繰り返しやってくるコロナの波。のみ込まれないためには、ともかく免疫機能を高めること。ハーバード大学&ソルボンヌ大学医学部客員教授・根来秀行さんが、免疫システムを支える「ミトコンドリア」を増やす歩き方を研究していると聞きつけ、ぐうたらライター・いしまるこが詳しく教えてもらいました。
ミトコンドリアが元気=免疫力が高い状態
いし 第7波の感染力は爆発的でしたね。第8波もやってきて、年末にかけてどうなることやら。
根来 第8波は第7波を超える可能性もあるので、引き続き注意が必要です。
いし ワクチン4回打ってもすぐ感染したり、接種後、具合が悪いという声もけっこう聞きましたけど。
根来 オミクロン株対応のワクチンも、感染予防効果は以前ほど期待できない可能性があります。接種回数を重ねるほどに免疫機能が低下して、副反応のリスクが高くなる可能性も否定できません。ワクチンの効果を過信せず、免疫機能を高める努力が必要ですね。
いし 免疫力って個人差が大きいんですよね。いったいどこで差がつくんですか?
根来 ズバリ、細胞内のエネルギー工場であるミトコンドリアです。
いし 根来教授の研究テーマのひとつ、「細胞呼吸」の現場ですね!
根来 そのとおり。ミトコンドリアは、酸素と栄養素からエネルギーのもとになる物質「ATP」を生み出す細胞呼吸によって、生命活動に必要なエネルギーを作り出してくれているんです。
いし ミトコンドリア様々(さまさま)ですね。
根来 様々(さまさま)なんです。ミトコンドリアの働きがいいと、細胞呼吸がスムーズに行われ、ATPをじゃんじゃん産生するので、免疫細胞も十二分にエネルギーをチャージでき、しっかり働いてくれます。
いし 免疫力が高い状態ですね!
根来 はい。一方、ミトコンドリアの働きが悪いと細胞呼吸が低下し、ATPの産生効率が落ちて細胞がエネルギー不足になります。
いし それが免疫力が低い状態?
根来 ですね。免疫細胞がウイルスなどの病原体と戦うときには、大量のエネルギーが必要ですから、ミトコンドリアがちゃんと機能しないと、ATPの産生が間に合いません。結果、ウイルスに感染しやすくなったり、重症化につながってしまうんです。しかも、ウイルスはなかなか賢くて、細胞に侵入すると、まずミトコンドリアを攻撃してくるんですよ。
いし ひゃあ〜、本丸をわかってる!
根来 ATPを作れないように特別なタンパク質を作るための遺伝情報を打ち込んで、細胞呼吸の効率を落としにかかるんです。
いし 策士ですねえ。新型コロナなんてサバイバル能力が高いから、ミトコンドリアが弱ってると、簡単に免疫システムをやられそう。
根来 ミトコンドリアの働きが落ちると、細胞呼吸の過程で毒性の高い活性酸素を量産してしまい、体の各所で局所的な炎症が起きやすくなるんです。すると、免疫細胞はそこの修復に力を奪われ、免疫機能が低下してしまう。免疫細胞自身も、過剰に増えた活性酸素によりダメージを受けてしまいます。
いし ミトコンドリアの働きを低下させるおもな原因は何ですか?
根来 コロナ以降は、外出が減り運動不足に陥ることによって、「赤筋(せっきん)」が衰えていることが大きく響いています。
いし 赤筋って、有酸素運動のときに使われる筋肉ですよね。
根来 はい。有酸素運動で使われる赤筋には酸素が豊富にあるので、細胞呼吸で大量の酸素を必要とするミトコンドリアにとって、絶好の住処(すみか)なんです。赤筋が減れば、当然ミトコンドリアの数も減り、ATP産生工場の稼働率も下がるというわけです。
いし なるほどー。
根来 赤筋を増やすにはウォーキングなど持久力が必要な有酸素運動が有効です。赤筋に酸素がたくさん届き、ミトコンドリアも増殖します。また、赤筋は毛細血管が多く、有酸素運動を行うと酸素や栄養を補おうとして新しい毛細血管も生み出します。毛細血管が増えれば血流もよくなり、免疫細胞が感染部位へ迅速に到着できるようになります。
あとは食事も大事。バランスよく食べながら満腹の7〜8割くらいに量を抑えること。抗酸化食材を積極的にとるといいですよ。
専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など。『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 「毛細血管」は増やすが勝ち!』(ともに集英社)など著書多数
いしまるこ(いし)
締め切り前でもプラプラ散歩しているぐうたらライター。走るのは苦手だけど逃げ足は速い!?
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 構成・原文/石丸久美子