こんにちは、元おでかけ女史組の西麻布女史こと草間由紀です。おでかけ女史組を卒業してからもおでかけ熱は冷めず、前回のチュニジアを始めとし、世界各地の伝統料理、ヘルシー料理をテーマに海外にでかけています。
今回訪れたのは、イタリア北部ロンバルディア地方のパヴィーア県。ミラノから車や列車で小一時間の距離にある、京都のような歴史を感じる美しい地域です。
中世にはイタリアの首都として栄え、神聖ローマ帝国の歴代皇帝の戴冠式が司られていました。その後ミラノ公国ヴィスコンティ家の統治時代には学問と芸術の中心地となり、レオナルド・ダ・ヴィンチを招聘して建設した美しい建物や1361年に設立されたパヴィーア大学などが当時の隆盛を伝えています。
ヴィスコンティ城で、毎年開催される中世の伝統を伝えるイベントに出会いました。
中心部を離れると、ヴィスコンティ家の荘園、ヨーロッパ最大の収穫量を誇る米田など絵画のような風景が広がります。マルコ・ポーロが中国から稲の種を持ち帰り、ポー河の水が豊かなこの地域に稲作を広めたそうです。パスタよりもリゾットが日常的で、今回の旅行中は、お米が恋しくなることはありませんでした。そしてお米以外にも、私が持っているイタリア北部の料理の概念を超える食体験をしてきました。
イタリアのヘルシー料理というと真っ先に思い浮かぶのがオリーブオイルやトマト。
しかしロンバルディアなどの北部の地域には元来オリーブの樹木はなく、ナッツオイル、バター、クリーム、チーズ、家禽の脂などが主な油分として使われ、他の地方のイタリア人からすると少し“重たく”感じる料理が伝統的につくられてきました。気候や風土からなる自然の恵みを活かすという観点からすると、ごく自然なのですが・・・。
イタリアで「スローフード」が提唱され始めてから30年程経ちました。パヴィーアでは、伝統を守りその地の食材を用いたお料理はどのように進化しているのでしょうか。
20代シェフの挑戦。現代的な解釈で伝統料理の価値を伝導。
伝統の郷土料理を尊重しつつ、現代社会にあわせた解釈でオリジナルの料理を提供するのは「リストランテ・カッシーナ・ヴィットリア」の若きシェフ、ジョヴァンニ・リッチャルデッラさん。新鮮で安全な食材にこだわり、レストランの前庭で家禽を飼育し、ハーブが香る菜園が広がります。幼少時代、周りの子どもたちが好むスナック菓子に疑問を持ち、自らおやつをつくったのが料理の世界に入るきっかけになったそうです。正にスローフードの申し子のようなエピソードです。
シグニチャーメニューとなる「茄子のミルフィーユ、三種のテクスチャーのパルミジャーノ:冷製、温製、クリスピー」
アイスクリーム、温かいソース、カリッとした食感のガレットと、三変化したパルミジャーノと楽しむトロリとした茄子の前菜。チーズソースは重たく単調という概念を払拭する、意外性に富んだ面白い一皿です。
「燻製仔牛のツナソース」
「仔牛のツナソースは素晴らしい伝統料理なのに、現代では安食堂のメニューのように思われているふしもあり、ないがしろにされがち。」と感じた彼が、この料理が持つ本来の価値を復刻させようと現代的なアレンジに。薪の上で回転させながら火入れをしてレアに仕上げた一口大の仔牛肉と、ポイント的に配されたツナソース。それぞれの美味しさのみを味う軽い口あたりの料理に仕上がっています。白い花とハーブを添え、視覚的にも軽さを演出。
また、伝統的なクリスマス時期のスィーツ「パネットーネ」を一年中楽しめるよう、イーストを工夫し旬の具材を用いるレシピを考案。中でも苺を使ったものは、その美味しさと発想の豊かさでスティーレ・デル・コリエーレ・デラ・セラ(Style del Corriere della Sera)紙 で「イタリア最高のパネットーネ」と評されたそうです。
伝統料理に敬意を表し、卓越した創造力で現代的なヘルシー料理に仕上げる手腕に感服しました。
母娘2代でスローフードを提唱する老舗アルベルゴ。
昔から保養地として栄えたリヴァナッツァーノ・テルメに100年以上も前の1912年に開業したアルベルゴ(レストランを併設した宿)「セルヴァティコ」。
現在4代目のシェフは女性のピエラ・セルヴァティコさん。
スローフード同盟に加盟し、地産地消にこだわった伝統料理を提供しています。
娘のミカエラさんはパン、デザートのパティスリーシェフ。
地元産のオーガニック小麦をつかったパンやパスタ作りの体験教室も開いています。
前に並んでいるのは、この日の体験で教えていただきながら焼いたパン。味付けは少量の塩とオリーブオイルのみ。パン作りの体験教室に参加して、「こだわった素材に余計なものは加えずシンプルに調理する」ことがいかに大切かを感じることができました。
「パンは聖なるものなので、伝統的に食卓の真ん中に置きます」とピエラさん。
屋外に設えられた素敵なテーブルセッティングで、植物に囲まれたランチタイム。自然の息吹や香りを感じながらの環境も精神的にヘルシーです。
「ズッキーニの花とスタッフォレラ(を詰めた)とグリーンピースクリーム、モンテボーレのプリン」
キッチンでみせていただいたズッキーニの花は美しく開花していました。摘みたての証拠です。そこに詰められたスタッフォレッラというチーズはクリーミーで塩気はあまりなく円やかです。かたやプリンになっているモンテボーレというチーズは、牛乳と羊乳を使い個性があるもの。レオナルド・ダ・ヴィンチのお気に入りだったと言われ、生産されなくなった時期があったものの、復刻されたそうです。一皿に対照的な地元のチーズを2種使っていますが、全体的にとても軽いくちあたりです。
「ボラ―ジネ(ハーブ)のニョッキ、野の花」
自然が豊かなパヴィーアの野原を思い起こさせるような、美しい一皿。ボラジーネの爽やかな香りが食欲をそそります。「セルヴァティコ」に到着した時に、ピエラさんがハーブのブーケを手渡してくれました。ハーブを適切に料理に用いることも、ヘルシー料理のポイント。ボラジーネは、抗酸化やデトックスを考えて昔から料理に用いられてきたそうです。
母娘二代のシェフのピエラさんとミカエラさんと、もう一人の娘のフランチェスカさんと旦那様のセルジオさんが中心となって切り盛りする家族経営の温かさと丁寧さ。4代にわたり受け継がれてきた伝統がよりスローフードを感じさせました。
ポー河の豊富な水源のおかげで緑が広がり、米、野菜、果物、ワイン用のブドウの収穫には定評があるパヴィーア。伝統に裏付けされた現代のヘルシーごはんは、「食材が育つ環境を吟味し、伝統に忠実に、調理はシンプルに創造性を加えて」が鍵のように感じました。
リストランテ・カッシーナ・ヴィットーリア
https://www.cascinavittoria.it/
セルヴァティコ
https://www.albergoselvatico.com/
パヴィーア商工会議所