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横森理香 連載小説「大人のリアリティ小説~mist~」シーズン6 孫という名の宝物 第3話 嫁姑の確執勃発

横森理香

横森理香

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。 現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。 著書に『コーネンキなんてこわくない』など多数。 また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。 主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行っている。 日本大人女子協会代表

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ひさびさの家族全員の会食に、息子が「紹介したい人がいる」連れてきた女性は、マスクに隠された顔からでも芯の強さみたいなものがにじみ出ていた。佐知は、彼女のささいなことが気になり、可愛さを感じることがなかなかできなかった・・・・・・作家・横森理香が、大人女子のセツナイ内情を描きます。

ミック・イタヤ

イラスト/ミック・イタヤ

第3話 嫁姑の確執勃発

 

わいわい中華料理を食べながら、座は盛り上がった。

が、佳恵は初めて会う彼氏の家族に緊張しているのか、黙々と食べていた。何か聞かれれば答えるが、発言はしない。佐知は違和感を覚えた。

やだこの子、笑顔がないわー。

 

娘の花梨も気難しくて笑顔が少ないから、最近の娘はそうなのかしら? と、自分たちの青春期との違いを痛感するのだった。佐知たちの若かりし頃は、女は愛嬌、男は度胸という古臭い価値観が、まだまかり通っていた。

 

久志が一人で家に来てくれたら、どうしてあの娘なの? と聞き出したいぐらいだった。

もっと可愛いとかきれいとか、センスがいいとか話すと面白いとか、何かチャームポイントがあったなら、佐知も納得できた。でも、よりにもよってなんでこんな、つまらない娘にひっかかっちゃったのだろう。

 

「二人はどこで知り合ったの?」

久しぶりに酔って上機嫌になった夫が聞いた。

「職場だよ」

久志がぶっきらぼうに答える。

「へえ、そうなんだ。じゃ、うちと一緒だ。わっはっはー」

 

 

え、そこ笑うとこ? 花梨の眉間にしわが寄った。自分だけではない。花梨もきっと、この娘が自分の義理の姉になるのは嬉しくないだろうと、佐知は思った。

「年は? 久志よりずっと若いだろう」

「今年30になりました」

佳恵が真顔で答えた。

「いやー、若く見えるねぇ。花梨と同じぐらいだと思ったよ」

花梨は見事にスルーして、海鮮焼きそばの麺を避け、具だけを食べていた。

グルテンフリーもやっているので、小麦製品はあまり食べないことにしているのだ。

 

「同じ部署の同期なんだよ」

久志がフォローした。

「へえー、じゃあリモートワークになってから寂しいだろう」

「・・・・」

一同、しーんとなったが、久志が勇気を出して切り出した。

「実はもう、一緒に住んでるんだ」

佐知は心の中で「ぐええっ」、と叫んだ。夫は、

「なんだそうだったのか、ワッハッハー」

とただの酔っ払いだ。

「それで実は、すぐにでも結婚したいんだ。緊急事態宣言が明けるのを待ってたんだよ」

「それはいきなりね。もしかして・・・」

佐知の胸に不安と期待がこみ上げた。

 

 

「特大餃子でごじゃいますー」

中国人の店員が、久志の大好きな特大餃子を持ってきた。

「あ、来た来た。これうまいんだよ。ヨッシーも食べなよ。熱いから気を付けて。黒酢つけると美味しいよ」

要件を切り出せて安心したのか、久志が急に、素に戻って娘に接し始めた。

「あ、そーそー、ここの黒酢、美味しいんだよね」

佐知も話を合わせた。

佳恵は久志に言われるまま、小皿に黒酢をあけている。

 

他店では見かけない中国直輸入の黒酢は、プラスティックのミニボトルでそのままテーブルに乗っていた。

しかし、蓋が異様に固いのが難点だった。

 

佳恵がボトルの蓋をうんショと閉めたとき、黒酢が隣の佐知の頬に、ビシッと飛んだ。佳恵は気が付いていない。佐知は気づかれないように、ナプキンでそっと、それをぬぐった。

 

こうやって、小さなことが積み重なって、嫁と姑の確執は生まれるんだわ・・・佐知は戦々恐々とするのだった。

 

◆「mist」のこれまでのお話は、こちらでお読みいただけます。

 

◆次回は、8月23日(火)公開予定です。お楽しみに。

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