肺非結核性抗酸菌症(肺MAC症)
私がお答えします!
複十字病院・安全管理特任部長
尾形英雄さん Hideo Ogata
呼吸器内科。日本呼吸器学会指導医・専門医、日本内科学会認定内科医。特に結核、肺非結核性抗酸菌症、COPDが専門
相談
先日、定期健診で肺に影があると言われました。咳や痰が出ますが、どんな病気が考えられますか?
答え
結核や肺がんなど、いろいろ考えられますが、最近、中高年の女性に増えている病気に、肺非結核性抗酸菌症があります。
身近な環境に生息する菌に感染して起こる慢性の肺疾患。
非結核性抗酸菌は水まわり、土やほこりの中など、私たちのごく身近に生息している菌。肺非結核性抗酸菌症とは、その菌の空気感染によって起こる肺の慢性疾患です。
かつて日本の国民病といわれていた「結核」の結核菌は、この非結核性抗酸菌が突然変異したもの。まさに親戚のような菌で、おもな症状が咳や痰という点も似ています。しかしながら性質は穏やかで、人から人への感染はなく、結核に発展するということもありません。
初期の頃は無症状なので、健診や人間ドックの胸部レントゲン検査で、肺に影があると言われ、再検査で見つかるケースが多く、また咳や痰の悪化や血痰が出て発覚することも。肺非結核性抗酸菌症の90%は、中高年女性に多い肺MAC症で、最近、増加傾向にあります。
特に痩せ型の女性で、食事の量がたくさんとれず、栄養状態が悪い人に多く見られます。
また、この菌は42℃くらいの温水や土壌に多く潜んでいるため、発病に関係するリスクには風呂や園芸などが挙げられています。空気感染なので風呂の“水しぶき”や、土をいじることで舞い上がる“土ぼこり”を吸い込むことが原因。
この病気の日本人の罹患率が高いのは風呂文化にあるという指摘も。多くの人が日常的にこの菌に触れているにもかかわらず、発症するのは一部の人です。
罹患したあとのセルフケアで重要なのは、栄養バランスのいい食事(特にタンパク質と良質な油)を心がけることに加え、菌が増殖しやすい風呂の追い炊きや、ガーデニングを避けることも必要です。
確定診断はCT検査と喀痰(かくたん)検査(2回以上陽性)で行われます。治療は3種類の薬の併用による投薬治療が中心。軽症の場合は経過観察、長く薬を飲んでも痰から菌が消えない場合は手術で肺の一部を切除することもあります。
この病気は7~8年かけてゆっくり進行するので、治療も長期になります。そのため、症状が軽い時期は薬を処方されているのに、勝手に服用をやめてしまう人も。肺は一度壊れると再生しません。中には「まだ大丈夫」と思っているうちに悪化させて、命にかかわるケースもあります。何よりも、しっかり治療を続けて、治癒させることが大切です。
2021年5月には、欧米で市販化されていた新しい吸入薬「アリケイス」が保険適用になり、日本でも使用が可能に。これは気管支を通して薬剤が直接肺の病巣に届くので、高い効果が期待されています。
自分で行う対策
- ●規則正しい生活、栄養バランスのいい食事。
- ●特にタンパク質と良質な油が大事。ガーデニングなどの土いじりや風呂の追い炊きに気をつける。
病院で行う治療法
- ●薬物療法(経口薬、筋肉注射、点滴静注)、薬が十分効かないときは手術療法。
イラスト/macco 取材・原文/山村浩子