前回は、漫画家であり、エッセイや講演などでも活躍しているヤマザキマリさんのインタビューをご紹介しました 。
現在、『ヤマザキマリの偏愛ルネサンス美術論』( ヤマザキマリ 著/集英社新書 760円 )が発売中。その他にも、面白くてタメになる美術にまつわるさまざまな本、ご紹介しますね。
初めて見るチャンスは1回。
その大切さを感じてほしい
『驚くべき日本美術』
山下裕二、橋本麻里 著/集英社インターナショナル 1,600円 美術史家の山下裕二氏は、それまで一部の好事家のものだった日本美術にアクセスするためのパスワード「筆ネイティブ」や「生理的曲線」を用いて、応挙や若冲、白隠にスポットライトを当てた立役者の一人。橋本麻里さんは今注目の美術ライターで、大学教授でもある山下氏の聴講生だったそう。師弟の二人が日本美術の見方を対談形式でレクチャーする本書は、大学のゼミに参加しているような感覚で日本美術について学べます。
週末はこの本をバッグに入れて
ふらりとアートな小旅行に出かけたい
『東京のちいさな美術館めぐり』
浦島茂世 著/ジービー 1,600円 All About 美術館オフィシャルガイドの著者が、今まで訪ね歩いた中から小さくてキラリと光る美術館106館を紹介。閑静な住宅街の一角や廃校になった小学校、歴史を感じさせる洋館、はたまたブランドショップのワンフロアにあったりと、まさに東京は美術館の宝庫。しかも豊富なビジュアルと、オリジナルグッズやカフェに至るまで丁寧な取材で集めた情報が満載。アート好きにおすすめのユニークな東京ガイドブックです。
イタリア・ルネサンスを
丸ごと体感するのに最適
『芸術家列伝1、2、3』
ジョルジョ・ヴァザーリ 著 平川祐弘、小谷年司、田中英道、森雅彦 訳 /白水Uブックス 各 1,500円 イタリア・アレッツォに生まれたヴァザーリ自身、画 家、建築家、都市設計や祝祭演出などマルチな才能を発揮した芸術家。その彼の最たる作品『芸術家列伝』はイタリアではダンテの『神曲』と並び称される古典の書。ボッティチェリやレオナルド・ダ・ヴィンチなど、ルネサンスの芸術家たちの評伝を若き日に読破したヤマザキマリさんは「日本語訳で読めるようになるとは、思いもよらなかった」と感慨深げに推薦。
隠された本当の意味を読み解けば
絵は饒舌に語りかけてくる
『「怖い絵」で人間を読む』
中野京子 著/NHK出版 1,100円 ベラスケスが描いた『フェリペ・プロスペロ王子』やヴィンターハルターが手掛けた『エリザベート皇后』。その愛らしさや美貌の陰には過酷な運命や美貌ゆえの孤独が秘められていると、西洋文化史が専門の著者は語ります。19世紀以前の西洋絵画は「見て感じる」より「読む」べきと。人間の心の底に潜む闇を一枚の絵画から読み解いていく過程はまるで上質なミステリーのよう。読み進むにつれ、きっと実物と対面したくなります。
ベテラン学芸員がそっと教える
日本美術「鑑賞のツボ」
『思いがけない日本美術史』
黒田泰三 著/祥伝社新書 880円 著者は出光美術館の学芸員として長年超一級の日本美術に直接触れてきた経験から、展覧会で従来の説にとらわれない独自の鑑賞法を「鑑賞のツボ」として添えることで、日本絵画の面白さを伝えてきたエキスパート。この本では日本美術史上重要な「彦根屏風」や長谷川等伯の「松林図屏風」など12点について、なぜその絵が描かれたのか、何を伝えようとしているか、知るほどに奥深さを増す日本美術の魅力に迫ります。
科学の言葉で芸術を語ると
美の本質が見えてくる
『芸術と科学のあいだ』
福岡伸一 著/木楽舎 1,500円 大のフェルメールファンとして知られる生物学者の著者は、科学の言葉で美を語ることができる稀有な存在。物事や存在を単純に分けることに懐疑的な著者だけに、理系的なセンスと文系的センスが程よいバランスでつづられる文章には清潔感のある知性が宿り、取り上げる題材もグッゲンハイム美術館から葛飾北斎まで、その守備範囲の広さに脱帽。理系が苦手な人、アートがわからない人にこそ、おすすめの一冊。
撮影/恩田はるみ 取材・文/鈴木美穂