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「年をとることは後退じゃない」/山口智子さんインタビュー①

年をとることは後退じゃない。
円熟した魅力への進化の過程です。

 

健康に裏打ちされ、余計なものを削いだ美しさと、一心に何かに向かう気持ち。

山口智子さんは、20代より30代より、今、さらに輝いています。
世界を歩き、そこにある人間の営みを音と映像で伝えるために
ドキュメンタリー「LISTEN.」を作り続けて7年。
俳優だけにとどまらない、それを続ける志が、今の彼女の美と生の源。
「美しく老いること」の前に、ほとばしるように生きること。
その姿勢には、どんなサプリよりも化粧品よりも有効な
すべての女性たちへの、強いメッセージがありました。

 

人生、日々が旅。
より快適に、
サバイバルすることを
試されている、旅

山口智子

山口智子さん

1964年生まれ。’88年NHK連続テレビ小説「純ちゃんの応援歌」ヒロイン役でデビュー。’94年「29歳のクリスマス」、’96年「ロングバケーション」など代表作多数。

2010年より世界の音楽文化を伝える映像シリーズ「LISTEN.」をプロデュース。BS朝日にて9月放送の最新編はサルディーニャ。
http://www.the-listen-project.com

 

 

音楽が流れたら
踊り出せる人間でいたい。
命の喜びを素直に表したい。

山口智子

この7年で変わったこと。
確実に、待てる人間になった

 

時間をかけなきゃ
出ない答えのほうが面白い

 

時間をかけて長く愛したい。 物も人も作品も同じ

 

俳優でありつつ、日本の物づくりの職人に学びその作品を紹介したり、世界中を舞台にドキュメンタリーを作ったり。表で演じることと、裏で作ることを繰り返す山口智子さん。しかし彼女がやりたいことは、実は一貫していました。
「心を開いて、世界の美しさに耳を傾けようという思いを“LISTEN.”というタイトルに込めました。物でも人でも、風土に育まれ、受け継がれてきた美しさに惹かれます。時間をかけないと出ない答えのほうが断然面白い!」
この7年、思いをこめて世界各地を巡り撮影を続けている「LISTEN.」は、BSで毎年放送される映像シリーズ。「未来へ伝えたい世界の美しい音楽文化を収めたタイムカプセル」というコンセプトで作られています。
「世界を知れば知るほど、未知の世界が広がる。ひとつ扉を開くと、また次の扉に誘われる。インターネットで事前調査もとことんやりますが、やはり現地に立つことで多くの発見があります」

 

山口さんの情熱とタフネスは番組を見ればよくわかります。
「反省の連続です。私はカメラの前に立つ側の気持ちもよくわかるので(笑)、できるだけ自然な雰囲気の中で、素敵な瞬間をそっと映像に収めたいと願っています。でも、機材やら録音マイクやら、虚構空間を強いなければならない現実との戦いです」
キュッと、作り手の顔に。その緊張感が、彼女の元気の秘密かもしれません。
「日々感動して、脳をときめかせることが大切だと思う。例えば恋してるときは、不思議な力がわいてくるでしょ? 寝なくても食べなくても平気。だから私は、脳のときめきに忠実に、数日単位で睡眠や食のバランスをとるようにしています。規則正しいストイックな健康法は、私にはかえってストレス。自分の心の声に、本気で耳を傾けることに努めています」

 

 

時間をかけて作る喜びを知り
“待てる”人間になりました

「LISTEN.」を作りはじめて7年たった今、山口さんは自身にも大きな変化があったと感じています。

「確実に“待てる”人間になりました。私は実は究極のせっかち。エレベーターを待つくらいなら、一段飛ばしで階段を上りたい(笑)。でも、映像作りを通して、時間をかけて創り上げるすばらしさを学ぶことができました。職人さんが作り出すものでも、風土に育まれる芸能でも、何世代も受け継がれ磨かれてきたものは、とうてい真似できない魅力にあふれています。時間をかけるべきものには、ちゃんと時間をかけていいんです!」

 

世界の文化が深いところでつながっているという感触も、彼女を変えました。
「音楽が流れたら、踊り出せる人間でいたい。命の喜びを素直に表したい」
しばらく練習を休んでいたというフラメンコを、そんな気持ちで最近、再開したといいます。
「一時期、振りを追うだけの練習に抵抗がありました。自分の魂に通じる音楽や踊りはいったい何なのだろうという疑問があった。でも世界の音楽は、互いに行き交った融合の歴史でもある。遠い異国の文化に、たまらない懐かしさを覚えるのは真っ当なことなのです。この数カ月は身も心も解き放たれて、一日何時間もレッスンに熱中しています」

 

山口智子

「LISTEN.」映像より。プエルトリコの〝ボンバ〞。〝爆弾〞と称するリズムは、アフリカから奴隷船で
新大陸に伝えられた。

山口智子

南米アンデス山脈の葦笛。赤土の山々にこだまする音は、風や鳥の声、大自然と
のコラボ。

山口智子

南インド。神に捧げるものとして歌やリズムがある。収穫祭では女性が家々の玄関前に米粉
で花を描く。その形をかたどった舞台を作り、撮影した
©Twin Planet/Peter Rakossy

 

本当に必要なものは何か。
旅は心の声を聞く修行の場

 

旅を通して、自分を研ぎ澄ましていく感覚が向上しているという山口さん。
「身軽に旅するためには、自分には何が本当に必要かを問われる。衣でも食でも、自分が求めているものがクリアになる修行の場です」
無事に旅を成し遂げるためには、日々疲れを回復する力も必要になってきます。
「旅の緊張感を癒すのに欠かせないものは、“香り”です。時差で眠れないときにはラベンダーのアロマが効果的。日によって求める香りが変わるから不思議。数種常備しています」
インターネットで調べものを続けるには、それなりに目も疲れそうですが。
「年とともに視力が弱っても、それは眼鏡を選ぶ楽しみにつながる(笑)。昔は目がよすぎていろんなものが見えすぎた。例えば、ラブシーンなんかで、相手役の顔の細部まで見えすぎたり(笑)。人生、ボヤけてるくらいでちょうどいいこともあるのです」

 

それだけの旅を誰もができるわけではありません。さて、私たちはどんなふうに自分を磨けばいいのでしょう。
「人生、日々が旅でしょう。この瞬間瞬間、いかに人生を面白がって、感動を自分で引き寄せていくかが勝負です」

 

 

互いの“違い”が
面白いと思えるようになった

 

山口さんが旅をして帰る場所には最愛のパートナーがいます。
「唐沢さんとの暮らしの中で、『今日は何食べる?』とか、『おやすみ』と言って、共に眠りにつけるような、何気ない日常のひとときに、涙が出るほどの感動と幸せを感じます。趣味嗜好は互いに違っても、その違いが年とともに面白いと思えるようになった。これも、時間をかけて築く楽しさのひとつです」

 

例えば旅をしてきた山口さんが、唐沢さんと話すのはおもに食の話なのだそう。一緒に旅をするのはスペインのバル巡りが多いというのも、お互い唯一の共有できる嗜好が食だから。
「子どもを持たない選択をした私たちは、二人でいる時間をより楽しくするために、積極的に力を注いでいます。人と同じである必要はないのだから、誇りを持って自分ならではの人生の選択をすればいい。自分で選択してさえいれば、後悔はないはず。いろんな選択のバリエーションが、世界をもっと楽しく美しく彩っていくと思う」

 

 

 

次回は、山口さんが思う“美 ”などについて語っていただきます。

 

 

撮影/浅井佳代子 ヘア&メイク/MICHIRU(3rd) スタイリスト/清水けい子(SIGNO)

取材・文/森 綾

 

 

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