慢性疲労症候群【筋痛性脳脊髄炎(きんつうせいのうせきずいえん)】
私がお答えします!
国立精神・神経医療研究センター神経研究所 免疫研究部部長
山村 隆さん Takashi Yamamura
同センター病院 多発性硬化症センター センター長も兼任。免疫性神経疾患の臨床・研究では日本のみならず世界もリード。医師主導治験による新薬開発にも尽力
相談
新型コロナウイルス感染の後遺症として、最近この病名を聞いたのですが、どんな病気なのでしょうか?
答え
日常生活が送れないほど、重度の疲労感が長期間続く、ウイルス感染後に起こることが多い、つらい病気です。
疲労感と思考力の低下などがおもな症状…新型コロナの後遺症でも発現しています。
疲れがたまることは、誰にでもあることです。しかし、この病気の疲労感は、そうしたものとはまったく質の違うものです。とにかく、体中のエネルギーが枯渇して、通常の生活ができなくなるのです。
そして、少し調子がいいからと活動を再開すると、また元に戻ってしまい、それを繰り返すのが大きな特徴です。正式な病名は「筋痛性脳脊髄炎」といいます。
代表的な症状には、まったく眠れない、逆に長時間寝続ける、つねに眠い…といった「睡眠障害」、見聞きするもの、読んでいるものが頭に入ってこないブレインフォグと呼ばれる、著しい「思考力の低下」があり、立っても座ってもいられず、1日20時間以上をベッドで過ごす人もいます。
そのほか筋肉や関節の痛み、体温調節がうまくできない、音や光への過敏な反応などが起こる場合もあります。
発症は突発性で、ウイルス感染をしたあとに多く、最近では、新型コロナウイルス感染の後遺症として発症報告が増えています。
この病気のもうひとつのつらさは、症状の発現に個人差や日による違いがあり、一般内科での検査では、異常が見つからないことが多いため、家族や職場などのまわりの人から「怠けているだけ」と、理解してもらえないことです。
診断は、特徴的な症状が6カ月以上持続、または繰り返すこと。そして他の病気の可能性を除外したうえで、睡眠検査、副腎機能不全検査などを行うことも。これらを熟知した医師でないと診断が難しいため、受診は慢性疲労症候群の専門外来か総合診療科がいいでしょう。
現時点では根治的な治療法はなく、自分で適切な休息を心がけ、医療機関でも対症療法が中心です。症状に応じた薬物療法、漢方薬、ビタミンC、ビタミンB12、抗酸化のサプリメントなど。「認知行動療法」が行われることもあります。
今までは未知の病のイメージでしたが、最近、患者群のB細胞(免疫を担うリンパ球の一種)の受容体に特徴的な異常がみられることがわかり、これが診断に役立つ可能性が。また、根治に役立つ新薬も開発中で、あと少しで治験に入る段階です。
ここ数年で研究が急速に進んでおり、近い将来、いい治療薬が登場するはず。積極的に情報収集をするなどして、あきらめないことが何より大事です。患者会と連絡をとり、同じ悩みを抱えた人と話したり、情報交換をするのも有意義でしょう。
自分で行う対策
- ●安静を心がけ、無理をしない。
- ●ストレスをためず、質のいい睡眠をとり、栄養バランスのいい食事を心がける。
病院で行う治療法
- ●認知行動療法、痛み、抑うつ、不眠などの対症療法として薬物療法、サプリメント療法。
イラスト/macco 取材・原文/山村浩子