【教えていただいた方】
栗原クリニック東京・日本橋院長。 医学博士。北里大学医学部卒業。慶應義塾大学大学院教授、東京女子医科大学教授を歴任。2008年、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした、栗原クリニック東京・日本橋を開院。おもな著書に、『図解で改善! ズボラでもラクラク! 1週間で脂肪肝はスッキリよくなる』(三笠書房)、肝臓専門医の視点を生かし、肝臓病や糖尿病、高脂血症などの「生活習慣病」の治療に従事。薬に頼らない改善方法を
こんにちは。
僕はあなたの右脇腹にいつもひっそりといるカンゾウ(=肝臓)です。
僕の仲間である、皆さんのカンゾウは元気でしょうか?
以前は、肝臓が悪い人…というと、大酒飲みの男性というイメージがあったようですが、最近ではどうやら、更年期世代の女性にも、余分な脂肪が蓄積した「脂肪肝」の人が多いということがわかってきたようです。そして、それが「肥満」の原因になっていることも多いのだとか。
というのも、この年代の女性はおにぎりや菓子パン、うどんなどで、食事を簡単にすませてしまうという人が多く、こうした食品には糖質が多く含まれているため、「糖質の過剰摂取」になりやすいからなのです。
また、こうした糖質に偏った食品を多く食べていると、どうしても「タンパク質」不足に陥りやすいという点も問題です。
なぜなら、タンパク質が不足すると、筋肉が衰えて基礎代謝がダウン。
脂肪が燃えにくい体になって、どんどん太りやすい体質になってしまいます。
筋肉の材料になるのはタンパク質
さらに、タンパク質は筋肉や肌、髪、など、体のあらゆる部分を構成する材料になる成分。
不足すると、肌や髪のトラブルにつながります。
タンパク質を積極的にとることで筋肉量が増えると、基礎代謝が上がって、脂肪が燃えやすい体になると同時に、肌や髪も健康になります。
実は僕、カンゾウではこうしたタンパク質の代謝も行っていて、食べ物から摂取したタンパク質から「アルブミン」と呼ばれる成分を作っています。
このアルブミン値が低いとタンパク質不足と診断されます。
ところで、筋肉量を増やすには、食事だけではなく運動もとても大切ですが、アルブミン値が低い状態で筋トレをしても効果が上がらないばかりか、逆効果になってしまうんですよ。
健康診断の肝臓機能の検査結果では、このアルブミンの数値も示されるので、ぜひチェックしてください!
今日は、僕、カンゾウとタンパク質の関係について、肝臓の専門医であり、メタボリックシンドロームや糖尿病などの生活習慣病の予防と治療を目的とした診療を長年続けている栗原毅先生に、教えてもらいましょう。
筋肉量アップ、美肌を目指すならアルブミン値をチェック
カンゾウ君からバトンタッチした、肝臓専門医の栗原と申します。
私は長年、脂肪肝などの肝臓病、メタボリックシンドローム、糖尿病の患者さんの治療にあたってきましたが、今回は、カンゾウ君から指名を受け、タンパク質と肝臓の関係、そしてそれがダイエットや美肌とどう関係しているのかをお話しします。
肝臓の検査結果で示される「アルブミン」とは、血液中に含まれるタンパク質のこと。
アミノ酸(タンパク質を吸収しやすいように分解したもの)などを運搬する役目を持ちます。
アミノ酸は筋肉、血管、髪や皮膚などの材料になります。
アルブミン値は血液検査で調べることができます。
アルブミン値と体の関係は大まかにいうと、以下のようになっています。
〈アルブミンの値…体の状態〉
~3.6(g/dl)…体の機能が衰弱する
~4.1(g/dl)…新型栄養失調
~4.4(g/dl)…筋肉が増え始める
~4.6(g/dl)…肌がつややかになる
~4.7(g/dl)…髪が元気になる
~4.8(g/dl)…爪がきれいになる
~5.0(g/dl)…表情が生き生きとする
5.0~(g/dl)…理想
アルブミンが不足すると栄養素が必要とする部位に運ばれにくく、貧血や免疫力の低下、筋肉や骨の弱化など「新型栄養失調」といわれている症状が出始めます。
新型栄養失調とは、昔の栄養失調のような「十分な食事が得られず、必要な栄養が不足して痩せ細った状態」とはまったく異なります。
摂取カロリーは過多でどちらかといえば肥満傾向なのに、タンパク質やビタミンやミネラルなど、体の健康を維持するために不可欠な栄養素が不足しているために、不調に陥っていることをいいます。
この状態で運動しても逆効果で、筋肉が鍛えられないばかりか、逆に弱ってしまいます。
アルブミン値が4.5(g/dl)以上になると、筋肉がしっかりして、肌や髪、爪がきれいに整った状態になるので、まずは4.5(g/dl)以上を目標にしましょう。理想は5.0(g/dl)以上です。
肉、魚、卵などの動物性タンパク質を積極的に!
それでは、毎日どのくらいの量のタンパク質を食事からとればよいのか。
タンパク質の1日当たりの摂取量は、体重1kgにつき、1gが理想です。
つまり、体重が50kgの人であれば50gと考えましょう。
また、タンパク質には動物性と植物性がありますが、まず、積極的にとりたいのが、肉・魚・卵などの動物性タンパク質です。
なぜなら、動物性タンパク質のほうが100gあたりの含有量が多く、効率よくタンパク質を摂取できるからです。
肉は100gあたり、20g程度のタンパク質が含まれています。
肉の種類は、牛でも豚でも鶏でもOKです。
また、卵は1個につき12g程度のタンパク質が含まれています。
手軽に調理でき、冷蔵庫にストックしておけるのでおすすめです。ゆで卵を作って冷蔵庫に常備しておくと、朝食やおやつにも食べられてよいでしょう。
なお、以前は「卵は1日に1個以上食べるとコレステロール値が上昇するので控える」といわれていましたが、これは誤りです。
卵の食べすぎは心配しなくて大丈夫です。
また、サバ、サンマ、イワシ、アジなどの青魚はタンパク質が豊富なうえ、「中性脂肪を減らす」「善玉コレステロールを増やす」「悪玉コレステロールを減らす」などの働きをもつ、DHAやEPAが含まれています。
DHAは脳の神経細胞を活性化する効果が注目されていますし、EPAは血液・血管の健康維持に効果的とされています。
ぜひ、積極的に青魚を食べて、タンパク質と同時にこれらの成分をとりたいものです。
魚は調理が面倒ということで、家ではあまり食べない方もいるかもしれませんが、サバ缶をはじめとする缶詰なら調理も簡単で、どこでも入手できて値段も手頃。
また、これらの成分は酸化しやすいという弱点もありますが、缶詰ならフレッシュなうちに加工されているので、酸化の心配もありません。
大豆製品も取り入れるとより効果的
効率よくタンパク質を摂取できるのは動物性タンパク質ですが、大豆製品もタンパク質以外にも機能的な成分が多く含まれ、中性脂肪を減らすのに効果的なので、上手に組み合わせるとよいでしょう。動物性6:植物性4くらいの割合が目安に。
例えば、豆腐であれば100gに含まれるタンパク質は絹ごし豆腐で5.3g、木綿豆腐で7g。
納豆は1パックで7~8gのタンパク質が含まれます。
大豆には、タンパク質のほかにも、大豆イソフラボン(高い抗酸化作用で老化を予防)、大豆サポニン(脂肪の代謝を促して肥満を予防)、食物繊維(糖の吸収を緩やかにする)、大豆オリゴ糖(腸内環境を整える)、脂質(血流を改善して健康を維持する)などが含まれます。
なお、植物性タンパク質は吸収がよくないですが、動物性タンパク質と組み合わせることで、吸収率がアップします。
例えば、納豆に卵を加えるというのは、よい組み合わせといえますね。
タンパク質のとれる食材を常に常備して、忙しいときも、糖質に偏った食事にならないように心がけましょう。
イラスト/内藤しなこ 取材・文/瀬戸由美子