奈良の秘密の散歩道
その2 入江泰吉旧居と庭園巡り
こんにちは。寺社部長の吉田さらさです。
全国の寺社を回り、旅の情報をお届けしています。
秋の奈良は、正倉院展などもあり、たくさんの観光客が訪れます。
近年は外国からのお客様も増え、東大寺南大門や大仏殿に向かうメインストリートは大混雑。しかし、少し脇道に入れば、昔ながらの静かな奈良の風情を楽しめるエリアもあります。
近鉄奈良駅から奈良公園に向かった場合、県庁を過ぎたところで左折し、奈良公園方面に一本脇道に入った水門町。ここは現在は公道ですが、かつては東大寺の境内で、土塀や古い建物が残る風情ある通りになっています。この道を突き当たると。りりしいお顔の四天王像で名高い東大寺戒壇堂があります。このお堂は大仏殿などと比べるとぐっと人が少なく、じっくり仏さまと対話したい方にお勧めです。
この通りに、近年、新スポットが登場しました。
奈良の寺社、仏像、花々などの写真を長年撮り続けた写真家、入江泰吉さん(泰吉の吉の字は、正しくは土に口)の旧居です。
入江さんは、戦後から1992年に亡くなるまでこの家で暮らしておられたので、「新スポット」という表現は当たらないかもしれません。しかし、この家が一般向けに公開され、観光客でも気軽に立ち寄れるようになったのは2015年のことなので、やはり、最新のおすすめスポットとも言えます。
古くからの奈良好きにとって、入江さんは、大仏様と同じくらい偉大な存在です。
わたしも子供のころから家にあった入江さんの写真集を眺め、「こんなきれいなお寺に行ってみたい」と、夢を膨らませていました。長じて奈良に通うようになってからは、カメラを持って、入江さんが撮られた場所を捜し歩いたものですが、お宅は今回がはじめての訪問です。旧邸の公開にも尽力された編集者でライターの倉橋みどりさんにご案内していただき、たいへん有意義な時間となりました。
入江さんは、生前に、すべての作品を奈良市に寄贈され、高畑町に入江泰吉記念奈良市写真美術館が開館しました。しかし入江さんは、オープン直前に亡くなられました。その8年後、奥様のミツエさんが、ご自宅を奈良市に寄贈されました。奈良市は有効な活用方法を検討し、ようやく一般公開の運びとなったのです。
「このお家にいると、入江さんと奥様の気配のようなものが感じられて、とてもあたたかい気持ちになれるのです」と、倉橋さんはおっしゃいます。入江さんは骨董品収集がお好きで、残されたものの一部が、「こんなふうに飾ってあったんじゃないか」と思われる形で、さりげなく部屋の一隅に置かれています。
作家の志賀直哉さん、随筆家の白洲正子さん、画家の杉本健吉さんなどのお客様が座ったソファもそのままです。
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奥の書斎には、当時の文化人がどんな本を読んでいたかがよくわかるたくさんの蔵書が並んでいます。破損の可能性もあるので実際に手に取って読むことはできませんが、背表紙のタイトルを見ているだけで、入江さんのお人柄がしのばれます。
入江さんは、もともと画家志望で、よく絵も描いておられました。書斎の一番奥まった空間には、そのためのコーナーもあります。
小さいけれど趣深い庭もあります。奥の建物は、暗室として使われていました。
「ここは実は、知られざる紅葉の名所でもあります。11月には、窓から見えるもみじが真っ赤に染まるので、次はぜひ、そのシーズンに来てくださいね」と、倉橋さんが最後にこっそり教えてくれました。
倉橋さんのご案内は、毎週日曜日に行われます。
開館日、時間、料金などの詳細は、こちらのホームページをごらんください。
http://kyukyo.irietaikichi.jp/
ちなみに、倉橋さんとわたしは、10年ほど前に、吉野山をご一緒に歩いたときからのお友達。文筆業だけでなく、さまざまなイベントやカルチャースクールの講師として、奈良の魅力に関する情報を発信しておられます。最近、「奈良を愉しむ奈良の朝歩き、宵遊び」(淡交社)という素敵な本も出されました。
京都と比べて遊ぶ場所や美味しいお店が少ないと思われがちな奈良ですが、この本を読めば、それは間違いだとわかります。紹介されている場所は、倉橋さんがこよなく愛しておられるところばかり。写真も美しく、読みごたえも見ごたえもたっぷり。奈良旅の前に、ぜひご一読ください。
この日のお昼ごはんは…。次のページに続きます。
さて、そろそろお昼ごはんです。このあたりはメインストリートと違ってお店は少なめ。先手必勝で、通り沿いにあるそば処「喜多原」さんに駆け込みました。
訪れたのは、まだ暑さが残る日だったので、さわやかなすだち蕎麦をいただきましたが、これは季節もの。これからの季節は、ふわふわの卵とじ蕎麦などもよさそうです。
ホームぺージはこちらです。
http://www.soba-kitahara.com/about.html
次に訪れるのは、奈良有数の、いえ、日本でも有数の名園である依水園。
江戸期と明治期の異なる時代に造られた回遊式庭園を愛でることができる素晴らしいところなのに、なぜかいつも人が少ないのです。こんな庭園がもしも京都にあったらたいへんなことになると思います。
こちらの一隅に、お食事処、「三秀」があります。
麻織物の一種、「奈良晒(ならざらし)」で財を成した清須美道清(きよすみどうせい)という人が江戸時代に移築した建物の中で、お食事やお茶をいただけます。今回は、お蕎麦を食べた後なので、デザートに冷やしたおぜんざいを食べながら、のんびりと庭の眺めを楽しみました。
ホームページはこちらです。
http://www.isuien.or.jp/index.html
そのお隣には、もうひとつの庭園、吉城園もあります。古くは、興福寺の子院の摩尼珠院(まにしゅいん)があったところとされ、明治に民間の所有となり大正8年(1919年)に現在の建物と庭園が作られました。池の庭、苔の庭、茶花の庭があり、茶室もあります。わたしはここで、苔の美しさに心打たれました。
開園情報など、詳しくはこちらをごらんください。
http://www.pref.nara.jp/39910.htm
庭園管理業務受託者による吉城園ブログもあり、季節ごとの植物の様子などを知ることができます。
http://yoshikien.blog.fc2.com/
吉田さらさ
公式サイト
http://home.c01.itscom.net/sarasa/
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