女性の現代病ともいえる尿トラブル。家事が楽になって骨盤底を動かす機会が減り、下着や生理用品が進化したおかげで感覚が鈍り、昔の女性のような強い骨盤底を保てなくなっているといいます。主な尿もれのタイプと関係性をみてしっかりケアを。
お話を伺ったのは
八田真理子さん
Mariko Hatta
産婦人科医。1990年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業。順天堂大学、千葉大学、松戸市立病院を経て、98年、千葉県松戸市で女性のためのクリニック「ジュノ・ヴェスタクリニック八田」を開業。
GSM(閉経関連泌尿生殖器症候群)や骨盤底障害に早くから注目し、クリニックでは腟まわりのレーザー治療「モナリザタッチ」にも積極的。オリジナルのデリケートゾーンケアジェルの開発も。幅広い世代の女性の診療を行い、クリニックはいつも女性でいっぱい。著書に『産婦人科医が教えるオトナ女子に知っておいてほしい大切なからだの話』(アスコム)など。ホームページはコチラ
田舎中真由美さん
Mayumi Tayanaka
1973年生まれ。理学療法士。「フィジオセンター」センター長。腰痛、産後の骨盤周囲の痛み、尿もれ、骨盤臓器脱など骨盤底トラブルに対する骨盤調整、運動指導が専門。著書に『まゆみんが教える!! 骨盤底機能』(ヒューマン・プレス)、『胸ひらきで調子のいい自分がずっと続く』(主婦の友社)など。ホームページはコチラ
一番の予防法はやはり骨盤底を弱らせないこと
最近は、尿もれパッドなどのテレビCMを目にする機会が増えたためか、尿トラブルを当たり前のように思う中高年女性も増えているのだとか。
「意識の高い人が増えている一方で、『漏れて当然』とあきらめている人も多いのですが、それはぜひ改めてほしい。年をとると、女性の骨盤底が弱ることは普通で、80代ならほぼすべての人が尿もれを経験しています。
対策としては、日頃から骨盤底を意識すること、体重を増やさない・減らしすぎない、重いものを一度に持たない、便秘をしない(3分以上いきまない)など。排尿・排便のトレーニングも指導します」(八田真理子先生)
最近は骨盤底筋体操やヨガなど、予防と改善のメソッドが豊富なのに、尿もれする人が減らないのはなぜ?
「せっかく実践していても、間違ったやり方をしている人が多い気がします。専門の理学療法士や看護師が指導するトレーニングは、大きな動きではないんです。あくまで骨盤底の内側、中から意識させるものが多い。
日本はまだ指導者のスキルが十分でないこともあり、改善につながる運動になっていないことも」(田舎中真由美さん)
尿もれを見くびらず、深刻な症状になる前に、尿トラブルに積極的な婦人科や女性泌尿器科で相談を。
おもな尿もれのタイプ
尿もれは医学的には「尿失禁」と呼び、自分の意思に反して漏れてしまうことをいいます。トイレが近い、回数が多くて困る「頻尿」とは分けて考えます。
正常な排尿の仕組み
膀胱にある程度尿がたまると、脳に信号が届いて指令が出され、膀胱が収縮して尿を押し出します。骨盤底では、普段はしっかり尿道を閉めて尿が漏れ出すのを防いでいる「尿道括約筋」が尿道口を緩めるので、尿が勢いよく出ていきます。これが正常な排尿です。
腹圧性尿失禁
咳やくしゃみ、重いものを持ち上げるなど、腹圧がかかってつい漏れてしまうタイプ。骨盤底筋群が衰えるのがおもな原因。
切迫性尿失禁
何か刺激を感じると、尿がたまってもいないのに急に尿意を感じて漏れてしまうタイプ。骨盤底の緩みのほかさまざまな原因が…。
混合性尿失禁
更年期以降に多いのは、上でご紹介した「腹圧性尿失禁」「切迫性尿失禁」が一緒に起きる尿もれ。
尿トラブルの関係性
「過活動膀胱」は、膀胱が過敏になって起こる尿意切迫感を主症状とする症候群。急に起こる強い尿意のために、結果として切迫性尿失禁や頻尿に。
イラスト/内藤しなこ 構成・原文/蓮見則子
※次回は、尿もれ経験のある人にリスクが高い「臓器脱」についてお伝えします。