「慢性炎症」は飛び火して別の病気を引き起こす…
根来 糖尿病、メタボ、アトピー性皮膚炎、認知症、躁うつ病、心臓病、脳卒中、がん…、これらの病気はまったく別の病気に見えますよね?
いし はい。診療科も違うし。
根来 ところが、一見無関係な病気の根本に、慢性炎症という共通項があったんです。例えば躁うつ病はセロトニンなどの神経伝達物質の不足によると考えられてきましたが、その上流には慢性炎症があることがわかってきました。
●慢性炎症
全身の臓器などに起きる持続的な弱い炎症。自覚症状は少なく、長く続くと臓器の機能が損なわれます
いし ほーっ。
根来 動脈硬化も、血管の中に過剰な脂質がたまることが原因とされていましたが、その発症や悪化には血管の慢性炎症が関係していることがわかっています。慢性炎症が続けば動脈硬化が進行し、脳で起これば脳梗塞、心臓で起これば心筋梗塞の引き金になります。
いし なるほど。
根来 厄介なのは、炎症は毛細血管を通じて飛び火するんですよ。
いし 全身に張り巡らされている毛細血管が炎症のルートになると。
根来 はい。炎症が長引くと周囲の毛細血管が傷み、そこから炎症性サイトカインが入り込みます。この炎症性物質が血液に乗って全身に運ばれ、弱っている部位に取りついて炎症を起こし、さらなる病気を招くのです。認知症はアミロイドβというタンパク質が脳に蓄積することで発症すると考えられていますが、炎症性サイトカインが脳に運ばれると、アミロイドβが増えることが報告されています。
いし 思わぬところから火の手が上がっているかもしれないですね。
根来 例えば歯周病は歯周病菌による慢性炎症ですが、糖尿病を引き起こすことがわかっています。炎症性サイトカインは血糖値を下げるインスリンの働きを悪化させるため、血糖値が高くなりやすいんです。このように慢性炎症は全身いたるところに広がる可能性があり、さまざまな病気のもとになります。
いし いやだなあ。慢性炎症は老化とも関係していそう。
根来 そうなんですよ。慢性炎症は老化とも密接に関わっています。そのお話は次回に!
いし 聞きたいような、聞きたくないような…。でも、楽しみにしています!
専門は内科学、腎臓病学、抗加齢医学、睡眠医学など。『ハーバード&ソルボンヌ大学 Dr.根来の特別授業 病まないための細胞呼吸レッスン』『ハーバード&パリ大学 根来教授の特別授業 「毛細血管」は増やすが勝ち!』(ともに集英社)など著書多数
いしまるこ(いし)
暑さにも寒さにも弱いぐうたらライター。気候変動の影響か、年々怠けが加速中。
撮影/角守裕二 イラスト/浅生ハルミン 構成・原文/石丸久美子