全世界で死者数が増え続けている新型コロナに感染しやすく、重症化しやすい人の共通点は何でしょうか? ハーバード&ソルボンヌ大学医学部・根来秀行教授に詳しく伺いました。
毛細血管にダメージを抱えていて「細胞呼吸」が滞っていることです
新型コロナで重症化するときには、免疫細胞がウイルスと戦うために放出した「インターロイキン6」を中心とするサイトカインが度を越して増えて、サイトカインストーム(免疫の暴走)が起きています。そのため、炎症が広がって、内臓や血管の機能不全を引き起こしてしまうのです (特別講座④参照)。
サイトカインストームは、インフルエンザなど他のウィルスでも起こりますが、とりわけ新型コロナウィルスで起きやすい。その背景のひとつとして、免疫反応を制御する「レギュラトリーT細胞」の機能低下があるのではないかと考えられています。
レギュラトリーT細胞が正常に機能していれば、病原体と闘い終えた免疫細胞はその現場からタイミングよく撤収し、免疫反応が火事のように広がることはありません。
実際に、新型コロナウイルスの重症患者の肺組織のT細胞を対象とした遺伝子解析によって、重症化に特徴的なT細胞の異常が発見され、いわゆるレギュラトリーT細胞が減っていることが判明しました。このことから、新型コロナウイルスはT細胞自体に悪影響を及ぼしている可能性が考えられます。結果的に、免疫システムの制御が効かなくり、T細胞が過剰に反応して、サイトカインストームにつながっているものと推測されるのです。
重症者は腸内環境が乱れていた!
一方、腸には免疫に関係する細菌が多く生息し、免疫機能に大きく関与しています。
腸内環境が悪化していると、免疫機能が低下します。
実際、重症者では腸内フローラのバランスがより大きく崩れていたことが報告されています。
そして、腸内環境を乱すのは生活習慣の乱れです。
新型コロナによる死者数は、日本に比べて欧米で極端に多いことは周知の事実ですが、その理由のひとつに肥満が挙げられています。肥満率を見ると、米国36.2%、英国27.8%、イタリア19.9%、中国6.2%、日本4.3%と一目瞭然。
コロナの重症者の多くに高血圧や糖尿病、心疾患が見られましたが、肥満はまさにそれらの引き金になります。
そもそもこれらの生活習慣病がある人は毛細血管が劣化していて、細胞を取り巻く「内部環境」が悪化しています。内部環境が悪化すると、酸素と栄養素からエネルギーを生み出す「細胞呼吸」が滞り、免疫機能も低下するため、感染しやすく重症化しやすいのです。
また、新型コロナウイルスは、「ACE2受容体」を介して細胞内に侵入します。
そのため、ウイルスの窓口となるACE2受容体を多く発現していると、新型コロナウイルスが細胞に入り込んで、増殖しやすくなります。
実は、ACE2容体は、血圧のコントロールに重要な役割を果たしていて、生活習慣病の危険因子を持つ人には、ACE2受容体が多く発現します。つまり、ACE2受容体が多く発現するようなリスクファクターのある人々では、新型コロナウィルスに感染しやすく、重症化しやすいということになります。
軽症であっても、毛細血管の内皮細胞にあるACE2受容体から新型コロナウイルスが入り込み、炎症を起こし、周辺の血流を悪化させて血栓を作ったり、免疫細胞が運ばれにくくなったりすることで、何らかの後遺症につながりえます。
疲れや息苦しさ、味覚や嗅覚の異常、脱毛などの後遺症を訴える人も少なくありませんが、これらは毛細血管のダメージによる影響が少なくないと考えられます。
全身的な毛細血管の回復には生活習慣を見直し、細胞呼吸を促すことが必須です。
こもりがちでコロナ太りになった人は、ぜひ筋トレと有酸素運動を。
併せて行うことで、筋肉細胞が大量に酸素を欲し、それに応えて毛細血管が生み出されます。5分筋トレ+15分ウォーキングでもOKです。そして、適宜「4・4・8呼吸法」も忘れずに(南果歩さんも挑戦! 連載第106回参照)。これらはコロナうつの予防にもつながります。
根来秀行さん
Hideyuki Negoro
1967年生まれ。医師、医学博士。ハーバード大学医学部PKD Center Visiting Professor、ソルボンヌ大学医学部客員教授、奈良県立医科大学医学部客員教授、杏林大学医学部客員教授、信州大学特任教授、事業構想大学院大学理事・教授、社会情報大学理事。専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など。最先端の臨床・研究・医学教育の分野で国際的に活躍中。本連載から生まれた『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業「毛細血管」は増やすが勝ち!』『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』(ともに集英社)が好評発売中
撮影/森山竜男 イラスト/浅生ハルミン 取材・原文/石丸久美子