著名人もこっそり訪れるという割烹旅館 天地閣。いつかこの宿の料理を味わいたいと思っていました。この宿があるのは福島県いわき市。小名浜漁港を見渡す高台のてっぺん、細くて急な坂道を登りお宿につくと、天地閣の名にふさわしい眺望が開けます。
すっきりした館内には、温泉ではありませんが男女別のお風呂もあって、旅の疲れを癒してのんびりできます。部屋からは小名浜漁港に行き交う船の様子や、遠くには沿岸の工場風景がひろがり、山並みに沈む夕陽の時間も楽しみです。
港にはたくさんの漁船が停まっています。刻々と変わる空の色。山並みに雲海がかかり、工場の煙がたなびいています。港の夕暮れって、こんなにドラマティックなんですね。
いよいよ夕食の始まりです。旬のじゅんさいとオクラ、その上にはとろとろのウニ。小さな蛸壺から顔を出した「蛸の柔らか煮」のふっくら美味しいこと!大変珍しい「中部筋子」を初めていただきました。これは小名浜の初夏の珍味、この時期だけの中部流し網という漁法で獲るマスの卵で小粒でプチプチとした食感が美味。「うちの畑で作ったキュウリもおまけだよ。」と、これもまた絶品。
ご主人のおめがねにかなった日本各地の魚のお造り。宮城県産の活鮑は横にフレッシュな肝も添えられています。稲取産の金目鯛、静岡産の真鯛、北海道産の真つぶ貝。
そして、もうひとつのお造りは鰹二種。実はいわきは鰹の名産地で、かつては小名浜漁港に美味しい鰹が水揚げされていました。今日は、千葉勝浦産の鰹ですが、その食べ方は、まさに鰹の名産地ならでは。フレッシュなお刺身は行者大蒜の醤油漬けをちょこっとのせてぱくり。そして、たたきは絶妙に燻していてその美味しさに悶絶。スモーキーな味わいがふわっと鼻に抜けて鰹の旨味が広がります。
どーんとひとり一匹登場した煮魚は、青森県産の「赤次」。いわきでは「赤次」と呼ばれていますが、一般名はキンキ。ふんわり柔らかな身が上品な味付けで炊かれていて、夢中で味わい思わず無口になってほおばります。
焼き肴は、銀睦の酒粕焼きと、地元でよく食べられている旬の目光一夜干し。脂がのっていて、頭から丸ごといただけます。これは、お酒があまり強くないわたしでも、日本酒が進みます。
栃木五穀牛サーロインのステーキ。五穀が入った自然飼料を中心に大切に育てられたブランド牛は、自家製ガーリックソースとワサビで。脂がさっぱりとしていて、赤身の旨味もしっかり感じられます。
もう、無理です。おなかいっぱいです。と、思ったのですが、最後のパスタにびっくり。
なんと「ウニパスタ・サルディーニャ風」と書かれています。ウニと塩だけで調理されたパスタは、なんというか、最後にさっぱりとお茶漬けさらさら、みたいな爽やかな逸品。海を味わうお料理の最後を締めくくるのにふさわしい、忘れられないフィナーレでした。
天地閣の大平さんご夫妻。女将さんの温かなおもてなしと、ご主人が腕をふるう料理。冬はあんこう料理が名物だそうです。
福島県・いわき市小名浜
割烹旅館 天地閣
石井宏子
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