いまだ収まる気配のないコロナ禍の中、1月20日にニューアルバム『次世界』を発表した宮沢和史さん。
誰もが不安で、ぽっかりと時間を失ってしまったような2020年のあの日々に、宮沢さんが考えていたこととは?
(体を壊したことで気づいた健康や音楽についての、インタビュー前編はコチラ)
撮影/萩庭桂太 取材・文/本誌編集部
宮沢和史さん
Profile
みやざわ・かずふみ●1966年1月18日、山梨県生まれ。1986年にTHE BOOMを結成。原宿の歩行者天国でライブを重ね、1989年にデビュー。『星のラブレター』『島唄』『風になりたい』など多数のヒット曲と14枚のオリジナルアルバムを残し、2014年にTHE BOOMを解散。その一方、ソロ名義で5枚、多国籍バンドGANGA ZUMBAとして2枚、アルバムを発表している。2021年1月20日にニューアルバム『次世界』をリリース。https://www.miyazawa-kazufumi.jp/index.html
コロナ後の世界は
もう元には戻らない
アルバムのタイトル曲である『次世界』では、軽快なロックのメロディに乗せて「未来しかないあの世界に」「羽ばたいてみるんだ 羽ばたいてゆくんだ」と歌っている。
「新世界」ではない、造語の「次世界」。この曲に込めた思いとは?
「コロナが早く終わってほしいというのは世界中の人が思っているけれど、元に戻るのは無理というか、元に戻ったらまた同じことが起こると思うんです。
違うウィルスがきたり、違う生物が急に増えたり減ったり。要するに我々が積み上げてきた山積みの問題点が飽和状態になっているということでしょうから、次の世界をみんなで描いていかなきゃいけない。
自然環境というのはすごく惰性が働くらしいので、今、温室ガスを止めても5年は惰性で続く。なので最悪の状態になった時には、もはや手遅れなんですよね。
このコロナというのは、ものすごく最後に近いメッセージだと思うので、次の世界はどうあるべきか、何が幸せなのかをイメージして、そこに進むべきじゃないかという歌にしました」
歌詞の中には、ジョン・レノンも登場します。
「彼は、かつて『イマジン』という曲で『未来というものを想像してみよう、そうすることで未来は変わってくる』と歌いましたけど、すごく今の時代にあてはまると思うんですよ。
今、無責任に『こうしたら明日は良くなる』なんて口が裂けても言えない。ただ僕が言えるのは『過去に執着しないで、新しい世界はまだ真っ白だから、名前もついていない、番地もない、グーグルマップにも載っていない世界に行こう』ということだけ。
僕自身、自己矛盾や葛藤の連続ですからね。前向きになれた部分も、今でもなれない部分もある。そんな状態から、なんとかみんなに聴いてもらいたい作品へと、粘土細工をこねるようにして作った曲たちが、ここに入っている感じです」
「決して楽観的な歌ではない」と宮沢さんは言うけれど、それでも音楽の持つエネルギーで、未来へと奮い立たせてくれる曲だ。
「会いたい人に会いに行けない」想いを歌った沖縄民謡の『白雲節(しらくむぶし)』をピアノ伴奏でアレンジしたり、長野パラリンピックで歌唱した『旅立ちの時』をあらためて録音したのも、今の時代に響くと思ったからこそ。
「どんな境遇であれ、チャレンジする人の夢には必ず花が咲くという、この歌の本質を聴かせたいと思いました。『旅立ちの時』は、もともとはゲストボーカルでしたから(作詞・ドリアン助川 作曲・久石譲)、もう少し宮沢寄りのアレンジで歌ってみたいなというのもあって。久石さんに尋ねたら『どうぞどうぞ自由にやってください』と言われました」
そしてアルバムの1曲目、「また会おう 必ず会おう その時までお互い 元気でいよう」と歌われる『未来飛行士』は、8月15日に大阪服部緑地野外音楽堂で開催された生配信付きのコンサートで初披露され、その後、10月からの「詩の朗読と歌によるコンサートツアー2020」のツアータイトルにもなった。
「ツアーは組んだけれど、やはりその時の状況で中止にした公演もありました。
詩の朗読が半分、半分はピアノと2人だけだったり、弾き語りだったり。今、これができるという、その時に合った形でとにかく前に進んでいくというのが、自分らしいかなと思っています。
今年も、このアルバムが出て、本当はすぐにコンサートしたいところなんですが、やっぱり無理なので、3月に。まぁ3月もどうなっているか分からないけど、一応、3月に2日間やるってアナウンスすれば、みなさんも未来にひとつの楽しみができて、その時まで健康に気を付けようとか思ってもらえればうれしいですね。
そういう小さな約束を、ひとつひとつ点でつなげていけば、僕自身にとっても道ができてくるだろうし。何もないと、道をどう進んでいいかわからないですからね」
ところで宮沢さん、息子の氷魚君の活躍をどう見ていらっしゃいますか? 朝ドラ『エール』では、ロカビリー歌手としてついに歌まで披露していました。
「頑張ってますね。見ると、みんなに『応援してあげてください』って言いたくなります(笑)。今は若くて一番吸収する時期だと思うので、今のスケジュールで走り疲れてしまわないように、出した分、入れてくれればいいなと思いながら見ています。
でもまぁ、楽しんでやってるようです。専属モデルとして『メンズノンノ』の表紙を飾れたのは、うれしかったみたいですよ」
26歳といえば、宮沢さんが『島唄』を発表した年齢でもあります。名曲をたくさん作って、宮沢さんも忙しくされてましたよね?
「20代後半って、自分がこうやりたいっていうのと、それができる体力が合致するタイミングだと思うんですよ。その前だと、こうやりたいけど、まだ技術や経験値がついていかないし、年を取るとやっぱり体力が負けてしまう。
そう思うと、がむしゃらにやって欲しいという思いもあるけれど、親としては、出すだけだとしんどいから入れて欲しい、勉強もして欲しいと思いますね」
『次世界』
2020年という『特別な今』を捉え、未来へ向かおうとする作品4曲に加え、ライブで披露した詩の朗読、沖縄民謡『白雲節(しらくむぶし)』を訳してアレンジした『白雲の如く』、1998年長野パラリンピックで歌唱した『旅立ちの時』の新録音源などを収録。(2500円+税/よしもとミュージック)
2020年の宮沢さんを追いかけたドキュメンタリーDVDとブックレットが付いたType-Aは5000円+税。