微塵も心が動かず。それと同時に今は、一時間でもいい、美童と一緒にふわ~っと楽しくお出かけしたい。魅録は「男友達だったら楽しいよね」という感じで、昔も今も、あまり惹かれないタイプ。「またそんなムチャやってんの?!」と、突っ込んでしまいそうで。
思えば、男性の持つ「様々な美しさ」を教えてくれたのも、一条ゆかり作品でした。もちろん展示では、その他の作品の魅力あふれる男性キャラのカットもたくさん眺めることができます。
1960年代末から少女漫画界のトップを走り続けてきた一条先生の集大成が、2003年から7年間に渡って連載されていた『プライド』です。
オペラ歌手を目指す、性格の異なる女性達の闘いを描いたこの作品。オペラというハイカルチャーと共に、劣等感や自尊心など、人の心の中にある普遍的なものをテーマにした作品だからでしょうか。何かふつふつと熱いものがこみ上げてきます。情熱や野心もまた、美には欠かせないものであると、数々の絵を前にして思い知らされました。
一条先生の世界を堪能したあとは、美術館併設のカフェ、「港や」へ。
ここでは会期中に『有閑倶楽部』のラテアートが楽しめるのです。その名も、ヒロイン悠理のパパ(財閥の長で趣味は畑仕事)の名を冠した「万作カプチーノ」。注文をすると万作さんと悠理、そして悠理の愛猫・タマ&フク、4種類のどれかのラテアートが出てきます。
私と友人達(実は3人で行きました)のテーブルには、悠理、そしてタマとフクがやってきました! お茶請けには小判型のおせんべいつき。20人に1人は、おもちゃの小判が当たるようなのですが、私達は当てられず……残念!
展示中はそれぞれの思いを巡らせて原画に浸っていた私と友人達ですが、ほっこりラテアートを楽しみながら、「贅沢な夢を見させてもらった~」と盛り上がったのでした。
自分用のおみやげに買ったのは、展示の図録にもなっているイラスト集とクリアファイル。
このイラスト集が大当たりでした! 原画の後に、プリントされたものを観ると、また受ける印象が違うのです。特にカラーイラストは、より華やかさが増すような……? 改めてすべての原画が、印刷用に細かく計算されて描かれていたと気づいて驚きです。
クリアファイルはお疲れモードの時に眺めて『有閑倶楽部』メンバーにカツを入れてもらいましょう。
デビュー直後のキュートなイラスト、そしてシリアスからゴージャスまで、一条ゆかり先生が50年かけて作り上げた世界観から感じたのは、美しさには無限の種類があり、それは時々によって変化し、しかし一日にして成らず、ということ。
作品に触れながら、自分自身の美へのモチベーションを底上げする。これもOurAge世代ならではの少女漫画の楽しみ方かもしれません。
『集英社デビュー50周年記念 一条ゆかり 展
~ドラマチック!ゴージャス!ハードボイルド!』
2018年12月24日(月・祝)まで。
*会期中、カラー原画と一部の作品の入れ替えあり。
(中期の展示は11月25日(日)まで)
料金 一般900円/大・高生800円/中・小生400円
(併設の竹久夢二美術館と併せて鑑賞が可能)
開館時間 午前10時~午後5時(入館は4時30分まで)
休館日 月曜 *ただし12月24日(月)開館
公式サイト:http://www.yayoi-yumeji-museum.jp/yayoi/exhibition/now.html