認知症という言葉はよく耳にするけど、そもそも認知症ってなんですか? 東京慈恵会医科大学精神医学講座教授の繁田雅弘先生が詳しく解説する前編になります。
教えてくれた人
繁田雅弘さん
Masahiro Shigeta
東京慈恵会医科大学精神医学講座教授。同大学付属病院精神神経科・メモリークリニック診療部長。症状よりも「人」を診ることをモットーとし、問診を重視した診療を行う。著書に『認知症の精神療法』(HOUSE出版)、監修『気持ちが楽になる認知症の家族との暮らし方』(池田書店)
そもそも認知症という病名はありません。
認知症とは、記憶や注意力など認知機能がなんらかの脳の障害によって持続的に低下し、生活に支障をきたすようになった“状態”のこと。原因の疾患は水頭症、硬膜下血腫、外傷性脳挫傷など多数ありますが、代表的な認知症は下で紹介する4種類。多いのはアルツハイマー型認知症で、日本では認知症の半分以上を占めるといわれます。
認知症は種類によって症状が異なります。
認知症=記憶障害のイメージが強いですが、症状は原因となる病気によって違います。記憶障害がメインとなるのはアルツハイマー型認知症で、前頭側頭型認知症やレビー小体型認知症の場合は、記憶障害が目立たないこともあります。
代表的な4種類の認知症
脳にアミロイドβやタウタンパクなどの異常な物質が蓄積することで、脳神経細胞の働きが阻害。海馬から始まる脳の萎縮が徐々に進行します。
記憶の中枢である「海馬」を含む側頭葉の障害が目立ち、記憶障害が起こります。初期には昔のことはよく覚えていても、最近のことは記憶が定着しづらくなります。注意の低下を引き起こす場合も
脳梗塞や脳出血が起きて脳細胞に十分な血液が送られず、脳の神経細胞が酸欠状態になって、脳の働きが低下します。高血圧や糖尿病などの生活習慣病がおもな原因です。
障害のある部位によって症状が異なります。よく見られるのは歩行障害、ろれつが回らない、嚥下(えんげ)障害など。段階的に進行
判断力や行動の制御を司る前頭葉や言葉の理解に関する側頭葉で神経細胞が減少して、脳が萎縮します。
記憶の障害よりも、感情の抑制が利かなくなったり、衝動的な行動をとったり、社会のルールを守れなくなるといったことが起こります。同じ行動を繰り返したり、言葉が出にくくなることも
脳内にたまったレビー小体という特殊なタンパク質が、脳の大脳皮質に広く現れることにより、脳の神経細胞が破壊され、多種多様な症状が出ます。
認知機能が低下していくとともに、幻視や幻聴が出たり、筋肉がこわばって動きが鈍くなるパーキンソン症状が現れます。便秘や汗の異常、血圧の乱降下など自律神経の症状が特徴
写真/高橋ヨーコ 取材・原文/石丸久美子