歯の痛みに耐えられずに無駄な治療をしていませんか? 実は今、虫歯や歯周病ではない、噛み締めによる歯のトラブルが増えているそう。ストレスや姿勢の悪さが関係しているのだとか。今回は噛み締めによる体への影響をご紹介します。
虫歯や歯周病ではない
歯のトラブルが増えている
「35年ほど前から、不思議な患者さんが増えはじめました。虫歯や歯周病でもないのに嚙むと激痛がする。あごを動かすとカクカク音がする。何度治療しても、詰め物がしばらくすると割れたり、取れたりすると訴えるのです」(井出徹先生)
当時の日本の歯科治療の範疇では、対応できない症状。それが納得できずに、独自の研究を続けた井出先生。そこで出合ったのが、アメリカで発表されたTМD(側頭下顎部(かがくぶ)障害)という症状です。
TМDとは顎関節症とも呼ばれ、口を開けると顎関節に痛みや違和感があり、口を大きく開けられない、朝起きるとあごがこわばる、歯や頭の痛み、首や肩のコリなどの諸症状が現れます。
「こうした国内外の本や論文、実際の診療の現場から私が行きついたのが、謎の痛みや症状の背景に、“嚙み締め”が関係しているということ。あごの関節や姿勢の悪さに原因があると結論を出しました」
私たちは、なにか難しい問題やストレスに直面すると、歯をぐっと嚙み締めます。このとき、歯には約200㎏もの負荷がかかります。通常はそうした緊急事態が終われば、歯は元の状態に戻ります。
「元の状態とは、上下の歯同士が数㎜離れ、舌が上あごについている、本来の自然な状態のこと。しかし、最近はそれが維持できない、つまり、つねに嚙み締めている人が増えているのです」
歯は体の中で最も硬い器官ですが、嚙み締めは同じ硬さの上下の歯を押しつけるので、歯の接触面がしだいに削れて、摩耗します。内部の象牙質はあまり硬くないため、歯の根元にヒビが入ったり、割れて、そこに菌が繁殖して炎症を起こし、痛みに。結果、抜歯するしかなくなることもあります。
次のページでは、噛み締めの具体的な治療法についてご紹介。
顎関節から肩、膝まで
調整する必要あり
上下の歯は、食事で咀嚼(そしゃく)するとき以外は接触していないのが普通です。では、一日のうちどのくらいの時間、接触しているのか? 調べたところ、一般的には、最大たったの20分程度でした。
「それ以上に嚙み締めてしまう要因には、ストレスなどによる精神面と、悪い姿勢などの体の歪みが関係しています」
そこで、井出先生のところでは、体がどう歪んでいるのか、口腔内外の状態を総合的に把握して治療に入ります。
「歪みが軽い場合には、普段から自分で歯を接触させないように意識する方法(ティース・アパート法)と、家で全身の歪みを補整・予防する体操を実践してもらいます。ほかにはマウスピースの着用を指導することも。歪みがひどい場合には、提携している理学療法士や整形外科医で治療を行ってもらいます」
歪んだ土台に家を建てないように、まずは歯が生えている土台を整えること!咬合(こうごう)調整として、安易に歯を削る前に、嚙み締めという原因を考えてみる必要がありそうです。
次回からは「未来型の北欧ケアに注目です!」をご紹介します。お楽しみに!
撮影/中川十内 イラスト/内藤しなこ オブジェ/カイフチエリ
構成・原文/山村浩子