【教えていただいた方】
栗原クリニック東京・日本橋院長。 医学博士。北里大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院教授、東京女子医科大学教授を歴任。2008年、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした、栗原クリニック東京・日本橋を開院。おもな著書に、『図解で改善! ズボラでもラクラク! 1週間で脂肪肝はスッキリよくなる』(三笠書房)、肝臓専門医の視点を生かし、肝臓病や糖尿病、高脂血症などの「生活習慣病」の治療に従事。薬に頼らない改善方法を
こんにちは。僕はあなたの右わき腹にいつもひっそりといるカンゾウ(=肝臓)です。
僕、カンゾウは「沈黙の臓器」と言われるように、かなり状態が悪化するまで症状が出ません。
負担がかかって苦しくても、つい無言で頑張ってしまいます。
そのため、皆さんは、僕の存在を、普段あまり意識することがないかもしれませんね(涙)。
1年に1度の健康診断は、僕が元気かどうか、脂肪肝になっていないか、またはその予備軍になっていないか、肝臓の状態を数値として知ることのできるよいチャンスです。
とは言っても、検査結果のどこをどう見ればよいのかわからないという方も多いはず。
そこで今回は、健康診断や人間ドックの結果の、肝臓に関する数値の見方について、肝臓の専門医であり、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした診察を長年続けている、栗原毅先生に教えてもらいましょう。
健康診断で「異常なし」と出ていても脂肪肝の疑いあり
ご紹介ありがとう。カンゾウ君。
それでは、検査結果の見方を私からご紹介しますね。
肝臓の検査項目にはそれぞれ、肝機能障害を判断する基準値が設けられており、ALT(GPT)とAST(GOT)は10~30IU/L、γ-GTPは0~30IU/Lとされています。
しかし、この基準値を超えるというのは、肝機能が相当悪くなっている状態です。
まだそこには至らない初期状態である「脂肪肝」では、このような基準値は超えていないケースも多く、健康診断の結果としては「異常なし」とされます。
ですから、脂肪肝であるかどうかを判断するには、こうした「基準値」ではなく、もう少し低めの「理想値」で判断する必要があります。
私は、ALT(GTP)とAST(GOT)の理想値を、~16 IU/Lとしています。
そして、17 IU/L以上の数値が出た人には、「脂肪肝」であるとして、生活習慣の改善を指導しています。
最近受けた健康診断の結果があれば、さっそくALT(GTP)とAST(GOT)の数値を確認してみましょう。
基準値内に収まっていて「異常なし」とされていても、「理想値」を超えていれば、脂肪肝の疑いあり。糖質の過剰摂取をしていないか、食生活を見直したいですね。
健康診断(血液検査の数値)はココを見よう!
<血液検査>
ALT(GTP) 理想値:5~16 IU/L
糖質のとりすぎによって肝細胞に異常が発生すると、最初に増える数値です。
ただし、肝硬変になると、数値は低くなるので注意。
AST(GOT) 理想値:5~16 IU/L
肝細胞で壊されたときに放出される成分の数値。
血液検査ではALTとの比較で、肝機能の状態がわかります。
ALTよりもASTの数値が高ければ、お酒の飲みすぎが、ALTよりもASTの数値が低ければ糖質のとりすぎが疑われます。
γ(ガンマ)-GTP 理想値:男性10~50 IU/L 女性10~30 IU/L
アルコール性肝障害、糖質のとりすぎやストレスによって、肝臓や肝臓から十二指腸までの胆汁の通り道に異常があると数値が上昇。
200を超えるとアルコール性脂肪肝の可能性大です。
アルブミン 理想値:4.5g/dl以上
栄養素を運搬する役割を担う血液中のタンパク質。
不足すると筋肉や血管を十分に作ることができなくなり、脂肪を燃焼する力も弱くなります。
[上の写真は、この連載の担当編集者Kが半年前に受けた人間ドックの「肝機能検査」の数値。「今までは判定欄のところだけしか見ていませんでしたが、今回この連載を担当し、初めてALTやAST、γ-GTP、アルブミンといった各項目の数値をじっくりとチェックしてみました。判定がAだったので安心していたのに、栗原先生の基準でいえば、すでに脂肪肝になっている可能性が大…かなりショックです」]
美肌、脂肪燃焼、老化予防をかなえる「アルブミン」に注目!
ところで、上記の肝臓の検査値項目の中で、「アルブミン」という数値にも注目してください。
アルブミンは栄養素を運搬する役割を担う血液中のタンパク質。
脂肪を燃焼させる働きもあります。
アルブミンは筋肉などの体の組織の維持、強化に欠かせない成分。
アルブミン値が高いのは元気な証拠。
低すぎる場合は、体の機能が弱っているということです。
また、アルブミン値が低い、体が弱った状態で運動しても逆効果で、筋肉量は増えません。
血液中のアルブミン値が増えると、栄養素が必要な場所に届くようになり、筋肉が増え、中性脂肪や内臓脂肪を消費して減らすことができるようになります。
また、必要な栄養素が全身に行き渡るようになるため、肌も生き生きして、アンチエイジングにもつながります。
こうした血液中のアルブミンの値を効率的に高めるのが動物性タンパク質。
タンパク質の理想の摂取量は体重1kgにつき、1g。
体重60kgの人であれば、1日に60g摂取するのが望ましいです。
糖質に偏った食事は改め、積極的にタンパク質摂取を心がけましょう。
ダイエットに成功した人の数値の変化をチェック!
私の指導によって食生活を改善し、脂肪肝を解消すると同時にダイエットも成功させた人たちの実例を見ていきましょう。
肝臓の状態を示す数値がよくなるのに伴って、体重や内臓脂肪が減少していることがわかります。
〈実例1〉
半年後には体重がマイナス11kgになったA子さん(40代・女性)
肝臓の数値が改善し、糖尿病も改善
●中性脂肪
(理想値は5~16 IU/L)
スタート時 108
1カ月後 94
2カ月後 77
●HbA1c
(糖尿病の目安となる数値。理想値は5.5%以下、6.5%以上は糖尿病と診断される)
スタート時 8.4
1カ月後 6.3
2カ月後 5.9
●ALT(GTP)
(脂肪肝の目安となる数値。理想値は5~16 IU/L)
スタート時 25
1カ月後 21
2カ月後 16
糖尿病で来院したA子さん。
甘いものが大好きでしたが、栗原先生の指導により食生活を改善し、2カ月後には中性脂肪値、脂肪肝の目安であるALTが減少。
糖尿病を判定する目安になるHbA1cも糖尿病と診断される判定値を下回りました。
そして、半年後には体重が11kgもマイナスに
〈実例2〉
美肌をかなえたB子さん(40代・女性)
アルブミンの数値がアップ!
ツヤツヤの美肌も手に入れる!
健康診断で、「血糖値が高い」と指摘され、やってきたB子さん。
血液検査をしてみたところ、糖尿病の診断に用いる検査値(HbA1c)が基準値をオーバー。
さらに、アルブミン値が低いことがわかりました。
そこで、栗原先生の指導により食生活を改善。
なんと3カ月で大きな変化が!
●AST
スタート時 38
3カ月後 13
●ALT(GTP)
(脂肪肝の目安となる値。理想値は5~16 IU/L)
スタート時 33
3カ月後 16
●γ-GTP
(アルコールや脂質のとりすぎによる肝臓障害の目安。女性の理想値10~30 IU/L)
スタート時 32
3カ月後 24
●HbA1c
(糖尿病の目安となる数値。理想値は5.5%以下。6.5%以上は糖尿病と診断される)
スタート時 9.7
3カ月後 5.9
●アルブミン
(栄養素を運搬する血液中のタンパク質の量。理想値は4.5 g/dL以上)
スタート時 3.8
3カ月後 4.5
ダイエットに成功し、美肌を実現したこれらの女性たちは、栗原先生の指導で、肝臓の脂肪を落として、内臓脂肪を落とすメソッドを実践しました。
栗原先生の指導は、すぐに実践できて簡単、効果抜群。
食事、運動、生活習慣など、あらゆる角度からアドバイスしてくれます。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/瀬戸由美子