医療ジャーナリスト 増田美加さんの更年期女性の医療知識アップデート講座
今回から始まる連載では、MyAge/OurAge世代の女性が知っておきたい最新の医療知識をご紹介していきます。教えてくださるのは、医療ジャーナリスト の増田美加さんです。
第1回 乳がんはマンモグラフィで見つからないの?
検診を受けていたのに 早期発見できないなんて!
「私は年1回、マンモグラフィ検診を受けていたんです。それなのに、なぜ早期発見できなかったのですか? 増田さん」
真剣なまなざしでそう問いかけられ、返す言葉がありませんでした。私が乳がん罹患後、NPO法人キャンサーネットジャパン認定の乳がん体験者コーディネーターとして、都内のあるクリニックで相談を受けていたとき、乳がん患者さんから突きつけられた質問です。 彼女だけでなく、私の前には定期的にマンモ グラフィ検診を受けていたにもかかわらず、進行した乳がんが見つかる女性が現れ続けていました。医療ジャーナリストとして長年、乳がん検診を受診することの重要性を訴えてきましたが、このままではいけない…という思いが日に日に強くなっていきました。
今、乳がん検診の分野で論議を巻き起こしている「高濃度乳房(デンスブレスト)」をご存じでしょうか? 乳腺濃度が高く、マンモグラフィ(マンモ)の画像でがんが見えにくいタイプの乳房のことです。乳腺濃度とは、乳腺が乳房内にどれだけ存在するかの割合。この高濃度乳房は、実は、私たち日本人を含むアジア人に多いタイプの乳房なのです。
写真提供/NPO法人乳がん画像診断ネットワーク
高濃度乳房の問題点は大きくふたつあります。ひとつはマンモでは、乳腺もがんも"白く"写るため、乳がんが見つけにくいこと。乳がん専門医の間では、まるで雪原の中の白うさぎを探すかのようだと言われています。もうひとつは、欧米人に多い脂肪性の乳房に比べて乳がん発症リスクがやや高いこと。
マンモでは乳腺もがんも白く写るため、高濃度乳房ではがんかどうかの判別が難しい…。 にもかかわらず、国の検診指針では、乳がん検診の結果として本人に知らせるのは「要精密検査」か「異常なし」のみ。高濃度乳房のため「判別困難」であっても、伝える仕組みがないという問題に取材の中で気づきました。定期的に乳がん検診を受けていても「異常なし」と通知され、ある日突然、進行した乳がんが見つかる。もしかしたら相談に来た女性たちは高濃度乳房だったのかもしれない…。
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マンモはしこりになる前の小さながんを見つけるのが得意で、世界で唯一効果が認められている乳がんの検診法です。だからこそ、 国は40歳以上の女性に対し、2年に1回の受診を推奨しています。だったらせめて、結果を「異常なし」ではなく、見えない場合は「判別困難」と通知してほしい。マンモでは見えにくい乳房のタイプであることを知っていれば、乳腺濃度の影響を受けにくい超音波検査を追加で受けるなど、対策をとれます。高濃度乳房の人が知らずにマンモだけの乳が ん検診を受け続けていたのでは、早期発見ができず、がんが進行してしまう可能性があります。多くの人は自分の身を守るために、がん検診を定期的に受けているのです。結果が「異常なし」で返ってくると、誰もが「がんはなかった」と安心してしまいます。
そこで2016年、厚生労働大臣に宛て、乳がん検診制度の見直しを求める要望書を全国の乳がん経験者の有志とともに提出し、厚生労働省で記者会見を行い、多くのメディアにニュースとして情報発信してもらいました。
要望書提出の後、現在、国は専門家の検討会などで議論していますが、検討会の医師たちは「超音波検査のエビデンスが確立していない」「超音波検査を行う体制が整っていない」などを理由に「判別困難」の通知には慎重な意見です。しかし体制が整うまでには10年20年という時間がかかります。その間、検診を受ける人はどうしたらいいのでしょうか…。 私たちには自分の体を「知る権利」があります。
自分が高濃度乳房かどうか知るためには、どうすればいいのか。次回の連載で紹介します。
イラスト/堀川理万子