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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン2 コロナ同棲 第3話 唯一の女友達

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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美穂と13年間結婚していた男が、突然家を出て行った。夫の反対を押し切ってマンションを購入してからはケンカの日々。ある日、キスをせがむ美穂を夫が突き飛ばした日から、完全なセックスレスになった・・・・・・・・・・大人女子のセツナイ内情を描く、横森先生が届ける~mist~をどうぞ。

第3話 唯一の女友達

 

思えば、夫と最初に関係を結んだときも、酔った拍子に逆レイプのような形であった。

「わー、ごめん、美穂ちゃんとは友達でええっ」

と夫は叫んでいたが、時すでに遅し。二人は一体化していた。

 

美穂だってもともとオタクで男縁はないほうだったが、夫に関しては何故か異様に性欲を感じたから、きっとタイプだったのだろう。

「裏成りのキュウリみたいな男なのに、なぜ・・・」

美穂は独り言ちる。しいて言えば、メガネをかけるとカッコよく見えるところが、チャームポイントだったのかもしれない。逆にいえば、メガネをかけてる青白い細身の男なら誰でも良く、会社にはそんな男は腐るほどいた。

 

あまたの「メガネ君」の中から夫を選んだ理由は、もしかしたら匂いだったかもしれない。ヘンな話だが、夫は少々腋臭があり、その匂いが美穂を落ち着かせたのだ。まだ二人が抱き合って寝ていた頃、美穂はよく、夫の脇に顏を埋め、安心して眠っていた。

 

 

あの幸せな思い出があるからこそ、目の前の現実を耐えて来た。

美穂に指一本触れなくなった夫は、激しい夫婦喧嘩の末、美穂が過呼吸で倒れた時も、マックの紙袋を手渡し、

「救急車、呼んだからさ。病院行って」

と冷たく言い放った。床に倒れ、体中から冷や汗を吹いていた美穂を、救急隊員が来るまでほったらかしにしたのだ。

 

震える手で紙袋を口もとに持って行き、フライドポテトの匂いをスーハ―した。呼吸は次第に落ち着いて来たから、ありがたい処置だったと言えば言える。しかし・・・。

「そんな冷たい夫、世の中にいるか?」

ひどい、ひどすぎる・・・。

 

 

それでもここに夫がいて、ルームメイト状態でも誰かがいた頃が懐かしい。

美穂はほんとうに、一人だった。もう何が食べたいとか、何がしたいとか、そういう気持ちもなくなってきた。

 

ふらふらと会社に行き、新幹線になったような気分で仕事をし、帰ってきて寝るだけだ。

それでも、家に帰るとそこに夫や、死んだウサギがいた名残があり、寂しいながらも落ち着けた。

美穂はそのレトロなマンションが気に入っていたのだ。近所に林立するタワマンとは違い、低層マンションで落ち着きがあった。古いから水回りには少々難があったが、今では珍しい、ゆったりとしたスペースが、共有部分にもあった。

 

住人は老人ばかりだが、中でも珍しい同世代の住人、清水瞳とは友達になった。フレンドリーな瞳は、ロビーやエレベーターで美穂に会うたび、ニコニコと話し掛けて来た。

美穂はもともと痩せていて、顔色は悪く、人から「暗い」という印象を持たれることが多く、友達は少なかった。仕事柄姿勢も悪い。だから誰かと目線を合わすこともあまりない。が、瞳は気にせずぐいぐい迫って来たのである。

 

 

思えば、それは夫がいなくなった頃からだった。淋しさがにじみ出ていたのか、

「毎日降るや降らないで、湿っぽくて嫌ですねぇ」

とまずお天気会話から始めて、

「煮物、作り過ぎちゃったんだけど、おすそ分けいかが?」

などと声をかけて来た。

「・・・え、いいんですか?」

友達でも親戚でもないと遠慮をするも、

「うん、どうせ飽きて腐らせちゃうだけだからさ」

と気にしない。

「私一人モンだから」

と笑う。

「私も一人です」

「あら、じゃ独身女性同士、仲良くしましょ」

瞳は満面の笑顔でそう言った。

「福顔」というのはまさにこういう顏ではないか、と美穂は思った。瞳は正月のおたふくさんそのもので、全身から「なんかいいことありそうな感じ」がにじみ出ていた。

 

美穂は夫が出て行って以来、初めて明るい気分になった。

「じゃちょっと九階まで来てね」

瞳は自分の部屋に美穂を招き入れ、玄関先でタッバに入れた煮物を渡してくれた。

 

 

そこは、二階で北向きの美穂の部屋とは全く違う、日当たりのいい、景色の良い素敵な部屋だった。

「へえー、同じマンションでも、こんなに違うんですねー」

気持ちが晴れ晴れとするような風景だった。窓の向こうには東京タワーも見える。

 

「良かったら今度お酒でも飲みに来て。あ、猫嫌いじゃなかったらだけど・・・」

よく見ると窓辺のカウンターテーブルに、太った猫がゴロゴロしていた。

一匹は洋猫なのか、毛足が長い。

「ミーたんブンたん、ほら、ご挨拶は?」

と瞳が声をかけると、太った猫たちは、どすっとカウンターから下りてきて、美穂にすり寄って来たのだった。

「えー、すごーい。おりこうさんだね」

美穂は猫たちの背中を撫でた。ウサギが死んで以来、温かくて、ふわふわしているものに触るのも、初めてだった。

美穂は瞳が、一瞬で好きになってしまった。

 

「美味しい!」

もらった筑前煮を、温めることもなくタッバのまま、白ワインのつまみにパクパク食べる。食欲が湧いたのも久しぶりの事だった。

生きている心地とは、このことだ。美穂はそう、心の中で言った。

横森理香

イラスト/ナガノチサト

 

◆次回は、7月15日(木)公開予定です。お楽しみに。

◆今までのお話はこちらからどうぞ。

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