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着付け教室はなぜ「無料」が多いの?【後編/安心できる“教室選び”のポイントとは?】

片野ゆか

片野ゆか

1966年、東京生まれ。広告営業職を経てノンフィクション作家に。
得意分野は、犬と人の生活全般、アジアの食文化、美容・健康など。2005年、『愛犬王 平岩半吉伝』で第12回小学館ノンフィクション大賞受賞。

 

とかく約束事が多い、着物の世界。「これが決まりだから」と頭ごなしに言われ、なんだかモヤモヤ……。着物超初心者のノンフィクション作家・片野ゆかさんが、その“謎解き”に挑戦!「無料着付け教室」の仕組みを追いながら、さらに“着物業界のダークサイド”に迫る!?

着物業界というのは、なぜこうも黒っぽい話題が渦巻きがちなのだろう。目先の利益を追求するのは勝手だけれど、かえって自分たちの首をしめるばかり。これを由々しき問題として考える人は、業界内にいないのだろうか?
そう思っていたところ、ある会社の公式サイトの記事に目がとまった。

 

『怒りが爆発・着付け教室や呉服店の口コミや評判、クレーム事例集』というタイトル。サイトを運営するのは染匠(そめしょう)株式会社という着物メーカーで、和装関連小物の販売、きものカルチャー研究所という着付け教室を全国展開している会社だ。

 

このコンテンツは、呉服店などでの不快な体験やトラブルについての投稿サイトで、一般消費者の怒りや嘆きを受け止める場になっていた。ベテラン販売員に3時間もかこまれたあげく高額ローンを組まされた、薦められた着物を断ったら男性店員に逆上されて怖かったなど、生々しいエピソードがズラリと並んでいる。一部伏せ字になっているが社名が推測できるものもあって、思わず読みふけってしまった。

 

一般消費者による投稿については「信憑性について確認する術がなく、可能な限り精査するが最終的な判断は読者に委ねる」と断っているが、企業の公式サイトに掲載しているのだから、業界側の人間から見ても荒唐無稽な内容ではないということなのだろう。

 

【受講料タダの謎にせまる】

 

このサイトには『知らないと後悔する着付け教室の話』という、着付け教室に特化したコーナーもある。ここまでザックバランに業界事情を暴露している会社なら、私が抱く疑問についても教えてくれそうだ。

 

さっそく染匠に連絡をとってみた。
「着付け教室のトラブルの多くは、講師やスタッフによる強制的な着物販売です」というのは、同社広報担当のAさんだ。

 

常套手段は「見るだけで勉強になる」「コーディネートの勉強をしてほしい」など、着物経験値の向上をたてまえに販売会へ参加させる方法だという。とはいっても、今どき軟禁状態で販売をするなど法律的にも難しいと思うのだけれど、それに近いことがおこっているのだろうか?

 

「過去には遠方までバスなどで行き、見学会のあとに展示販売がおこなわれるケースがあったようです。団体行動なので、ひとりでは帰りづらい環境です」

 

Aさんは、熱心な販売と押し売りの区別が難しいのは、生徒の方も興味ゼロではないからだという。販売目的のイベントとわかっていても、着物が好きで習っていたら、着物や帯を試着してみたいという気持ちを持つのがむしろ自然なことだ。

 

「ただ、数人のスタッフにかこまれて勧誘や商談がおこなわれますと、見たいだけの人や買う気のない人は、嫌気がさして苦痛となることもあります。人体に装着されますと自分からは簡単に解くことができません。そのときは、恐怖心に変わるかもしれません」

 

聞いていてゾッとした。
自分では脱ぐことができないなかで、複数のスタッフにとりかこまれて、ローン返済計画をたてるために電卓を叩かれ続けるなんて、まるで拷問かホラーじゃないか。よほど購買意欲がないかぎり、販売会で試着なんかしちゃダメなのだ、と改めて肝に銘じた。

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なにより怖いのは、着付け講師が売り手に全面的に賛同してしまうところだ。初めての販売会で、ピヨピヨ気分の生徒は引率の先生を頼りにするしかないのに、裏切られた気持ちでいっぱいになるだろう。それとも巧妙な販売マニュアルによって、「せっかく先生が時間をかけて選んでくれたのだから、断ったら悪い」と思わせてしまうのだろうか。

 

なぜ、無料やワンコインなどの格安の着付け教室でこうしたことがおこるのか?
Aさんは、大きな問題点は主にふたつあるという。

 

「ひとつは、講師それぞれに着物の販売ノルマがあることです。達成できなければ、ノルマが自己負担になるケースもあると聞きます」

 

もうひとつは、着付け教室の運営にかかる経費をメーカーや卸問屋が負担しているという点だ。

「広告制作費や家賃、光熱費を負担するかわりに、教室運営者にたくさんの生徒を集めてもらい、そこで着物や帯を販売するのです」

 

無料・格安着付け教室というのは、先行で負担した高額な経費を着物販売で回収するというひとつのビジネスモデルなのだ。

 

「どんな着付け教室も、最初は『押し売りはない』と説明します。でも経費負担をするメーカーや問屋がいる以上は、販売なしに運営は成り立ちません」
こうした仕組みがわかってくると、販売ノルマを課せられる着付け講師もまた、被害者という気がしてくる。

 

【安心できる着付け教室の条件とは?】

 

それでは、有料の着付け教室に通えば安心かというと、話はそう簡単ではないらしい。生徒が受講料を払っていても、着付け講師に販売ノルマが課せられているケースもゼロではないという。

 

染匠が運営する、きものカルチャー研究所について訊くと「販売ノルマは一切ありません」ときっぱり。これは会社によるのだろうが、結局のところ「ない」と断言できるかどうかが、ひとつのポイントといえるのかもしれない。

 

きものカルチャー研究所では、全国からサイトに集まった苦情や悩み、体験談などをもとに「健全な着付け教室とは何か、追求した結果を教室運営に反映しています」とAさんは言う。
安心できる着付け教室のチェックポイントをまとめると、以下のようになる。

 

① 受講料の詳細(入会金、テキスト代、月謝、免状料、受験料)を提示
② コースの期間やカリキュラムの内容を公開
③ 授業と販売会は別枠で開催。販売会は原則自由参加にしている
④ 特殊な着付け小物の購入を強制しない
⑤ 手持ちの着物1枚でコースを終了できる
⑥ 派手な宣伝活動をしてない

 

ちなみに、きものカルチャー研究所は、入会金3,300円、月謝7,700円(都市部8,800円)、授業は月4回・4か月、修了試験無料(合格率90%)となっている。地方と都市部で月謝が違うのは、家賃に反映したものと容易に想像できて明瞭会計な印象だ。授業は初等科の場合、マンツーマンから2名程度の個別指導だという。

 

「無料やワンコインの着付け教室があるなかで、あまりに高い受講料では生徒が集まらないという厳しい現実があります。低価格で良心的な教室をめざすと、低コストでの運営は欠かせません」

 

Aさんは、テレビや雑誌など多額の費用がかかる広告は使わない、賃料の高い駅前の一等地のビルなどに教室を出さない、事務処理をITにより省力化するなど、低コストでの運営の工夫についても説明してくれた。

「生徒さんは、ご自宅にあった着物やご親戚などから譲られた着物、リサイクルショップで購入した着物など、それぞれお好きなものを利用されています。素材も正絹だけでなく、ポリエステルや麻、綿など、いろいろです」

 

こうした着付け教室は、業界全体ではめずらしいのかもしれないが、探してみれば地域密着型の小規模経営の教室、個人運営の教室もあるはずだ。それに今どきは、YouTubeを検索すれば「はじめての着付け」「初心者でもできる着付け」などの動画がたくさん出てくる。人気ユーチューバーの運営サイトの書き込みを見ると、動画だけで着付けを覚えた人が少なくないこともわかる。

 

ひとまず着てみたいと思うなら、もはやリアルな教室にこだわる必要はないのかもしれない。

 

(つづく)

 

イラスト/田尻真弓

 

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