【教えていただいた方】
1969年生まれ。立命館大学法学部卒業後、1992年に日本総合研究所に入社。在職中にFP資格を取得、98年に独立系FPとして転身。現在は、各種セミナーや講演、執筆、個人相談など幅広く活躍。CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格取得。「がんとくらしを考える会」理事、城西国際大学経営情報学部非常勤講師なども務める。著書に『がんとお金の真実(リアル)』『親の介護は9割逃げよ』『病気にかかるお金がわかる本』(共著)『お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか「自然に貯まる人」がやっている50の行動』『終活1年目の教科書』など多数。
こんにちは。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子です。
今回は、家計の中で「これだけは特別。出費は惜しまない」とついつい聖域化してしまうものがあると、お金が貯まりにくいというお話をしたいと思います。
皆さんは、家計に関して「ここにはお金をかけたい」、逆に「これにはあまりかけなくてもいいかも」といったメリハリをつけていますか?
例えば、
「うちは交際費や被服費にお金はかけないけれど、食べることが好きだから食費はこれ以上は削らない」
「習い事にお金をかける分、外での飲食費を減らしている。そのため、ランチは職場にお弁当を持って行っている」
などメリハリをつけているのであれば大丈夫です。
けれど「これに関する支出だけは特別」と金額の上限を設けない支出項目(それをこの連載では聖域と言っています)をつくってしまうと、お金を貯めるのが難しくなってしまいます。
40代、50代のOurAge世代を見ていると、聖域のひとつによくなっているのが子どもの教育費です。
これは、大事なお子さんの教育環境を少しでもよくしてあげたい、お子さんがやりたいことはとことん応援してあげたい、という親心があればこそのことですが、収入に見合わない額を教育にかけてしまうケースがよくあります。
◆「教育資金」と「老後資金」はシーソーゲーム
また、OurAge世代はライフステージからみれば、老後資金を貯める・貯めたい時期でもあります。
つまり子どもの教育費、老後資金そして生活費という3つのお金を意識する世代なのです。
ですから私のところへご相談にいらした方には、「収入に対し、“教育費”、“老後資金” 、“生活費”という3つの支出をそれぞれきちんと配分していれば問題ありません。
でも、それができていないままお子さんの教育にお金をかけていけばいくほど、自分の老後資金の準備ができなくなると考えたほうがいいですよ」とお話ししています。
特に今、首都圏では中学受験率が過去最高となっています。
子どもが中学受験をする頃、ほとんどの親はまだ30~40代くらいの年齢です。
この年代は将来について「どうにかなるだろう」と楽観視してしまったり、老後についてまだ想像がつかなかったりすることがあります。
そしてお子さんが複数いらっしゃる場合は、子どもたちみんなに平等に中学受験をさせてあげたいと考える場合が多く、実際に子どもたち全員を受験させたらそれだけかかる金額も増えていきます。
ある試算によれば、その金額は例えば3人お子さんがいらっしゃるとしたなら、塾代や受験料などで3人分で合計900万円かかるとか。
さらに私立中学に入学すれば授業料もかかるわけですから、その支出に耐えられるだけの世帯収入があるのか、または実家の援助が得られるのかなどを考えないといけません。
◆年金定期便をチェックし、老後に必要なお金を把握しておきましょう
老後資金を貯める目的は、老後の生活資金が足りるよう、そしていざというときに使える備えのお金を用意しておくことです。
まずは毎年誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」をチェックしましょう。
50歳未満の場合、これまでの加入実績に応じた年金額が表示されていますが、50歳以上の場合「ねんきん定期便」には加入実績に応じた、その人が将来受け取れる年金の「見込み額」が記載されています。
「ねんきん定期便」で将来受け取れる年金の見込み額がわかったら、次は老後の生活費がいくらかかるのかを計算してみましょう。
そうすることで、年金だけでは毎月いくら不足するのか、それが1年単位になればいくらになるのか予測できます。
例えば年金額が夫婦合わせて毎月20万円で、必要な生活費は1カ月で30万円かかるのであれば、毎月10万円が不足します。年単位で考えれば不足額は年120万円ですから、10年間となれば1200万円、20年間は2400万円です。
(もちろん老後も働けるうちは働いて収入を得ていくのであれば、この試算は変わってきます)
これとは別にいざというときの備えのお金として1000万円程度を貯める必要があります。
それで老後30年間で夫婦二人で2000万円は不足する、という金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」の提言が5年ほど前にあり、世間が騒然としたわけです。
けれど30~40代、場合によっては50代になっても子の教育費にお金をかけていればそれで手いっぱいとなり、老後資金を貯めるのが難しくなります。
特に、お子さんが高校生、大学生くらいのときは教育費の支払いで貯金どころではなくなり、老後資金なんて考えられないという家庭がほとんどではないでしょうか。
その場合は、ひとまず教育費をまかなうことに専念し、お子さんが大学を卒業したあとに老後資金を貯めるしかありません。
つまり、いちばん下の子が大学を卒業してから自分たちがリタイアするまでが、老後資金を貯める最後のチャンスとなるのです。
もし今まで年間150万円の学費がかかっていたなら、子どもが卒業してもそれを払い続けているつもりになってそのままそっくり貯めていきましょう。
例えば、55歳から60歳までの5年間で750万円貯められる計算です。
ありがちなのは、子どもが無事卒業したら気が緩んで旅行などにお金を使いすぎてしまうこと。
上限を決めるなど計画的に使うのならいいですが、際限なく使ってしまわないよう気を付けましょう。
もしこの“最後の貯め時”にしっかりお金を貯められなかったら、老後も働いて生活費を補わないといけなくなります。
ただ、最近いろいろなご家庭のお話を伺っていると、「うちは大学進学に際して、500万円までしか出せないよ」といったように、上限をお子さんに話すという人もいます。
ほかにはたとえ親の収入が多くても「親が出す金額はここまで」と決めておき、あとは奨学金などで子ども自身で何とかするようにと伝える家庭もあるようです。
いずれにせよ、一度親子で学費について話し合っておくことは大切なことだと思います。
◆好きなことを楽しむためにも、家計のメリハリをつけることが大切です
このように聖域化してしまいがちなのものはほかにもあります。
それは推し活にかけるお金です。
最近は、推し活をする人が増えていますよね。
イベントに参加したり、グッズを購入したりするほか、時には遠征(自分が住んでいる地域以外のライブやイベントに行くこと)もし、推し活が文字通り生きがいになっている人がたくさんいます。
推し活で人生にハリが出るのはとてもいいことです。
とはいえ、これも教育費と同様に、推しのためならいくら使ってもいいと聖域化してしまうのは老後資金を貯めるうえではいけません。やはり使う金額の上限を決めておきましょう。
50代はまだまだ元気で、人生の楽しみを満喫するうえで必要な体力も気力もある年代です。
「老後のために」とすべてを諦めてひたすらお金を貯めるだけの人生もつまらないですよね。子どものやりたいことを応援したり、自分の好きなことを楽しんだり…そうしながら一方ではちゃんと老後にも備えているというようになっていただきたいと思うのです。
それには家計にメリハリをつけること、そして支出に聖域を設けないことが大事なのです。
本日はここまで。
次回もお楽しみに!
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取材・文/倉澤真由美 写真/ACworks