映画『あちらにいる鬼』で、瀬戸内寂聴さんをモデルにヒロインを演じた寺島しのぶさん。
相変わらずスレンダーで、身のこなしが美しい。
まもなく50代に突入する今、自分の体や心にも少しずつ、変化を感じているという。
より美しく、より実りある50代を目指して、寺島さんが日々心がけていることは?
(豊川悦司さんとの本能のままの恋や、剃髪してわかったことについてのインタビュー前編はコチラ)
撮影/富田一也 ヘア&メイク/川村和枝 スタイリスト/中井綾子(crêpe) 取材・文/岡本麻佑
寺島しのぶさん
Profile
てらじま・しのぶ●1972年12月28日、京都市生まれ。2003年『赤目四十八瀧心中未遂』(荒戸源次郎監督)と『ヴァイブレータ』(廣木隆一監督)で国内外の賞を数多く受賞。『キャタピラー』(10/若松孝二監督)ではベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞。『オー・ルーシー!』(18/平栁敦子監督)ではインディペンデント・スピリット賞主演女優賞にノミネートされた。近年の主な出演作に『ヤクザと家族 THE Family』(21/藤井直人監督)、『Arc アーク』(21/石川慶監督)、『キネマの神様』(21/山田洋次監督)、『天間荘の三姉妹』(22/北村龍平監督)など。
更年期は、好転機!
20代から女優を志し、舞台演劇からキャリアをスタート。30代に入る頃から公開された映画で国内外の賞を次々と獲得し、濃密な演技で唯一無二の存在感を発揮してきた寺島しのぶさん。
梨園に生まれ、女性であるがゆえに歌舞伎の舞台には立てず、その悔しさもあって、若い頃は演じることには無我夢中、かなりの情熱を傾けてきた。
「ハングリー精神っていうんでしょうか。いったん役に飛びこんだら、餓死寸前のほうが絶対に良い仕事ができると思っていました。精神的にも不安定なほうがいい気がするんです」
そんな寺島さんの体調を支えていたのが、ボディメイクトレーナーの樫木裕実さん。
「高校生の頃からずっと、お世話になっています。月に2回くらい見てもらいますね。なんかこう、仕事をしているとすぐ役に憑依しちゃうから(笑)、ひと仕事終えるとまずは体をニュートラルに戻してもらっています。
若い頃はよく言われたんです、『やりすぎだよ』って。でも『しのぶちゃんはやらないと気が済まないから、やってみ? それでもう無理だということがわかったら帰っておいで』って言ってくれるんです」
やりすぎとは、役作りに熱中することだけでなく。
「仕事じゃなくても、体をいじめるのが好きなんですね。20代の頃はジムに入り浸っていました。行くと6時間くらい、サウナ入ってプール入ってエアロビやって、みたいな。
さすがに20代後半から仕事が忙しくなってそういうのは止めましたけど、ちょっと体型が緩んだときもすかさず締めてもらいましたし、出産後のケアでもお世話になりました」
もうひとり、寺島さんの過激な生活を変えてくれた人がいる。夫のローランさんだ。
「休むことを覚えました。フランス人と結婚して、価値観がガラッと変わったんです。
日本人は働くために休むけど、フランス人は遊ぶために働くから。仕事を終えたら休む、リセットするってことに最初は抵抗がありました。何もしないで毎日寝て食べてだらーっとするなんて、人間として怠惰以外の何物でもないというのが私の考えだったんです。
でも休むようになったら体が異様に楽になりました。演技にも、そのほうが以前より集中できるということがわかったんですよね」
そして今。
「50代に入る直前になって、体調とか変わりつつあるところで、改めて樫木さんにお世話になってます」
ポイントは、骨盤。
「歳をとると、どんどんどんどん骨盤が開いていって、挙げ句の果てに老人体型やO脚になっていくんですって。歳を取ってお尻が大きくなるのは、お尻の問題ではなくて、お腹の筋肉が減って弱ってくるから。骨盤が開いて、太ももやお尻に肉がついてしまうから、らしいです。
だから今一番大事なのは、骨盤。あと、下半身と上半身をちゃんと切り離して、いかに背を高く見せるか。どんどんどんどん重力に負けて、上半身の重みが下半身に影響して、乗っかっていって、下半身だけで支えようとするから、全身のプロポーションが崩れていく。
だから常に腹筋や背筋を鍛えて、丹田の力が抜けないように。骨盤まわりの筋肉を衰えないようにするのが大切なんです。意識するだけでも違うし、そこを意識しながら筋肉を鍛える運動をやりなさいって」
なるほど、話を聞いているだけで、背筋がすっと、伸びてくるような。
美容に関しては?
「亀鹿仙(きろくせん)という漢方の、ゼリー状のものを飲んでいます。亀の甲羅ゼリーなんですけど、それを飲み初めてから、髪の毛が伸びるのが早くなったみたい。これはなんかちょっといいかも、と。サプリメントはあくまでも補助食品だと思ってはいますけど、人がすすめてくれたので試しています」
もうひとつ、元気の素は。
「睡眠です。眠い時は寝る、それを徹底することにしました。できるときは夜の10時から朝の6時まで。寝るのを惜しんで何かをするということはありません。食べることよりも寝るほうを大事にしています」
さらにメンタルの問題は、寺島さんが長年続けている「いいこと日記」が解決してくれる。
「3 年日記というのを、高校生の頃からずっとつけています。もう10冊目くらいじゃないかな。1日5㎝くらいの分量なので、1日の終わりに時間を作って書きます。
なんでもいいんです、今日は人と話して楽しかったとか、道にキレイな花が咲いていたとか、撮影がスムーズに進んでうれしい、とか。毎日小さなことでも“いいこと”を10個探して、書く。
以前、心が病んじゃってうわーってなっているときは、それを続けていました。書いているうちに心が整理されて、すっきりします。今はもう平常運転なので、いいことだけじゃなくて全部書いていますけど」
そろそろ50代、体も心も、変化を感じているという。
「バリバリ今、更年期なのかも知れません」
そんな最中の、『あちらにいる鬼』。
「撮影のために剃髪をして、いったんリセットできたような気がします。髪ってほら、今までの歴史っていうじゃないですか。すべて剃り落としたら、そういう意味でスッキリ!しました」
そういえば以前、瀬戸内寂聴さんにインタビューしたとき、『なぜ出家なさったんですか?』と伺ったことがある。寂聴さんはイタズラっぽい笑顔で『ちょうど更年期だったからね(笑)』と、冗談めかしておっしゃっていた。
「でもその更年期を負として受け止めるのか、プラスとして受け止めるのか、そこで大分変わっちゃいますよね。
いろいろなことが出来なくなる年代なのかもしれないけれど、それを好転機だなと思って、変われる自分をうまく利用して、新しい自分になっていければなって。今はその間にいるんでしょうね」
『あちらにいる鬼』
2021年11月に99歳で亡くなった瀬戸内寂聴、戦後文学を代表する作家・井上光晴、そしてその妻。実在した人物をモデルに、井上夫妻の長女である作家・井上荒野が書いた同名の小説を映画化。1966年、人気作家の仲間入りをした長内みはる(寺島しのぶ)は、気鋭の作家・白木篤郞(豊川悦司)と愛人関係となる。みはるは長年連れ添っていた年下の男と別れるが、白木は妻(広末涼子)と娘との家庭を壊す気がない。そればかりか見境なく女たちと関係を持つ。ふたりの関係が7 年続いた頃、みはるは出家を決意した・・・。
2022年11月11日(金)より全国ロードショー
配給:ハピネットファントム・スタジオ
脚本:荒井晴彦
監督:廣木隆一
出演:寺島しのぶ 豊川悦司 広末涼子 高良健吾 村上淳 蓮佛美沙子 ほか
©2022「あちらにいる鬼」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/achira-oni/