作家、歌手、そして現在は、大学で哲学も教えているドリアン助川さん。
2013年に出版した小説『あん』は、22言語に翻訳され、
樹木希林さんが主演した同名の映画も話題を呼んだ。
最新刊の『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』は、
動物を主人公にした21のストーリー。
クマ、キツネ、クジラ……。地球上の生き物たちが、心の叫びをぶつけながら、
自分たちの命を確かめていく。
前半に引き続き、後半は、60代になったドリアンさんが
考える、「若さ」、「老い」について。
Profile
どりあん・すけがわ 作家・歌手。明治学院大学国際学部教授。1962年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部哲学科卒業。放送作家などを経て、1990年にバンド「叫ぶ詩人の会」を結成。90年代にはラジオパーソナリティとしても活躍。同バンド解散後、2000年からNYに3年間滞在。帰国後、本格的に執筆活動を開始する。どら焼き屋の女性店主と従業員との交流を描いた小説『あん』は各国で翻訳され、フランスの「DOMITYS文学賞」「読者による文庫本大賞」など4冠に輝いた。河瀨直美監督による映画化も話題に。『線量計と奥の細道』、『新宿の猫』、『水辺のブッダ』など、著書多数。
撮影/chihiro. 取材・文/石井絵里
モヤモヤしたら明るい歌を歌え!
作家、歌手、そして今は大学生たちの先生でもあるドリアンさん。
学生には「生活の中で表現ができる人を育てたい」という気持ちを持ち、哲学、文学などに加えて、人生相談を扱う授業も行ってきた。
OurAge読者も、悩めるお年頃。いつまでも明るく、元気でいられるコツはあるだろうか?
「モヤモヤする、なんてことがあったら歌を歌ってください。
スキマ時間にカラオケボックスへ行き、30分だけ声を出すだけでも違いますよ。明るい歌を大声で歌っていて、暗い気持ちになることってないでしょう?
これ、本当におすすめの健康方法だと思っています」
ドリアンさん自身も、30年以上にわたって歌うことを続けてきた。
「歌っていうのは全身運動。そして人間の体の中で、最も衰えが遅い機能のひとつが喉なんです。
今、舞台公演のための体作りもあり、毎日、腹筋をしていますが、普通の暮らしをされている皆さんは、自分をストイックに追い込み、お腹がバキバキに割れたりするところまでモチベーションが続かないのではないでしょうか。
だけど、歌は違う。歌は全身を動かして声を出すものだから、気持ちがよくなり、続けられます。体全体から声を出し、ハッピーな歌を歌うだけで、心身のあり方も変わってくると思います」
さらに週に1回、学生たちと”世界中の歌を歌う会”というのを作っているとか。
「私の授業を受けている生徒たちと一緒になって、ありとあらゆる好きな歌を歌っています。歌うことの唯一の問題点が『大声を張り上げる場合は、場所を考えないと迷惑になる』ことだったのですが……。
キャンパス内だと大声で歌っても注意されづらい。これはね、ありがたいですよ(笑)」
老いとはグレート。「偉大」なるものへと変化していくこと
そしてOurAge世代が気になる”老い”。これに対しても、さすが人生相談の達人、ドリアンさんは独自の見解を教えてくれた!
「まず“老い”っていう言葉のイメージ自体が、よくないんじゃないでしょうか。
現代社会の中では、老いるというと、それだけで何かネガティブな捉え方をされがちな気がしていますね。
でも老人の”老”っていうのは、悲観的だったり、何かを失うことではないと思うんです。
春秋時代の中国に、老子という思想家・哲学者がいましたけれども、彼の名前の中にある”老”はグレート。
つまりは偉大という意味です。
また、アフリカのある地域では、人が年を重ねていくことを”知識を蓄えた図書館になっていく”と表現します。
それからおめでたい食材に使われる海老にも”老”っていう字があるでしょ? 海老も偉大なんです(笑)。
つまり老いていくっていうことは、積み重ねて偉大になっていくことだと思えばいいのではないでしょうか」
同時に「若さ」との違いも。
「若さというのは”ツッパリ”ですよね。
今、私はYouTubeを観ながらラジオ体操をするのが好きなんですが、若い頃は『ラジオ体操なんてやってらんねえよ~』と思っていました。『すごい昔からある体操なんでしょ? 何なの一体』とね。この感情が、若さからくる”ツッパリ”です。
でも60代に入ってちょっとやってみると、『色んなラジオ体操の動画があるなあ~』、『着ぐるみを着て体を動かす映像もあるのか』とかね。あんなに興味がなかったラジオ体操ひとつとっても、ツッパっていた頃には見えなかった、様々な発見や楽しさがあるわけです」
また、日々行っているランニングからも、新たな自分を見つけている。
「家の前を走っていると、同じように走っている大学生たちにびゅんびゅん追い越されます。彼らは物凄いスピードで私の目の前を駆け抜けていきますが、何とも思わないです。
こうやって人と比較しなくなってくるのも、老いのいい部分。
自分にとって一番心地よいペースで走ってるから、体に負担もかからないし、かく汗も気持ちいいんですよね」
全てを肯定し、包み込む森のような存在になる
そんなドリアンさんが理想としている偉大なる老いとは、”己の主観のみで立っている一本の木のような存在から、色んな人の意見を聞き入れ、全体を包み込む森のような存在へ”と移り変わっていくこと。
「若さゆえの貪欲さや勢いは、言うなれば、教室の中で自分の居場所を探そうとしている状態。もちろん、悪いことじゃないですよ。好奇心はたくさん持ち、どんな経験もすればいい。
それが年齢を重ねていくと、優秀な子も、そうでない子も、心の中にいるのが分かり、いつのまにか自分自体が教室になっているんですね。
色んな己を知り、その事実を受け入れているから、どこにいようと、争う気持ちがなくなってきますよね」
とは言え「良きエイジングとは、単純に丸くなるのとは違う」とも。
「教室の中には、入れてはいけないものもある。
差別や排他といった心。これは自身を律して、見つめていかないといけないですよね。
それから、執着や所有欲を抱えたまま年齢を重ねるのも、違うのではないでしょうか。
ひとつの命ですら、いつかはサヨナラしなくてはならないのが、私たち生き物です。
何事も一期一会と心得て、世界や相手に敬意を持つこと。
そして寛容さは増すけれども、美意識を捨てるわけではない。これが偉大なる老いやエイジングなのかなと思いますね」
(「動物哲学物語」に込めた想いを語った、インタビュー前編はコチラ)
<書籍情報>
『動物哲学物語 確かなリスの不確かさ』
どんぐりの落下と発芽から「ここに在る」ことを問うリスの青年。
衰弱した弟との「間柄」から、ニワトリを襲うキツネのお姉さん。
洞窟から光の世界へ飛び出し、「存在の本質」を探すコウモリの男子。
土を掘ってミミズを食べる毎日で、「限界状況」に陥ったモグラのおじさん。
日本や南米の生き物が見た「世界」とは?
動物たちの生態に、哲学のエッセンスを加えた21のストーリー。
哲学といっても、学術的な難しい話はなく、各物語の主人公の叫び、嘆き、そして優しさに触れることで、明日を生きるための底力を上げてくれる。
版画家・溝上幾久子さんの動物の絵が楽しめる巻頭グラビアつき。(2000円/集英社インターナショナル)
本の詳細はコチラから。
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