脂肪肝になる最大の原因は「糖質のとりすぎ!」
こんにちは。僕はあなたの右わき腹にいつもひっそりといるカンゾウ(=肝臓)です。
あなたが食事から摂取した糖質や脂質といった栄養素の代謝を行っています。
僕に脂肪がたまってしまった状態、「脂肪肝」になると、過剰な脂質が肝臓に負担をかけるため、糖質や脂質を代謝する作業がうまくできなくなってしまい、体脂肪がたまりやすい(つまりデブ体質)になってしまいます。
「痩せたい!」と思っている人は、ぜひ、僕に脂肪がたまらないように、すでにたまっている人はその脂肪を落とし、脂肪肝を治すようにしましょう。
ところで、ここでクイズです。肝臓に蓄積される中性脂肪の「もと」になっているのはなんだと思いますか?
揚げ物や炒め物の油? 肉の脂身? というように、「脂肪」というくらいだから、食べ物に含まれている「脂質」とついつい考えがちですが、実はもとは「糖質」。でも、なぜ摂取した糖質が、肝臓に蓄積する中性脂肪となってしまうの?
そこのところを、僕、肝臓の専門医であり、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした診察を長年続けている、栗原毅先生に聞いてみましょう。
カンゾウ君、いつもご苦労様です。栄養素の代謝が行えるのは、数ある臓器の中でも君たち肝臓だけ。肝臓に取り込まれた糖質は、体の主要なエネルギー源。摂取後消化され、ブドウ糖に分解された後、血液中に入り、全身の脂肪に運ばれて、1g当たり4kcalとして消費されます。糖質はおもにご飯やパン、麺類などの主食に多く含まれるほか、いも類や果物、砂糖にも多く含まれます。糖質はこれらの食材に含まれる炭水化物から、食物繊維を取り除いたものを言います。
糖質はブドウ糖に分解され、小腸から吸収されて血液中に入り、全身の細胞に運ばれ、エネルギー源として利用されます。そして、消費しきれなかった余剰分は、肝臓と筋肉で「グリコーゲン」と呼ばれる貯蔵用のエネルギーとして、一時的にストックされます。
こうした、肝臓中に保存されたグリコーゲンは血液中のブドウ糖が不足したときに、再度分解されてブドウ糖となって血液中に放出されます。筋肉中のグリコーゲンは運動時に必要なエネルギーとして利用されます。
ところが、肝臓に蓄積されたグリコーゲンが、使用されることなく蓄積されたままになると、脂肪として肝臓の細胞にとどまり、脂肪肝になっていくのです。
ご飯、パン、麺類、菓子、果物に要注意!
糖質を多く含む食品とは、ご飯やパン、麺類、菓子、果物などです。これらの食品は、女性の多くが好む食品でもありますよね。
私とサッポロビール株式会社が2015年に実施した「食習慣と糖に関する20~60代男女1000人の実態調査」では、女性の1日の糖質の摂取量は男性と同等か、年代によっては、男性よりも多くなっています。
女性の場合、食事量全体が男性より少ないため、糖質の摂取基準値は、男性よりはもともと低く設定されています。
その基準値と比較してみると、女性の糖質オーバーの状況は男性よりも深刻なことがわかります。
そして、特に、50代の女性の糖質の摂取量は基準値の2倍以上に達しています。
というのも、この年代の女性に食事としてありがちな、「軽い食事ですませる」という習慣も糖質摂取が多くなってしまう原因のひとつだからです。
自分一人で食べる昼食などは、コンビニのおにぎりやサンドイッチだけ、鍋ひとつで簡単に調理できるうどんなど、手軽な食事ですませている…という人はいませんか?
こうした手軽な食事は、どうしても糖質に偏りがちです。
そして、このような糖質中心の食事を続けていると、「非アルコール性脂肪肝(NAFL)」になりやすくなります。
また、太りやすい食事というと、すぐに頭に浮かぶのが、「脂質の多い食事」。カロリーを気にしている人は多いのではないでしょうか。
でも、カロリーを気にしている人ほど、糖を過剰摂取している傾向にあり、脂肪肝リスクが高いのです。
男性の場合、「スタミナがっつり系」の肉料理をメインにした食事をとる人が多いですが、女性の場合、肉の脂質を避けてカロリーを抑えようと、肉料理を減らしてあっさりした食事を好む傾向があるからです。
意識すべきはカロリーではなく、糖質量だということをお忘れなく。
極端な糖質制限もNG! お腹だけぽっこりは「ダイエット脂肪肝」?
「脂肪肝」の原因は、「糖質のとりすぎ」とお話ししてきましたが、実はその正反対の食事、「極端な糖質制限」も、肝臓に脂肪が蓄積する原因になります。
ちょっと聞くと矛盾した話のように聞こえますよね。
肝臓に中性脂肪が過剰に蓄積されると「脂肪肝」になりますが、健康な肝臓にはそもそも2~3%程度の中性脂肪が蓄えられています。
これは肝臓が働くうえで不可欠なエネルギー源であり、この2~3%の中性脂肪まで失ってしまうと、肝臓は危機的な状況に陥ります。
肝臓が正しく機能しなくなってしまったら、生命の維持の危機。
ですから、大脳は、体中の脂肪を肝臓に集めるよう、全身に指令を出します。
その結果、手足の脂肪は失われて痩せるのに、肝臓だけが脂肪をたっぷり抱え込むことになります。
これが「ダイエット脂肪肝」あるいは「低栄養性脂肪肝」と呼ばれるものです。
外見はほっそりしていても、お腹だけぽっこりと出ているという人は「ダイエット脂肪肝」が疑われます。
こうした危険な状態に陥るのを防ぐには、ひと月3kg以上の減量はやめましょう。
1カ月につき、0.5~1kgの減量が、健康を維持しながら美しく痩せるダイエットとして理想です。
【教えていただいた方】
栗原クリニック東京・日本橋院長。 医学博士。北里大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院教授、東京女子医科大学教授を歴任。2008年、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした、栗原クリニック東京・日本橋を開院。おもな著書に、『図解で改善! ズボラでもラクラク! 1週間で脂肪肝はスッキリよくなる』(三笠書房)、肝臓専門医の視点を生かし、肝臓病や糖尿病、高脂血症などの「生活習慣病」の治療に従事。薬に頼らない改善方法を
イラスト/内藤しなこ 取材・文/瀬戸由美子