突発性難聴
私がお答えします!
JCHO 東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長
石井正則さん Masanori Ishii
専門は神経耳科(難聴・めまい・耳鳴り)、内視鏡下鼻内手術、航空宇宙医学、心療耳鼻咽喉科、動揺病・宇宙酔い。ヨガのインストラクターでもある
相談
朝起きたら、突然、耳が聞こえにくくなりました。これが突発性難聴というものなのですか? 原因はなんですか?
答え
原因は不明です。血流障害やウイルス感染とも考えられていますが、まだはっきりしたことはわかっていません。
ある日突然、なんの前触れもなく片方の耳の聞こえが悪くなる病気です。
私たちの耳は、加齢に伴って体力が低下するのと同じように、聴力も落ちていきます。これが加齢性難聴で、10年、20年かけてゆっくりと進行します。
一方、突発性難聴はある日突然、なんの前触れもなく発症するのが大きな特徴です。突発的に発症した感音(かんおん)難聴(内耳の聴神経で起こる難聴)のうち、原因がはっきりしないものを突発性難聴と呼んでいます。
日本では年間1万人に1~3人ぐらいの割合で発症し、特に40代~60代の働き盛りの男性に多いのですが、近年は女性にも増えており、患者は増加傾向です。
ある日、朝起きたら突然、テレビの音や電話の声が聞こえにくくなる…、また発症の直前に、耳鳴りやふらつきが出ることもあります。
誘因は過度の疲労やストレス、慢性的な寝不足、生活習慣病などによる血流障害、内耳部分のウイルス感染などといわれていますが、実のところ、はっきりわかっていません。
突発性難聴には症状が似た疾患が多くあるので、問診や聴力検査、MRI検査などを必要に応じて行い、診断していきます。中には、聴こえにくい理由がたまった耳垢だったというケースもあります。
突発性難聴のもうひとつの特徴は、難聴やめまいなどの症状が一度しか起こらないことです。何度も繰り返すようならメニエール病が考えられます。また外(がい)リンパ瘻(ろう)という、内耳の窓に穴があく疾患なら、緊急手術が必要です。
聴力低下の程度は人によって違い、軽症の場合は通院しながらの治療も可能ですが、重度の場合は入院がすすめられます。ステロイド剤や血液の循環をよくする薬、ビタミンB12製剤などを内服、もしくは点滴で投薬していきます。
患者側が気をつけることは、疲労がたまると治りにくいので、十分な休養と睡眠をとることです。
この病気の治療効果は、聴力が「完全に戻る」「まったく戻らない」「その中間で、ある程度戻る」に分けられます。中には「耳の狭心症」と表現する医師もいるほど。決して放置していい病気ではありません。
治療は発症から遅くとも1週間以内に始めること! 以前は2週間くらい様子を見ましょう、という時代もありましたが、発症から2週間以上経過してしまうと、聴力が戻らなくなる確率が高まります。
症状を感じたら、すぐに耳鼻咽喉科を受診して、一刻も早く治療を始めることが、何より重要です。
自分で行う対策
- ●睡眠をしっかりとって、疲れや精神的ストレスをためない。
- ●聞こえにくいと思ったら、すぐに専門医を受診する。
病院で行う治療法
- ●内服や点滴の薬物療法(ステロイド剤、血管拡張薬、ビタミンB12製剤、代謝促進薬など)。
イラスト/macco 取材・原文/山村浩子