本人には外出した理由があります
「徘徊も暴言・暴力、妄想・幻覚などと同じように、BPSD(認知症の行動・心理症状)のひとつで、認知症の中核症状による二次的な症状です。本人の性格や体調、生活環境などでさまざまな症状があり、どの症状が出るかは人によって異なります。
そのなかでも、徘徊は目が離せなくなるため介護の負担が増え、警察などを巻き込むこともあるので、家族にとっては大きなストレスになります」(内門大丈先生)
室内や家の外を絶えず歩き回る、外出したが方向がわからなくなって帰ってこられなくなる。転倒によるケガや交通事故、夏場は脱水症状や熱中症、冬場は低体温症の心配があります。家族は気が気でありません。
「こうした状況も、はたから見ると目的がなく、ただ歩いているように見えるかもしれません。しかし、本人ははっきりとした目的や理由があって外出することも多いのです。
例えば、会社へ行こうとしていたり、親族や友だちに会いに行く、買い物が目的かもしれません。
認知症の人は最近のことは覚えられないのですが、昔の記憶は残っています。そこでよくあるのが、突然子どもの頃の記憶がよみがえって、生まれ故郷の町にいる錯覚に陥るのです。しかし実際は違う町なので、道がわからなくなるわけです。
また、いつも同じ時間に同じコースを歩きたがるのは、前頭側頭型認知症に多い症状。これは前頭葉や側頭葉が縮んで発症します。特に前頭葉の変性が原因となることが知られています。この場合、同じ行動を繰り返すというのが特徴です。
夜間に外出しようとする場合は、睡眠障害で昼夜が逆転していることもあります。朝起きて、太陽の光を浴び、朝食をとることで体内時計をリセットし、昼間は活動的に生活するといったメリハリのある生活が重要です。寝ているときに呼吸が一瞬止まる、睡眠時無呼吸症候群の症状がないか?も確認してください」
頭ごなしに叱らないで、理由をきちんと聞いてあげて!
では、どのように対応したらいいのでしょうか? それには7つの方法が有効です。
【徘徊の対処方法】
①叱らずに理由を聞いてあげる
ポイントのひとつは、頭ごなしに叱らないことです。たとえ、叱られた内容は忘れたとしても、そのときの恐怖や嫌な気持ちは残ります。するとそれから逃げようとして、さらに徘徊が進むかもしれません。
そして、なぜ外出したのか尋ねることも大切です。周囲の人にはわからなくても、本人なりに徘徊する理由があります。どんな答えが返ってきても、びっくりしないで、よく話を聞いてみます。明確な答えが返ってこなくても、会話の中にヒントが見つかるかもしれません。少しでも気持ちに寄り添うことが大切です。
②一緒に歩いてあげる
徘徊が始まりそうと気づいたり、途中で遭遇した場合は、すぐに引き戻すのではなく、しばらく歩かせてあげましょう。この場合は見守りが必要なので、一緒にしばらく歩いて、少し落ち着いたところで「そろそろ帰りましょうか」と優しく帰宅を促します。
③日中に適度な運動をする
日中はできるだけ活動的に過ごすと、夜よく眠れるので、夜間の徘徊予防になります。
体操をしたり、庭木の手入れや草むしり、家事をしたり、日曜大工のようなことをしてもいいでしょう。なにか役割を担ってもらうことで生活にハリが出て、認知症状の悪化を防ぐことに一役買ってくれます。
誰でもずっと家にいたら退屈します。そんなときはデイサービスを利用するのもいいでしょう。介護に慣れたプロが対応してくれるので安心ですし、レクリエーションや散歩などで体を適度に動かすことで、自宅では落ち着いて過ごせ、徘徊症状を軽減させる場合があります。
④玄関から出て行ったときにわかるような工夫をする
ドアが開くと鳴るベルやセンサーをつけるなど、玄関から出て行ったときに家族に知らせる工夫をしてみましょう。特に深夜の対策は必要です。人の動きを感知する人感センサーで外に出ようとしていることがわかれば、出かけてしまう前に対応ができて安心です。また、玄関の鍵を少し操作が難しい新しいものに替えることで時間かせぎができます。窓にも開けにくい工夫をしましょう。
できるだけ、家の外に一緒に外出する機会を増やして、本人のストレス軽減を図りましょう。無理に止めると、逆に逃げ出したい気持ちが増したり、暴れ出すといった行動に出ることがあるので注意が必要です。必要時には専門家に相談しましょう。
⑤服や持ち物に名札をつける
よく着る服や持ち物、靴の内側などに、名前と連絡先を書いておきます。徘徊の途中で保護されたときに家に連絡、もしくは送り届けてもらえる可能性が高まります。
⑥近所の人や自治体に協力してもらう
ご近所さんや民生委員の人に病状や徘徊の事実を説明し、近くの交番にも身体的特徴などを伝えて、見かけたら連絡をくれるようにお願いしておきます。自治体の徘徊SOSネットワークに登録しておくと、警察と連携が取りやすくなって安心です。
⑦GPSを活用する
GPSは人工衛星を利用して、どの場所にいるか現在地を知らせるシステムです。このGPS機能付きのスマホを隠しポケットなどにしのばせておいたり、GPS機能のついた靴を履かせる方法もあります。
「家族の中だけで解決しようとせず、近所の人や自治体、デイサービスなどの力を借りて、地域での見守り態勢を築いていくことが大切です」
【教えていただいた方】
(うちかど ひろたけ) 医療法人社団 彰耀会理事長。「メモリーケアクリニック湘南」院長。 横浜市立大学医学部を卒業後、同大大学院博士課程(精神医学専攻)を修了。横浜での病院勤務、「湘南いなほクリニック」院長を経て、2022年より現職。認知症の人の在宅医療を推進し、認知症に関する啓発活動や地域コミュニティの活性化に取り組む。『家族で「軽度の認知症」の進行を少しでも遅らせる本』(大和出版)など著書多数。
イラスト/東 千夏 取材・文/山村浩子