いし 大変なことになった2020年も、残り3カ月となりました。みなさん、お元気ですか?
相変わらずのらくらしているぐうたらライターのいしまるこです。
根来 ご無沙汰しています。根来秀行です。本当に大変な状況が続いていますが、僕も連日のように、ハーバードとやりとりして、普段の仕事に加えて、新型コロナ解明にも励んでいます。
いし 全人類のために、是非ともよろしくお願いいたします!
ところで、最近はマスクもつけなくちゃいけないし、まったく息苦しいですねえ。
根来 では、その息苦しさから脱却するために、今回のテーマは「呼吸年齢を若く保つ!」でいきたいと思います。
いし それって、呼吸も歳とともに老けるってことですか!?
根来 そうですよ。「呼吸」でみなさんがイメージするのは、息によって肺の中の空気を出し入れする「肺呼吸」だと思いますが、細胞レベルでも呼吸が行われています。
いし 根来教授の著書で注目されつつある「細胞呼吸」ですね!
根来 体には約60兆個もの細胞があり、そのひとつひとつにミトコンドリアが存在します。ミトコンドリアでは、酸素を使って栄養を燃焼させ、エネルギーを生み出し、その際に出た二酸化炭素や老廃物を排出しています。これを「細胞呼吸」と言いますが、この「細胞呼吸」こそ、呼吸の真の目的なんです。
いし 大ヒット漫画『鬼滅の刃』に出てくる必殺技の呼吸法も、細胞呼吸のメカニズムに基づいているという噂を聞きましたが!?
根来 じつは僕も、いろいろな方からご指摘を受けて『鬼滅の刃』を読んでみたのですが、僕の著書『細胞呼吸レッスン』にも通じる内容で驚きました。
『ハーバード&ソルボンヌ大学Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』を担当した編集のすぎさんもつぶやいています
根来 細胞呼吸は生きるためのエネルギーを生み出す根幹ですから、鬼滅の刃の剣士とまではいかなくても、細胞呼吸がスムーズであるほど、活力に満ちた生き方ができるといっていいと思います。
いし おおおっ! 希望が持てます!
根来 ただ、年とともに、細胞呼吸の効率は低下していきます。
いし あああぁ…。
根来 ミトコンドリアの新陳代謝が低下してガス交換やエネルギー産性効率が落ちたり、呼吸筋が弱って肺呼吸の効率が落ちたり、毛細血管が衰え、細胞呼吸の材料となる酸素や栄養が細胞に届きにくくなったりするのです。
細胞呼吸の現場「ミトコンドリア」
ミトコンドリアは細胞の中にある小器官。栄養と酸素を取り込んでATPというエネルギーのもとを作り出し、水と二酸化炭素を排出します。ATPは「エネルギー通貨」とも呼ばれる通り、熱エネルギーや運動エネルギーなど各細胞のミトコンドリアで必要なエネルギーに変換されて使われます。ミトコンドリアの内膜に囲まれたマトリックスという領域にはDNAがあり、ミトコンドリア独自の遺伝子情報が保管されています
いし ミトコンドリアに酸素をためておけないんですか?
根来 それは無理。ですから、細胞呼吸は休みなく行われ、エネルギーのもと「ATP」を作り続けているわけです。ところで、ATPは1日にどのくらい作られると思います?
いし うーん、ペットボトル2本分くらい?
根来 いえいえ、ATPは1日に自分の体重ほども作られるんですよ。
いし えっ、そんなに必要?
根来 ATPもためておけないし、体の中の活動は何をするにもエネルギーが必要だから、すぐに消費されてしまうんです。1日の消費エネルギーの6〜7割は基礎代謝に使われますし、遺伝子が傷つくこともあって、その傷を治すにもエネルギーが必要です。
いし じゃあ、ミトコンドリアにはガンガン働いてもらわないと!
根来 ただ、細胞呼吸の過程で酸素の約1〜2%は毒性の高い活性酸素(フリーラジカルの一種)に変異するんですよ。だから、ミトコンドリアのエネルギープラントの稼働率が上がるほど活性酸素も出ますよね。
いし なんというジレンマ…。
根来 活性酸素を除去する酵素やホルモンも、40代には半減しますしね。
加えて現代人のストレスフルな生活習慣が活性酸素を大量発生させ、細胞の酸化に追い打ちをかけます。すると細胞膜の脂質が酸化し、細胞の機能が低下。栄養の取り込みと老廃物の排出のどちらも滞ってしまいます。
根来 細胞呼吸が低下した部位では、細胞が酸欠に陥り、働きが鈍くなります。筋肉細胞が酸欠になれば肩こりや腰痛を、肌細胞が酸欠になればシミ、シワ、たるみを招きます。
いし 見た目にも現れると。
根来 脳への影響も大きいです。脳細胞はエネルギーを大量消費するので、5分酸素が止まるだけで細胞が壊死してしまうほど酸欠に弱いんです。
ですから、呼吸を管理している脳の自律神経中枢が酷使され、活性酸素が大量発生すると、脳疲労を引き起こします。脳の疲れは全身に波及し、さまざまな不定愁訴が勃発。体も心も消耗し、気がつくと、つねに調子の悪い疲れた人になっているのです。
いし なってるかも(泣)。
根来 OurAge世代では体内の活性酸素を除去する機能が低下してきているので、喫煙、睡眠不足、過度な運動、ストレスなど、活性酸素を増やすような悪い生活習慣を見直さないと、細胞の酸化が進みます。ダメージが大きくなると、さびた金属のように細胞自体がボロボロになり、早く老け込みますよ。
いし コロナ禍で新しいライフスタイルを求められている今だからこそ、細胞に優しい生活習慣を身につけたいですね。
根来 呼吸の仕方も是非見直していただきたいです。というわけで、次回は細胞呼吸をスムーズにする呼吸の仕方について、お話ししたいと思います。
それではみなさん、今日も素敵な1日を!
(次回は『呼吸のしすぎで細胞が酸欠!? 』です。お楽しみに!)
取材・文/石丸久美子 イラスト/浅生ハルミン