うつの人は腸が乱れている
「うつ病、双極性障害、統合失調症などの精神疾患を持つ人は、腸内細菌のバランスがくずれて、腸管粘膜が弱っていることが知られています。実際に、うつ病の患者は下痢、便秘などのお腹のトラブルを抱えている人が多いのが現状です。ベルギーで行われた調査では、うつ病の人は特定の細菌が増え、体にいい影響を与える酪酸を産生する菌が減少していることがわかりました。こうした傾向を分析することで、うつ病の治療に役立つ可能性があり、今後の研究が期待されています」
●うつの人はバクテロイデス2型が増加
バクテロイデス属の腸内細菌は、動物性タンパク質や脂質をよく摂取する人に多く見られます
腸内細菌が認知症を引き起こす!?
「アルツハイマー型認知症の人の腸内細菌叢には、種類のわからない菌が増えており、また、細菌が代謝するアンモニアが認知症リスクを高めることがわかっています。一方で食事との関係を調べた研究があります。『伝統的日本食』(米飯、味噌、魚介類、野菜、海藻、漬け物、緑茶)、『現代的日本食』(日本食に大豆、きのこ、果物をプラス)、『コーヒーを含む日本食』で比べると、認知症のない人は認知症の人より日本食スコアが高く、魚介類、大豆、きのこ、コーヒーを多く摂取していました。
これらの食べ物は悪玉菌の働きを抑制します。また、以前からビフィズス菌の減少が認知症の進行にかかわっていることが報告されていますが、順天堂大学の研究では、ビフィズス菌MCC1274の摂取による認知機能の改善と脳の萎縮進行の抑制効果が明らかになっています。
●日本食と認知症の関係
P値は有意差を示す基準値。通常0.05未満の場合に有意と判定します。現代的日本食スコア(中央と右)が高いほど、認知症率が低い(青の棒)結果に
ストレスは腸で感じている!?
大きなストレスを感じると、お腹が痛くなったり、下痢や便秘になることがあります。「胃腸はストレスに敏感な臓器です。九州大学の研究で、腸内細菌を持たない無菌マウスは、ストレスを感じやすく、落ち着きがなく、学習能力が低いことがわかりました。
また、私たちの心の安定ややる気をコントロールしている、神経伝達物質セロトニンの9割は腸で作られています。ストレスに強いか弱いかは、腸内環境に左右されている。見方を変えれば、ストレスは腸で感じているのかもしれません」(内藤裕二先生)
良質な睡眠には腸の健康が大事!
筑波大学で行われた、腸内細菌と睡眠の関係を調べたマウスの研究があります。「腸内細菌のない無菌マウスは、本来は睡眠をとる時間帯に活動が増え、活動する時間帯に睡眠をとっており、昼夜のメリハリが弱くなっていました。そして精神を安定させるセロトニンが枯渇していました。セロトニンは睡眠を促すメラトニンの合成にもかかわっています。
この結果は、腸内細菌が睡眠の質にも大きく関係していることを示しています」。快眠を得るには、腸の健康を取り戻すことが先決かもしれません。
日本消化器免疫学会理事、日本抗加齢医学会理事。酪酸産生菌と健康長寿の関係を研究。著書に『すごい腸とざんねんな脳』(総合法令出版)など多数
イラスト/SHOKO TAKAHASHI 内藤しなこ 構成・原文/山村浩子