日々アップデートされる腸内環境研究から、ぜひ覚えておきたい6つの情報を厳選。
今回は、その中から3つのキーワードをご紹介します。
01 イヌリン
手軽にとれる健康食品も。腸内を元気にする新素材に注目
厚生労働省による国民健康・栄養調査(2016年)では、日本人の食物繊維の平均摂取量は13.7g。女性は1日18gの摂取が推奨されていますが、遠く及ばない数字です。しかも、腸内細菌のエサとなる水溶性食物繊維の摂取が圧倒的に不足しています。
そんな中、現在、水溶性食物繊維として注目されているのが、ごぼうや玉ねぎ、キク科の植物チコリの根やキクイモから抽出される「イヌリン」。イヌリンはビフィズス菌などの腸内細菌のエサとなり、整腸作用や血糖値の上昇・中性脂肪の抑制にかかわる"短鎖脂肪酸"が産生されるのを促します。粉末化されたサプリメントは無味無臭なので、どんな料理にも手軽に加えることが可能です。
5000年前の古代エジプト時代から、
イヌリンが含まれるチコリの根は食されていたという文献もあります
02 アスリート菌
アスリートの便の調査でわかった腸内フローラのタイプ
28競技500人以上のアスリートから、合計1000検体以上の便を提出してもらい腸内フローラを解析。競技による腸内細菌の種類やバランスの特徴を調査研究しているのは、元サッカー日本代表の鈴木啓太さんが代表を務めるベンチャー企業「AuB(オーブ)」です。その分析結果によると、アスリートの腸内は一般の人に比べて腸内細菌の種類が多様であり、免疫機能を整えて腸の動きを活発にする "酪酸菌" の数が通常の₂倍もあることがわかりました。
さらに、競技種目ごとにタイプが似ているので、長距離、ラグビー、サッカーの各選手の腸内フローラを調べると、それぞれの特徴から、高い確率でどの競技の選手か判別できるそう。解析データをAI(人工知能)に読み込むと、サッカー選手か否か85%の確率で、ラグビー選手か否かも80%、長距離陸上選手については50%と、ある程度、識別できるまでになっています。こうした研究をもとに、優れたアスリートの腸内フローラに近づけてコンディションを整えるためのサプリメントも発売されています。
03 ポリアミン
タフな大腸に変えてくれる細胞内物質
「ポリアミン」とは細胞内で作られる物質で、細胞の増殖に深く関係しています。母乳に多く含まれ、赤ちゃんにとって腸の組織成熟や消化吸収機能を高めるものとして注目されています。母乳中のポリアミンの濃度には個人差があり、研究の結果、これが母親の腸内フローラと関係していることがわかってきました。
腸内にはポリアミンを産生する腸内細菌もいれば、エサとして吸収する腸内細菌もいますが、協同乳業の研究で、「プロバイオティクスLKM512」という菌を摂取すると腸内のポリアミン濃度が上昇することが判明。腸内でポリアミン濃度が上昇すると、腸管内の上皮のバリア機能向上、炎症などを抑える効果があるとして期待されています。
次回は、「大腸」最新キーワード(後編)/酪酸菌、FODMAPとMAC、スマートトイレについてご紹介します。
インフォグラフィック/ZOE イラスト/内藤しなこ 取材・原文/伊藤 学