体内時計のリズムを整えると、更年期の不調がラクになる
「これまでの研究データから、『時間栄養学を取り入れた食生活を始めると、1週間ほどで体重が1~2㎏減る人が多い』とお話ししましたが、実は、『朝食でタンパク質をとる』『夕食の2時間前に、食物繊維と糖質を含んだものを間食する』『夕食では糖質を控えめに食べる』という3つのポイントを実践していただくと、『体の調子が整った』と感じる人が多いんですよ」と古谷彰子先生。
前回は、18人の女性被験者(40代~50代前後)に、夕食の2時間前にミックスナッツとドライフルーツを4週間にわたって毎日間食してもらう実験を行ったところ、『唾液中の女性ホルモン濃度(エストロゲン、プロゲステロン)が上昇して、ホットフラッシュの症状が軽減された』という研究データを紹介しました。
「そもそも私たちの体内には、昼夜の変化に合わせて体内の環境を変える体内時計があり、朝起きると体温が上がって覚醒し、夜になると眠くなるホルモンが分泌されるという活動リズムがあります。そして、これらのリズムは自律神経とも連携しています。
女性ホルモンの分泌量が減少する更年期は自律神経が乱れやすく、排便や睡眠のトラブル、動悸、ほてりなどの不調が起こりやすくなります。でも、時間栄養学を取り入れた食生活を続けると、自律神経の乱れが改善され、排泄リズムが整うようになったり、睡眠の質がよくなったりするんです。体内時計を整えることが、更年期の不快症状の改善にひと役買っているのではないかと思います」(古谷彰子先生)
腸活に効果的な水溶性食物繊維は、朝食でとるのがベスト
腸内環境が良好かどうかを判断する目安は、「お通じがスムーズかどうか」ということ。便秘がちな人は腸活の第一歩として、食物繊維をとることを心がけましょう。
食物繊維には、水に溶けてゲル状になり、糖質の消化スピードを緩やかにする「水溶性食物繊維」、水に溶けずに便のかさを増やしたり、大腸の粘膜を刺激してぜん動運動を促す「不溶性食物繊維」があります。
「水溶性と不溶性の両方をバランスよくとることが必要ですが、実は、腸内環境を整えてくれるビフィズス菌などの有用菌(善玉菌)は水溶性食物繊維が大好物。そして、有用菌が水溶性食物繊維をエサとして食べたときに作られるのが、腸内環境を整えてくれる〈短鎖脂肪酸〉という代謝物です。短鎖脂肪酸は夜よりも朝のほうがたくさん作られるので、水溶性食物繊維は朝とるのがベストなんです」
短鎖脂肪酸は便通をよくして腸内環境を整えるほか、糖やコレステロールの吸収を抑える作用が期待できるなど、近年の研究で、健康に役立つ働きをすることが注目されています。
腸内環境を整える短鎖脂肪酸を生み出す食べ物は?
では、どんなものを食べると短鎖脂肪酸を腸内で増やし、腸内環境をよくすることができるのでしょうか。
古谷先生によれば、水溶性食物繊維を豊富に含む食品は、モロヘイヤや海藻類などのネバネバした食品、シリアルにも含まれる大麦やオーツ麦なのだそう。
「第7回の間食の食べ方実践編で、『フルーツグラノーラは夕食の2時間前に食べるのがおすすめ』とお話ししましたが、朝食でとるのもいいですよ。以前、小学生の子どもたちを朝型と夜型のグループに分けて、『いつもの朝食にフルーツグラノーラをプラスする』という実験を行ったところ、夜型の子たちが『わずか1週間で平均11~15分早起きになり、便秘が改善した』という結果が出ました。この実験は小学生が対象でしたが、更年期世代の女性にも同様の効果が期待できると思います」
また、古谷先生が「水溶性食物繊維と一緒にとってほしい」という、もうひとつの栄養素がマグネシウムです。
「マグネシウムは魚類や海藻類などの海のもの、ナッツ類、バナナなどに豊富に含まれています。海藻類は水溶性食物繊維とマグネシウムを両方とることができますし、朝食にアーモンドミルクをプラスしたり、ヨーグルトにバナナを入れるのもいいですね。

実は、水溶性食物繊維とマグネシウムを併せてとることによって、〈酪酸〉という短鎖脂肪酸が腸内で作られることがわかっています。水溶性食物繊維とマグネシウムを含む食品は、『朝こそ、おすすめ』というわけです」
そのほか、乳酸菌を含むヨーグルトやキムチ、納豆菌を含む納豆などの発酵食品も、日々の朝食に取り入れるとよいでしょう。
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朝食でタンパク質をとると、脳内で眠りを促すホルモン物質が作られる!
次は睡眠のお話です。
夜眠くなってぐっすりと眠るには、メラトニンという〈眠りを促すホルモン〉が必要です。もしも寝つきが悪く、朝の目覚めが悪い日が続くときは、メラトニンが不足しているのかもしれません。
「夜、メラトニンを分泌させて睡眠の質を高めるには、『起床直後に目の中に光を入れること』と『朝食を食べて体内時計をリセットすること』が肝心。というのも、メラトニンは起床後、体内時計がリセットされた時点から約14時間後に脳から分泌されるホルモンだからです。そして、このホルモンはタンパク質から作られています。つまり朝食でタンパク質をとることによって、メラトニンが夜作られるのです」
メラトニンの材料となるトリプトファンは、タンパク質の元となる必須アミノ酸の一種。牛乳などの乳製品や大豆製品、穀類、バナナなどに豊富に含まれています。まずはトリプトファンを材料として、精神を安定させるセロトニンというホルモンが作られ、日中はセロトニンが働きます。そして夜を迎える頃に、セロトニンからメラトニンへと変化する仕組みがあるのです。
「トリプトファン→セロトニン→メラトニンへと変化する頃には夜になってしまうので、夜眠りやすい体をつくるためにも、朝起きたら目の中に光を入れて体内時計をリセットすることが大事ですし、起床後1~2時間以内に朝食を食べて、メラトニンの材料となるトリプトファンを補給する必要があるのです」
★トリプトファンが豊富に含まれている食品は?
・牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品
・豆腐、納豆などの大豆製品
・白米、玄米などの穀類
・そのほか、ナッツ類、ごま、バナナ、肉類、魚類など
体内時計を整えるためにも、深夜のスマホはほどほどに
朝すっきり目覚めて、夜ぐっすり眠るためには、就寝前にスマホやタブレット、パソコンのディスプレイを見すぎないことも大事。実は近年、デジタルスクリーンに長時間にわたって接することにより、脳の前頭前野が機能低下を引き起こし、心身に影響を及ぼす「デジタルスクリーン症候群(長時間の画面視聴による脳疲労のこと)」が問題になっています。
「デジタルスクリーンを見すぎると、思考や記憶、集中力、感情や行動のコントロールなどを司っている『前頭前野』の血流が低下してしまうんです。すると体内時計の乱れやメラトニンの分泌量の低下を招き、それによって、イライラする、うつっぽくなるなどのメンタル不調にもかかわっているのでは? と言われています。
せっかく時間栄養学を取り入れた食事を心がけても、就寝前にデジタルスクリーンを見すぎると、脳が覚醒して寝つけなくなってしまいがち。体内時計を整えて、睡眠の質を高めるために、私自身も就寝前にはデジタル機器を控えるようにしています」
【お話を伺った方】

愛国学園短期大学准教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構招聘研究員、アスリートフードマイスター専任講師、発酵料理士協会特別講師として勤務するかたわら、ChronoManage代表として起業。「時間」という観点から、医学・栄養学・調理学の領域にアプローチする時間栄養学を研究。科学的根拠をもとにした生活アドバイスや栄養指導、実体験をもとにした講演活動や食育活動、料理教室も開催している。経験と研究で得た確かなデータに基づく論文が好評。著書に『決まった時間に起きて食べるだけ 10時間空腹リセットダイエット』(主婦の友社)など。
イラスト/かくたりかこ 取材・文/大石久恵


