メディア共演をきっかけに10年来親交を深めている、医師である名越康文さんと根来秀行さん。お二人が、 自律神経などの内部環境の変化や、人間に秘められた力について語り合いました。
名越康文さん
Yasufumi Nakoshi
1960年生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。専門は思春期精神医学、精神療法。臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など、さまざまな分野で活躍中。著書に『「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)、『生きるのが“ふっと”楽になる13のことば』(朝日新聞出版)、『精神科医が教える 良質読書』(かんき出版)など。夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話」、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中
呼吸法は人間に秘められた力を引き出します
名越 根来さんは超忙しいけど、ストレスないの? いつも「朝から絶好調です」って言うやん(笑)。
根来 細胞呼吸をしっかり働かせているので大丈夫です(笑)。
名越 僕は40代半ば頃、すごく調子が悪くて。食欲もないし熱っぽいし、でも風邪でもない。夜バリバリ仕事しても、朝起きたら「俺って必要のない人間や」と思ってるわけ。今考えたら更年期うつだけど、そのときは「40代ってこんな感じなんやろな」と思ってた。
根来 自律神経やホルモンの機能などの内部環境って目に見えないだけに、実感しづらいですしね。特に更年期世代は多少調子が悪くても、年のせいだと思って、生活を見直すに至らない人は多いです。
名越 でも2〜3年たったとき、朝、まず運動して、ちゃんと水分をとって食事に気をつけて、睡眠を十分とるようにしたんです。そうしたら、次の冬にはそういう症状がなくなった。
根来 自律神経が整って、内部環境がきれいになって、細胞が息を吹き返したんですね。
名越 以来ずいぶん調子いいけど、朝起きるとまだちょっと気が重い。だけどそれも、根来さんが教えてくれた呼吸法で改善したの。
根来 リンパ呼吸法ですね。
(※リンパ呼吸法は、次回、詳しくご紹介します)
「夜、リンパ呼吸法をすると毎朝、ほんまに体が軽いんです」(名越康文さん)
名越 それ! 老廃物がたまると、リンパの滞りがこぶし大にもなるって、ゾッとするやん。それが寝る前に腹式呼吸を10回やると、こぶし大のリンパ液が鎖骨下に全部流れていって小指ほどになると。僕にはその絵面がありありと想像できて、すごいヤル気が起きた。
根来 よかった!
名越 それで毎晩するようになったら、朝起きるとき、ほんまに体が軽いんです。眠りの質が上がって、目覚めがものすごくいいのね。
根来 眠っている間に、内部環境がきれいになったんでしょうね。僕の研究室でも検証しましたが、ドロドロだったリンパ液が、呼吸法後にはサラサラに変化しました。
名越 僕が存じ上げている僧侶に、高齢になられてからも闊達で頭脳明晰で、あらゆる悩みに日々解答を与えていらっしゃる方がおられます。これは深い瞑想と行法をされているからで、この瞑想は呼吸法なしには成立しない。だから細胞呼吸のことを聞いたとき、「これは気休めの健康法ではない。人間の存在をバージョンアップするくらいのことや」と思ったんです。その大阿闍梨(だいあじゃり)さまのところには12年前から毎月2回はお邪魔しますが、寝込んでおられるのを見たことがない。驚異的な免疫力。
「『鬼滅の刃』の呼吸法はまさに細胞呼吸です」(根来秀行さん)
根来 その方のように、人間の体にはすごい可能性が秘められていると思うんですよ。漫画『鬼滅の刃』では、鬼を倒すときに呼吸法で毛細血管にバーッと血液を行き渡らせてパワーアップしますが、あれはまさに細胞呼吸へのアプローチ。新型コロナウイルスも毛細血管に取りついて悪さをしますが、免疫細胞がいち早く駆けつけて、自然免疫の段階で駆逐できれば、その後の感染には至りません。
名越 細胞呼吸って、本当によくできてる。知れば知るほど、体に対する尊敬の念が深まるなあ。
根来 実は、細胞呼吸の現場であるミトコンドリアのメカニズムが、コロナの治療薬の開発に応用できることを発見しまして。その研究も進めているところなんですよ。
名越 まじスゴイ! みんな、この人について行きや、天才やで!
根来 いやいや、精進します!
参考書はコレ!
『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業病まないための細胞呼吸レッスン』
根来秀行 著/集英社 1,300円
新型コロナ対策としても知っておきたい細胞の仕組みや、免疫力を高めて病まない心と体に導き、体の潜在能力を引き出すメソッドが満載。青山学院大学駅伝競走チームの選手や原晋監督も実践して、今年の箱根駅伝の優勝に貢献。全身の細胞に効く一冊です。
撮影/角守裕二 構成・原文/石丸久美子