私はずっと自分のことをケチだと信じていたんですよね。家が貧しくて、小さい頃から苦労してたから、すっかりケチになってしまったんだと。
でも、大人なって、温泉に行ったときのこと。浴場で体を洗っていたら、隣りのおばさん二人がペチャクチャとしゃべりながら、お湯をずーーっと出しっぱなしにしているのよ。それを見ながらイライラしてたんだけど、ハッと気づいたら、手を伸ばして勝手に蛇口を止めてたの(笑)。
びっくりして私を見るおばさん。気まずいわよね~。「水が出っぱなしだったので」と言うと、怒ったように「入浴料、払ってるんだから」と。「いくら使おうが私の勝手でしょ」みたいなことを言うので、「でも、もったいないですから」と言ってしまいました。
そのあと、温泉につかりながら考えました。私は、自分が損するわけじゃないのに「もったいない」と思った。ということは、これはケチではなくて、エコなんじゃないかって。自分のためにやるのがケチだけど、地球のためにケチるのはエコなんだなと、そのとき気づいたんですね。考えてみたら、ゴミを増やすのも嫌だし、リサイクルとか好きだし、私ってエコじゃん!! と。
それまで「私って、なんてケチなんだろう」と多少恥ずかしく思っていたのよ。ケチ=がめついというイメージだし、岡山県生まれの私にも、大阪人のドケチの血が流れてるんだわって。でも、温泉事件以来、堂々と人前で「私、ケチなんです」と言うようになりました。
「私、エコです」と言わないのは、私がそれを言われたら、なんかイラっとするから。なぜなら、この言葉には「私が正しくて、あなたは間違っている」という響きがあるんですね。今はやりの自粛警察と同じ。世の中、そういう人が多いのよ。自分が正しいと思って相手を非難する人。
私は「漫画家=非常識」という色眼鏡で見られる時代に生きてきたから、そういう正義面した人たちに、「おまえはおかしい」とよく非難されるタイプでした。だから、できるだけ人にそういう印象を与えないために、「エコです」じゃなくて、「ケチです」と言っています。
自分でケチって言ったら、もう最強だからね。誰も突っ込めない(笑)。自分のことを少し悪者にして楽になろうってことですね。そんな技が、大人なって身につきました。
「天使のツラノカワ」クイーンズコミックスDIGITAL
取材・文/佐藤裕美