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自身の乳がんと母親の認知症。ドキュメンタリー監督の信友直子さんが得た人生観とは?(インタビュー/後編)

広島県呉市に住む両親をプライベートビデオで撮り続けてきたという

「ひとり娘、東京暮らし、独身」のドキュメンタリー監督・信友直子さん。

87歳・認知症の母と、母を支える95歳の父を描いた最新作に加え、

2007年、45歳のときに告知されたという、自身の乳がんについても話を聞いた。

 

(映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』について語った、インタビュー前編はコチラ

 

撮影/萩庭桂太 取材・文/岡本麻佑

信友直子さん

Profile

のぶともなおこ●1961年生まれ。広島県呉市出身。1984年東京大学文学部卒業。1986年から映像制作に携わり、フジテレビ『NONFIX』や『ザ・ノンフィクション』で多くのドキュメンタリー番組を手がけてきた。『NONFIX 青山世多加』で放送文化基金賞奨励賞、『ザ・ノンフィクション おっぱいと東京タワー~私の乳がん日記』でニューヨークフェスティバル銀賞・ギャラクシー賞奨励賞を受賞。北朝鮮拉致問題、ひきこもり、若年認知症、ネットカフェ難民などの社会的テーマからアキバ系や草食男子の生態まで、現代社会のさまざまな様相を取り上げてきた。本作で劇場公開作品の監督デビューとなる。

 

3ヶ月ごとの乳がん術後検診で、

心配してもしなくても再発転移の結果は同じと気付いた。

 

ドキュメンタリー映画『ぼけますから、よろしくお願いします。』は、認知症の母と、父、そして娘の物語。

その中には長い年月を共にする夫婦の姿があり、そこから巣立つ娘の姿があり、病があり老いがあり、介護する側される側の葛藤があり、無常観がある。

ずしんと重いテーマなのだが、どうしてだろう? 観ていて暗い気持ちにはならない。涙は流れても最後には、ほっこりとあたたかい気持ちが残る。

 

「父と母の明るさのおかげだと思います。楽観的で良いキャラだと、娘の私でも思います。母はいつも笑っていたし、父はいつでも機嫌がいいんです。

母の認知症がわかったときも、父は『まあ、年相応だろう』と淡々と受け入れていました。この映画が公開されるのを、本当に楽しみにしているんです」

 

その楽観性を、直子さんも十分に受け継いだらしい。

 

本作には、2007年に乳がんを宣告されたときの、直子さん自身のエピソードも挟み込まれている。

当時自撮りしたビデオ映像には、手術前後、上京した母と会話を交わす姿や、抗がん剤で髪の毛が抜け落ちてしまった姿が、まんま、映し出されているのだ。

 

「おっぱいをなくしたときに私はどう思うのか、そこからどうやって立ち直るのか、立ち直れないのか、純粋にディレクターとして興味があったので映像を残していました。それまで仕事で誰かを取材するとき、これ以上やめて、と思うようなところまで踏み込んだことも何度もありましたから、それに対する贖罪というのかな、私自身もさらけださないと、申し訳が立たないと思って」

 

それまでの直子さんは、バリバリの仕事人間。30代から40代、映像作家としてがむしゃらに働いていた。

 

「仕事が大好きですごく楽しかったから、どんどん前のめりになって、あれもこれもと自分の欲望に振り回されて、めっちゃ無理していたんです。

でも病気を機に会社勤めを辞めてフリーランスになり、自分のペースで働くようになりました。そこからは”足るを知る”というか、ちょっと、人生観が変わったかもしれません。

ガンの手術後、3ヶ月ごとに検診を受ける時期があったのですが、最初の頃はずーっと気が気じゃなくて、不安なまま3ヶ月を過ごしていたんです。

でも考えてみたら、心配してもしなくても、結果は一緒なんですよね。逆に楽しく過ごしたほうが、免疫細胞が活発になってくれるかもしれない。忘れていたほうが得だなって、心底思いました。

そこから、毎日できるだけ楽しく暮らしていこうと思っています。お医者さまから、再発転移しないためには、免疫を上げるために運動して代謝を良くするように心がけなさいと言われたので、スポーツジムに通って筋トレしていますし、食事も規則正しく、野菜多めです」

実は、母の認知症が判明し、老老介護となった時点で、広島の実家に戻ろうか、という思いもあったという。

 

「でも、父に反対されました。『あんたはあんたの仕事をやりなさい』って。うちは『本当に好きなことをやりなさい』というのが1番の教育方針でしたし、両親のために私が仕事をやめて帰るということは、父にとっても挫折になるんです。ちょっと変わった家かもしれませんけれど」

 

ところが映画の公開が近づき、試写会や宣伝活動真っ最中の9月30日、新たな展開があった。

89歳になった母の文子さんが、脳梗塞で倒れたのだ。救命救急センターに運ばれ、危険を脱してからの容態は安定し現在入院中だが、家に戻れるかどうか、予測のつかない状況だ。

 

「98歳でひとり暮らしの父も心配なので、東京から毎日電話を入れています。でも父は耳が遠いので、電話に出てくれない。うちはいまだに黒電話で呼び出し音が大きいのに、昨日も100回コールしても出ないので、近所に住むケアマネージャーの方に電話して、無事を確認してもらいました」

 

実家に戻って両親のそばで暮らすことを、改めて考えているという。

 

「でもそれは、私のキャリアの中断にはならないし、しないと思います。私はプライベートと仕事の境界線がなくて、生きていること、生活していることすべてがネタになっている。これから先も私は父と母を撮り続けるだろうし、先のことはわかりませんけど、信友家の物語はまだまだ続く、ということですね(笑)」

 

認知症のこと、介護のこと、年齢を重ねること、老いること、そして誰かを愛すること。観る人誰もが、この作品の中に、自分自身を見つけるに違いない。

 

 

『ぼけますから、よろしくお願いします。』

87歳・アルツハイマー型認知症の母と、母を支える95歳の父。娘にだけ見せるリアルな日常に、観た人それぞれが「我が家」を重ねることだろう。

11月3日(土)より、ポレポレ東中野ほか、全国の劇場にて順次公開予定。

(C)「ぼけますから、よろしくお願いします。」製作・配給委員会

公式サイト:http://www.bokemasu.com/

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