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近藤誠さんに聞く、コレステロールに「悪玉」なし!?

近藤 誠さん

近藤 誠さん

1948年生まれ。83年より慶應義塾大学医学部放射線科講師をつとめ、乳房温存療法のパイオニアとして、抗がん剤の副作用、拡大手術の危険性など、がん治療における先駆的な意見を発表し、啓蒙を続ける。その功績により2012年、「第60回 菊池寛賞」を受賞。現在、「近藤がん研究所・セカンドオピニオン外来」を運営。

慶應義塾大学病院在職中から現代医療の常識に一石を投じてきた近藤誠さんに、OurAgeの更年期コラムでもおなじみ草野いづみさんがインタビュー。話題の最新刊『もう、だまされない! 近藤誠の「女性の医学」』から、草野さんが特に気になったテーマを掘り下げます。

近藤先生_写真

近藤誠ドクター×草野いづみさん

 

悪玉コレステロールはまやかしです

 

草野 前回、「病気の不安に打ち克つ秘訣」をうかがいましたが、実は私も気がかりなことがありまして。この間、職場の健康診断で総コレステロール値が基準値より高いとかで「要受診」の知らせがきちゃったんです。

 

近藤 コレステロールは高いほうが長生きするよ。

 

草野 それって私の認識と逆。詳しくお聞きしたいです!

 

近藤 たとえば、「高コレステロール血症(高脂血症)」と診断された日本人約5万1千人にコレステロール低下薬を飲ませて1992年から1999年までの6年間追跡調査した大規模臨床研究(日本脂質介入試験・J-LIT研究)では、コレステロール値が下がるほど、脳卒中、がん、事故、自殺による死亡率が増え、総死亡率が高くなったことが2001年に発表されています。

近藤先生_写真

 

草野 世間ではコレステロールが高いと血液ドロドロで、心筋梗塞などで早死にすると思われているけれど、それと逆の結果ですね。
近藤先生はずいぶん前からコレステロールの基準値に問題があると指摘されていましたが、そもそも〝基準値〟って、どのように決めるんですか?

 

近藤 基準値というのは、「これ以上になったら病気」と診断するための数値で、疾患ごとに各学会や厚生労働省研究班の専門家たちが話し合って決めます。
高コレステロール血症の診断基準は、日本動脈硬化学会の指針で従来、「総コレステロール220以上」が基準値で、「280」でも薬を出さない欧米とは大違いだったんです。

 

草野 でも、日本人よりアメリカ人のほうが肥満は多いし、心筋梗塞もずっと多いのでは?

 

近藤 日本人の心筋梗塞発症率はアメリカの3分の1程度。さらに女性の場合は男性の半分程度です。

 

草野 なのに、一体どうして?

 

近藤 基準値が厳しいほど、異常だ、病気だとされる人が増え、薬が売れるのは自明の理でしょ。実際、当時の基準値では約6割もの人が異常になり、しかも、女性は男性の2倍近い約500万人が高コレステロール血症にされてしまったんです。

 

草野 6割もの人がコレステロールを下げる薬を処方されて、
その大半が女性だったということ!?
近藤先生_写真

 

 

近藤 そう。その売り上げは年間約3千億円にも上り、医者も製薬会社も大いに潤ったというわけ。本当にクレイジーですよ。

 

草野 あ、そういえば、私の友人もコレステロールを下げる薬を飲んでました。
60代後半で全然太ってないのに。

 

近藤 だけど、最初に言ったように、コレステロールを下げるほど寿命が短くなることがさまざまな比較試験でわかってきて、まっとうな医者たちから批判が高まってきたのね。そこで健診の専門家たちが新たな基準として持ち出したのが、LDLコレステロール、いわゆる〝悪玉コレステロール〟です。
2008年から、悪玉コレステロールを含めたメタボ健診(特定健診)がスタートしたわけですが、これまた、まやかしです。
近藤先生_写真

 

草野 悪玉コレステロールの基準値にも問題が?

 

近藤 従来と同じで、アメリカより基準が厳しいのは変わらなかった。
というのもね、基準値を厳しくすれば、製薬会社から見返りに、研究費などと称して多額の寄付金が転がり込んでくるという裏事情があるんです。
メタボリックシンドロームの診断基準をまとめた作成委員会のメンバーのうち、国公立大学の医者11人全員に、3年間で治療薬メーカーから計14億円の寄付があったことが、読売新聞の調査でわかっています。基準値作成を主導した、大学教授の所属講座には3年間で3億150万円もの巨額な寄付が寄せられていました。(読売新聞2008年3月30日朝刊)

 

草野 ふーん、そうだとすると基準値自体「??」と疑わしくなりますよね。
利益相反とか?

近藤先生_写真

利益相反とは研究者が企業から資金提供を受けるなどの利益関係により、公的研究での公正な判断が損なわれたり、損なわれると疑われかねない状況のこと

 

近藤 まさにそういうこと。しかも、LDLコレステロールは悪玉なんかじゃないんだよ。LDLコレステロールは体に必要不可欠なコレステロールを全身に運び、その働きがなければ人は生きられないんだから。

日本で行われた数万人を対象とする大規模調査では、男女とも、LDLコレステロールの値が低いほど死亡率が高くなっていました。

 

草野 コレステロールは女性ホルモンの材料だから必要という認識はあったけれど、悪玉コレステロールは悪玉っていうくらいだから低いほうがいいのかと思ってました。悪玉コレステロールは濡れぎぬを着せられていたわけですね! 

 

近藤 その通り。〝悪玉〟とか〝血液ドロドロ〟といったキャッチーな言葉で、悪者に仕立て上げられているけれど、本来、コレステロールは細胞膜の重要な構成要素。脳や神経にもっとも多く、各種ホルモンや胆汁もつくっている、生きるために不可欠な〝長寿のもと〟なんです。

 

草野 なるほど。そういうことは知りませんでした。
「悪玉」という言葉で気づかぬうちにイメージ操作されているんですね。

 

女性にコレステロールの薬は必要ない?

 

草野 ただ私の場合、ダイエットしてかなり体重が落ちたのに、コレステロールが前より高くなってしまったのですが、大丈夫でしょうか?
近藤先生_写真

 

近藤 閉経を迎えるとコレステロールが高くなるのは女性の特質。
女性ホルモンの減少による生理現象だから、気にしなくていいんです。
昨年、コレステロールの基準値が緩和されて新基準ができたものの、草野さんのように、閉経後、健診や人間ドックで「高コレステロール血症」と診断される女性は山のようにいますよ。

 

草野 そうなんですか。女性は妊娠機能があるうちは体が守られて心臓疾患なども少ないけど、閉経くらいからコレステロール値が上がるので要注意、と何かで読んでそう思ってました。

 

近藤 『女性の医学』でも書いたけれど、欧米では「女性にコレステロールの薬は不要」が常識。米国医師会の論文では、「女性に対するコレステロール低下治療薬は、たとえ心血管系疾患の既往歴があっても、死亡率を改善しないので不要」という結論が出ています。

近藤先生_写真

 

草野 とはいえ、コレステロールが高すぎるとやっぱりダメでしょ?

 

近藤 確かに総コレステロールが350以上もあれば心筋梗塞などの可能性があるけれど、そこまで高いケースは大抵家族性のコレステロール血症で、多くの場合、男性。

それに何度も言うように、コレステロール値を薬で下げても、心血管系疾患に効果がなく、むしろコレステロールが低い人ほど死亡率が高いという研究結果が出ているわけですから、かえって危険。

 

草野 私は260くらいだったから、薬は飲まなくていいってことですね。

 

近藤 コレステロールを下げる薬には、筋肉を溶かし、肝機能や末梢神経に障害を起こす可能性もあります。

必要もない薬を飲んで副作用が出たのではたまったもんじゃないでしょ。ところで、クスリを反対から読むと?

 

草野 リスク!

 

近藤 ご名答(笑)。

近藤先生_写真

 

草野 勉強になりました!

 

(まだまだ聞きたいことが山ほどある草野さん。第3回につづきます!)

 

 

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『もう、だまされない! 近藤誠の「女性の医学」』集英社 1300円(本体)+税

 

文・構成/石丸久美子
撮影/ガンダーラ井上

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