こんにちは小野アムスデン道子です。9月末、ワインが大好きな私、念願のボルドーへ旅してきました。パリから飛行機で約1時間15分。ワイナリー巡りのほかにも、世界遺産である美しい“月の港ボルドー”の街やソムリエ気分を体感できるワインの博物館「シテ・デュ・ヴァンLa Cite du Vin」も楽しく、旅先としておすすめです。そこで、ワイン醸造家として第2の人生を送られている2組にお会いして、その経緯やワイン愛などについて聞いてきました。
まず、ワイナリー「シャトー・ルセップChâteau le Sèpe」を始める前は、保険会社のリスクマネジメントのマネージャーだったというドミニク・ギュフォン氏。典型的企業人生を送るなか、友人に「それで人生面白いか?」と背中を押されて、まず1年間醸造学を学んだ後、50歳の自分を研修生として受け入れてくれるワイナリーを軒並み当たり、唯一受け入れてくれたマルゴーのシャトーで研修を1年。その後に独立したそう。
このシャトー・ルセップがあるのは、ドルドーニュ川を隔ててサンテミリオン地区と向かい側。しかし、土地の値段は、有名なサンテミリオンだと1ヘクタールあたり15万〜400万ユーロで、一方、ここなら1万2千〜2万5千ユーロ。「土壌もよいし、海抜が高いから風通しもいいんですよ」と23ヘクタールの畑を案内してくれたドミニク氏。「すぐにブドウを運び込めるよう、畑の近くに工場を建て、収穫や選別は機械化して、ほぼ自分1人でやっています。2009年からはボトリングも自社で始め、生産は年間9万本。日本はこれからですが、ヨーロッパ内やアメリカにも出荷しています」
ワインの味にアドバイスもするという奥様は、現役の弁護士としてパリで働き、週末にはこちらに戻るという生活。「でも、子供ももう独立してイギリスで働いていますし、もう少ししたらホテルやレストランをこちらでオープンさせるんですよ」とご自慢の料理でもてなしてくださいました。
50歳から、学問も実地での修行も終えての起業。奥様も働いていてそれまでの資産もあったと思いますが、堅実に土地を選び、大きなお屋敷の一部は宿泊施設としても使い、人生設計をきちんと組んでのことだったよう。天候などに左右されて、苦労もあるワイン造りですが、ドミニク氏のワインを語る嬉しそうな顔に、充実の第2の人生が伺えたのでした。
つづいて、もうお一方の第2の人生についてご紹介します。
もうお一方は、「ビオデナミ」という、有機農法に加えて天体と植物との関連を生かした農法にこだわるクリストフ・ピア氏の「シャトー・クロノーChateau Couronneau」。ビオデナミを一言で説明するのは難しいのですが、シュタイナー教育で知られるドイツの人智学者ルドルフ・シュタイナーの説を農法に取り入れていて、有機であることはもちろん、生態系を重視、畑には自然界のものを利用して作ったプレパラシオンという調合薬(牛糞を角に入れて土に埋めて作るそう)を撒きます。醸造過程にも潮の満ち引きで内部が循環するという樽を使用していました。
24ヘクタールあるワイナリーは1997年に買い取り、オーガニック認証、さらにビオデナミの認証を取って、身体にも環境にもよくおいしいワインにこだわっているそう。確かに試飲させてもらったメルロー100%の赤ワインは、タンニン(渋み)がしっかりしているのにまろやかで口当たりが抜群。
クリストフ氏の前職は、なんと馬術競技選手だとかで、敷地内にいる愛馬は彼の口笛に応えてやって来ました。こちらも奥様が、シャトーの一部を宿泊施設として運営されていて、お料理もとてもお上手。
「20年前は、オーガニックといえば自然が好きな人が造るものという評価でしたが、今はおいしいワインを造ろうと思えばオーガニックというように変わって来ましたね。農薬を使って楽に農業をするというのではなく、未来を考えてオーガニックを進めていこうというのに今の世代は理解があるんです」と若手醸造家たちとも交流を深めて、いいワイン造りに余念のないクリストフ氏。こちらもお子様は巣立った後の第2の人生をワイン醸造家として満喫されていました。
取材協力/ボルドー&ボルドー・シュペリユール醸造家組合、ボルドー・スウィートワイン連盟、在日フランス大使館貿易投資庁−ビジネスフランス